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観劇日記〜フェイクスピア大阪公演初日〜※ネタバレ注意

※注※
NODA-MAP『フェイクスピア』の観劇記録です。
劇中のセリフや演出について触れています。
観劇予定の方は、ぜひ終演後にお読みください。


開場

2021年7月15日午後7時。『フェイクスピア』大阪公演初日の幕が上がった。

幕が上がる直前の緊張感が好きだ。
客席に流れる音楽が切り替わり、ボリュームが上がる。いよいよかと背筋を伸ばす。
そこから一転の静寂。自分の心臓の音を久しぶりに聴いた。

暗転。ゴクリと唾を飲むよりも早く、一瞬で明転。舞台中央に数名のアンサンブルと、高橋一生さんが立っていた。
あの一瞬で、舞台袖から駆け込んできたのか、奈落から上がったのか?
この場面転換、役者の入れ替わりの魔術を、このあと何度も目にすることになる。
この世なのかあの世なのか、大きな幕が境界を曖昧にする装置となって、入れ替わりのたびに身体に不思議な風が吹き込んでくるようだ。
こうしてラストへ向かって少しずつ引き込まれているのを、この時点で私は気付いてはいなかった。

セリフの応酬

物語前半、役者達は開幕を喜ぶように楽しげに、でも時折緊張も見え隠れしているようにも見えた。
何の繋がりもないような会話が次々と繰り出され、意味があるのかないのか、私が理解できていないだけなのか、頭を引っ掻き回された。
お互いのセリフに思わず吹き出す場面も何度もあり、まるで学生劇団に所属する彼氏の稽古を見にきた彼女の気分だ。
演者も観客も仲間内で、メンバーにしかわからない間合いで笑う。アドリブも、セリフが飛んでもおかまいなし。
あまりに楽しげで嫉妬してしまうほどだった。

声の力

声は、空気を震わせて伝わる。そんな当たり前のことを思い出させてくれた。
だから演劇は強い。声の力。
白石佳代子さんの変幻自在の声。橋爪功さんの太い声、か細い声。
一生さんは、ほんの小さな囁きを、囁きのまま最後列まで響かせる。かと思えば大声で叫び、挙げ句の果てにこだままで自分の声でやってのけた。

さらに驚いたのは、前田敦子さん。アイドルデビューの頃見ていたあの"あっちゃん"が、こんなにも舞台で映えるとは!
低音楽器が轟く中で突如旋律を奏でるトランペットのようだ。

しなやかな身体

テレビや映画でそのスタイルの良さは知っていれつもりだったが、舞台に立つ一生さんは別物だった。
絞り込まれたしなやかな身体。傾斜する舞台を軽やかに駆け回り、憑依が解けた瞬間の演技はゾッとするほど美しい。
終盤の早着替えもお見事だった。上着を脱いだだけで、その瞬間にはもう、この人が誰だったのかを理解させてしまう。

野田さんもまた、ズルい体の持ち主だ。あの体格でなければ、シェイクスピアもフェイクスピアも全く別人になってしまう。
誰よりも楽しんでいるようで、また誰よりも心を配っていた。

白石さんも橋爪さんもまもなく80歳。役者というのは一体どんな鍛え方をしているのか。
一生さんが二人の歳になるまであと40年。
40年後、橋爪さんの役を演じる一生さんを観てみたい。

to be…

物語の核となるテーマについて、私にはまだ語れない。出来事そのものについては、当事者の立場によって大きく意見が分かれるはずだ。
だから私は、自分に引き寄せて見るしかなかった。
思い出すのは亡くなった母のこと。母の遺した言葉のこと。そして、我が子のこと。
私は母のように、子供達になにかを残せるだろうか。渡せているだろうか。

単なる励ましの言葉では決してない、最後のセリフ。
お前はどう生きる?そう、聞こえた気がした。


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