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【ブレーブス】囲い込み契約という「選手への思いやり」

どうも、ハーノです。
今回は、ブレーブスのいわゆる「囲い込み契約」について、まとめてみました。
この契約は、実はブレーブスにとって、選手への思いやりでもあるのです。


①はじめに

皆さんは、ブレーブスが得意としている囲い込み契約について、どんなイメージをもっていますか。アクーニャの契約や、アルビースの7年35Mの印象が強いかもしれません。
「奴隷契約」とも揶揄されることもありますし、正直それを否定しきれない部分があるのも事実です。アンソポロスGMは「催眠術師」と呼ばれることもあります。

そして、「ブレーブスの囲い込み契約は選手に対して不平等な不当な契約である」という批判をするMLBファンが一部いることも事実です。

ですがそうした批判に対して、はっきり申し上げます。
それは一面的にしか物事を見ていない、非常に軽薄かつ視野の狭い考え方だと言わざるを得ません。

「選手がチームを気に入ってくれたから」なんて綺麗ごとを書く気はありません。勿論、それが無いわけではないでしょうが、それだけでは「不平等」なはずの契約をこんなに次々締結することはできません。選手だって利益が欲しいし、彼らには代理人というその道のプロが付いています。現実的に考えて、球団にばかり美味しい契約を結ぶなんて、そうは問屋が卸さないわけです。囲い込み契約は、選手にも大きなメリットがあるからこそ、選手たちも契約書にサインするのです。

本題に入る前に、まずはブレーブスがこれまで行ってきた囲い込み契約を並べていきたいと思います。
左から順に、名前、契約内容、契約最長最終年、です。

アクーニャjr.…8年1億ドル(+球団OP1年17M×2) 2028
アルビース…7年35M(+球団OP1年7M×2) 2027
オルソン…8年168M(+球団OP1年20M) 2030
ライリー…10年212M(+球団OP1年20M) 2033
ハリス2世…8年72M(+球団OP1年15M+1年20M) 2032
ストライダー…6年75M(+球団OP1年22M) 2029
マーフィー…6年73M(+球団OP1年15M) 2029

こう見ると、なかなかに壮観ですね。
それでは、行きましょう!!!

②選手にとって囲い込み契約は「人生の保証」

まずはこの分かりやすい切り口から行きましょう。
誰が見ても間違いない話ですが、この契約は選手たちの人生を保証するものです。
この契約を結びさえすれば、それ以降他球団に研究されて全くダメになろうが、大怪我で全くプレーできなくなろうが、どうなろうとも、契約期間中にとんでもない犯罪や違反行為でもおかさない限りは、一生を暮らせるだけのお金を確実に手に入れる事ができます。

その上でブレーブスが囲い込んできた選手を見てみましょう。
アクーニャはデビューした翌年、アルビースは1年と少し、ストライダーもほぼ1年、ハリスに至っては半年もプレーしていないうちに契約を得ています。
この中で1番安い、安すぎるレベルのアルビースの35Mですら、一生を遊んで暮らせる金額です。数ヶ月〜1年しかMLBでプレーしてない選手に、それだけの大金を保証する。
この時点で、皆さんが思っているのとは違う意味で「破格の契約」では無いでしょうか。

選手にもかなり旨みがある話ではないでしょうか。
確かに穿った見方をすれば、まだ若い選手の目の前に大金をチラつかせて囲った、とも言えます。しかし、この競争が激しいMLBの世界において、誰しもが生活の安定が、保証が欲しいのは当然ではないでしょうか。選手たちには家族もいる、もしくは将来できるかもしれません。自分だけの人生ではない。

これは「一発屋」で終わったり、大怪我のリスクで終わる事も少なくないMLBにおいて、チームにとっても相当な覚悟と信頼が必要です。

7人のうち4人がそんな状態だったわけですが、他の3人はどうでしょうか。
まずはライリー。ライリーも2019年にデビューした時には衝撃を与えましたが、あまりに粗いアプローチにデビュー当初はかなり賛否が分かれており、彼がその実力を発揮するのは2021年まで待つことになります。そして2022年、大活躍した7月に10年200Mという巨額契約を与えられました。
彼が契約を結ぶまでに実際に活躍したのは約1年半です。たった1年半の活躍に、10年200Mという契約、言い換えれば信頼を与えているわけです。

