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専門家目線になる漢方薬の使い分け⑤〜月経痛〜

女性の3大漢方薬のご説明が終わったところで、今回は、『月経痛』に対しての3つの漢方薬の使い分けを詳しく見ていきましょう。


月経痛


月経痛は『毎回の月経期あるいは月経前後数日に、主に腹や腰の痛みが起こること(頭・胃・四肢など他の部位が痛むこともある)』と定義されます。

痛みが生じる時期・部位・痛みの性質は、その方の弁『証』と深く関係しています。


痛みが起こる時期


痛みが起こる時期は、大きく分けて

●月経前半(月経前〜月経期間の前半
●月経後半(月経期間の後半~終了後)

に分けられます。

まず、『月経痛』があると相談されたら、まずはどの時期に痛むのかを確認しましょう。続いて、その他の症状を確認していきます。


痛みが起こる時期と『証』との関係


月経前半に痛みが起こる場合の4タイプ


月経前半(月経前~月経期間の前半)に痛みが起こる場合には、何らかの原因で、経血の下流が阻害されていることで起こると考えます。

痛みは激しく、一般的に「刺すような」と表現される痛み であることが多いです。

その経血の流れが妨げられている原因として、
『肝気うっ血』
『寒凝』
『湿熱』
『血瘀』

が考えられ、これが、『証』=体の内部で起こっている状態 に当たります。

『肝気うっ血』タイプ


これは、『加味逍遙散』の適応でしたね。

精神的ストレス、悩み、怒り、緊張、不安などで肝気のはたらきが悪くなり、全身をめぐらす力が弱くなってしまっていることが原因で、胞宮での経血が停滞して痛みが生じている状態です。


肝気うっ血タイプの特徴

✔︎ 月経の前あるいは初日~2日目ぐらいに、はった痛みが生じる
✔︎ 両側の下腹痛が多く、ひどければ胸脇痛や頭痛を伴う
✔︎ 月経の数日前から、イライラ・怒りっぽい・ヒステリック・乳房のはり・腹満などの月経前緊張症があることが多い
✔︎ 月経が来ると軽減もしくは消失する


『寒凝』タイプ



寒冷の環境や寒い時期に寒邪が体内に侵入し、経血を凝滞させて痛みが生じます。陽虚タイプ(体内で熱を十分に作ることができず、年中冷えがあるタイプ)では、寒邪を受けやすいため寒凝を起こしやすいとされています。

このタイプは、『冷え』をなくすことが優先です。
漢方薬でいうと、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)などの適応となります。

冷えが原因の腹痛や月経痛に効果的な『安中散』も痛みがひどいときには良いでしょう。

寒凝タイプの特徴


✔︎ 月経前あるいは、月経の開始時から下腹部の冷えと激しい痛みがある
✔︎ 経血は暗紅で塊が混じる
✔︎ 月経周期の延長(月経周期が38日以上ある)
✔︎ 四肢の冷え
✔︎ 舌の色が紫っぽい
✔︎ 腹部を温めると少し痛みが楽になる


『湿熱タイプ』


辛いもの、味の濃いもの、アルコールなどの摂り過ぎにより、体内に湿熱が生じ、胞宮に停滞して経血がスムーズに流れない状態。
性交時の感染症などにより外因的に起こることもあります。

湿熱タイプの特徴


✔︎ 月経前あるいは月経期に下腹部に熱感をともなった痛みが生じる
✔︎ 経血が粘っこく匂いが強い
✔︎ 月経周期は短縮(20日以内)
✔︎  黄色く匂いが強いおりものが多い
✔︎ 陰部のかゆみや舌苔が黄色い

このタイプでは、体内の余分な熱を覚まし、水滞を除く『茵蔯五苓散』などが適応となります。感染症が原因の場合にはその治療を優先します。



『血瘀』タイプ

体内の多くの原因で、血瘀が生じ、経血がスムーズに流れるのを停滞させるために生じます。瘀血を治療するとともに、その背景にある要因も治療することが大切です。

血瘀タイプの症状

✔︎ 月経初期からの強い下腹部痛
✔︎ 経血の排出が悪い
✔︎ 経血の色は暗紫で塊が混じる(レバー状と言われることも)
✔︎ 血の塊が排泄されると痛みは軽減する
✔︎ 舌は紫暗・瘀斑

血瘀タイプには、『桂枝茯苓丸』でしたよね。
ただ、血瘀タイプでも、経血の量が多い場合には、月経が始まったら桂枝茯苓丸中止しないと、出血しすぎることにもつながりますので注意が必要です。



月経後半に痛みが起こる場合の2タイプ


月経後半(月経期間の後半~終了後):月経によって陰血が出た後、胞宮への栄養供給が不足して空虚になるために生じるもの
痛みは激しくはなく、「しくしく痛む」と表現される痛みが起こります。

基本的に、『虚』しているために、疲れやすい、ふらつきやめまい、食欲不振やだるさなどの『虚弱』の症状を伴うのが特徴です。


『気血不足』タイプ


このタイプは、胃腸が弱く、からだをめぐり経血の元となる、血が作られにくくなったり、からだを動かすためのエネルギー源『気』が不足することにより、気血のめぐりも低下し、月経を担う臓器(胞脈)の滋養が不十分になり痛みが生じるものです。

気血不足タイプの症状

✔︎月経期、あるいは月経後に下腹部がしくしくと痛む
✔︎圧したり、さすると痛みは軽減する
✔︎経血の色は薄く量も少ない
✔︎元気が無い・疲れやすい
✔︎顔色につやがない
✔︎食欲不振
✔︎舌質は淡・脈が弱い

このタイプでは、当帰芍薬散もいいのですが、気血を両方補う『十全大補湯』も良い適応となります。当帰芍薬散だけだと『気』を補う力が弱いので、補中益気湯を合わせても良いでしょう。



『肝腎不足』タイプ

先天的虚弱、慢性病、過労、過度の性生活などにより肝腎を滋養する精血が不足し、月経で経血が排出された後に胞脈を滋養できないために痛みを生じるもの。


『肝腎不足』タイプの特徴

✔︎ 血月経終了後に下腹部や腰がしくしくと痛む
✔︎ 経血量が少ない
✔︎月経周期は延長傾向
✔︎頭のふらつき・めまい・耳鳴り・聴力減退
✔︎腰や膝のだるさや無力
✔︎身体の熱感・のぼせ・手足のほてり
✔︎寝汗など
✔︎舌質は淡~紅
✔︎舌苔は少ないか無
✔︎脈細

このタイプは、『陰虚』の症状を伴うのが特徴で、ほてりやのぼせなども見られることが多いです。
体の潤いが足りないために、全体的に乾燥しているような印象があります。

六味丸や杞菊地黄丸が適応となります。



ざっとご紹介しましたが、まとめると・・

月経痛に使われる漢方薬

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