囲い込みは、ブレーブスの覚悟と信頼が必要なもので、選手にとっては人生の保証になるものです。

ではOAKから移籍してきたオルソンとマーフィーは一定の実績があるではないか、と思う人もいるかと思います。
それについては、チャプター④でちゃんと書いていきたいと思います。ですので、まずはチャプター③を読んでいただけると嬉しいです。

③ブレーブスの「過払い」

次にブレーブスの「過払い」についてです。確かに、活躍してくれる前提であれば、ブレーブスの囲い込み契約は「全体としては」コスパが良いです。
しかし、ブレーブスは基本的に契約の前半は「過払い」することになります。

例えば、ブレーブスが誇るスーパースター、アクーニャの契約を見てみましょう。
比較対象は、同じく2018年にナショナルズでデビューして、アクーニャ、大谷らとともにMLBを席巻した、アクーニャと同じ外野手であり、同じくスーパースターの1人であるを得ている現ヤンキースのフアン・ソトを比較対象にします。

アクーニャの年棒は2019年からの2年間、1Mずつとなっています(2020年は実際の金額は短縮シーズン仕様)。ではソトはというと、MLBでは3年目までは年棒が最低年棒で済むため、2年とも60万ドルほどとなっています。つまり、アクーニャはこの2年間、ソトの倍近い年棒を受け取っているのです。

本来調停1年目となる2021年、初めてソトの年棒がアクーニャを越し、アクーニャが5M、ソトが8.5Mです(ちなみに調停1年目で5Mというと、今季のアストロズのカイル・タッカーと同額になります)。

そして2022年はアクーニャが15M、ソトが17Mとなります。

2023年は、アクーニャが17M、ソトが23Mとなっています。

ちなみに他の比較で見ると、当時レッドソックスだった現ドジャースのムーキー・ベッツは、調停2年目が10M、3年目が20Mです。

これ以降、アクーニャは最短で2026年、最長で2028年まで17Mを受け取ることになります。
結果的には調停権を得てからはソトがリードしていますが、アクーニャも決してソトと遜色ない金額を得ています。
再度確認しますが、この比較対象はあのソトです。今季オフ、パドレスからヤンキースにトレードされた際の対価は保有権1年にもかかわらず莫大なものでした。
ソトは名実ともに「稀代のスーパースター」クラスの選手です。

つまりこの契約は、少なくとも契約の前半に関しては、アクーニャがソトと遜色ないくらいに活躍して初めて「コスパが良い」契約になり得る、ということです。

しかもアクーニャは2021年はケガによって7月でシーズン終了しており、本来であればここまでの年棒の上昇は起きなかったでしょう。2022年もチームを牽引してくれたことは事実ですが、それは彼のスター性によるものが大きく、ケガの影響で数字としては本来の実力が発揮されているとはとても言えない成績だったのも確かで、キャリアでも数段階ワーストの成績でした。
これはアクーニャを信じたブレーブスと、その信頼に応え、その上を行ったアクーニャを褒めるべきで、ブレーブスもそれ相応の出血をし、アクーニャも救われた部分がある、そんな契約なのです。

ハリス2世は顕著にその傾向が出ています。本来最低保証で済む2023、2024年に彼は5Mずつ受け取ることができます。最低保証の約6~7倍の年棒を受け取ることになのです。
また、調停権1年目も8Mと、アクーニャとの比較で例に出したソトやタッカーの例を考えると、恐らく調停よりも高い金額となります。それ以降は順調にいけばコスパが良い金額になると思われますが、契約前半は損も覚悟となります。そしてそれは、ハリスにとっては他の若手選手より早めに一定のお金を得られるということになるわけです。

ストライダーも、最低保証の2024年まで1Mずつ得ることができますし、調停1年目こそ4Mと安めか妥当な金額になりそうですが、本来調停2年目の2026年シーズンには20Mに一気に引きあがります。そして翌年から最長2029年まで、22Mを受け取ることになります。フリードが1年目が3.5M、2年目が6.8M、3年目が13.5Mであることを考えると、かなりの大盤振る舞いです。

ライリーもその要素はあります。ライリーの10年契約は2023年から始まりますが、これを調停権で見ると、契約1年目(調停換算2年目)で15M、契約2年目(調停換算3年目)で21Mと、ソト並みの上がり幅になります。

勿論、将来的に彼らが年棒調停でより高い金額を得る可能性はありました。しかし、全員が全員そうなる訳ではないでしょう。
ブレーブスもまた、一時的な選手への、本来無いはずの高い支払いをしているという事になります。
逆に言えば、選手はその分多くの金額を得られる訳です。

また、贅沢税は年棒ではなく、金額を年数で割って計算されるため、その分契約前半は、全体のやりくりも難しくなります。

ブレーブスが過払いを許し、選手を信用したからこそ、選手もこの契約に応じるという訳です。

ただ…アルビースに関してだけは、最低保証の2年間で1Mずつ得るとはいえ、調停権の金額を考えても、かなりブレーブス有利な内容だと思ってしまいますね()
彼のチーム愛の強さを感じます。

④OAK組の契約はそこまで安いのか

次に、②の最後で触れた部分に触れていきましょう。
アスレチックスから移籍してきたオルソンとマーフィーについてです。
この2人は実績もあり、契約時点で既に高い能力を証明していました。

ですが、最初に個人的な考えを述べると、彼らに関しては「囲い込み」という言葉から「安い」という言葉が連想され、過剰に「格安」評価されていると考えています。
勿論、比較的リーズナブルな契約であるとは思います。しかし、彼らの契約時点での状況や条件を考えると、そこまで安いとも思えないのです。

冷静に分析してみましょう。
まずはマーフィー。
彼は確かに優秀な捕手です。2020年には60試合の短縮シーズンの中で43試合に出場しており、それから2年連続で100試合以上に出ています。
打撃にはムラがありますが、打力がある事はしっかりと示していますし、高い守備力で高い評価を得ていました。
そんな彼がブレーブスに移籍した2022年オフに結んだ契約6年73Mは、多くの人から安いと言われています。
しかし、少し別の部分を見てみましょう。このオフ、もう1つの契約が動いていました。MLBでも最高クラスの捕手であったウィルソン・コントレラスがFAでカージナルスと5年87.5Mで契約に合意したのです。
それを鑑みた上で、マーフィーの契約を見てみましょう。
保有権が3年分ある中で、6年73Mというこの契約は、このオフの市場のレートにおいては、必ずしも安いとは言えない契約だったのです。保有権の事と「保証」としての価値を考えれば、それでも多少安く見えるのは、球団が得る対価としては、妥当なリターンと言えるのではないでしょうか。

次にオルソン。
彼はアスレチックス時代から持ち前のパワーで、ブレーブス移籍時点で既に一定の実績と評価を得ていました。
しかし、彼に関して言えば、保有権が2年残っており、かつ地元の選手である事を考えると、8年168Mという契約は、そもそもサインするのが不可解なほどの契約ではないのではないでしょうか。
もし契約延長しなければ今季オフFAだった訳で、もしフル出場、54本塁打、OPS.993をマークした今季オフにFA市場に出ていればとんでもない契約を得ていたかもしれませんが、正直それは結果論かと思います。
実際のところ、2022年は球場が打者地獄のオークランドからニュートラルのトゥルイストに変わったにも関わらず、40本塁打に乗るのは十分なパワーという前触れだった本塁打数は34本塁打、その分二塁打を量産したとはいえOPSは前年の.911から1割以上下がった.802で、それも最後のメッツ戦、マーリンズ戦で荒稼ぎしてどうにか8割に乗せた、という具合でした(もっとも地区優勝の懸かったこのラスト6試合で活躍した事実はブレーブスファンが彼に心酔するには十分な出来事でした)。
この契約も、多少リーズナブルには見えるものの、実際にはかなり妥当に近いラインの契約を結んでいると思います。

⑤ブレーブスが背負うリスクは大きい

これが一番ベタな話になりますし、②〜④のまとめのような形にもなるので、ここで書きます。

ここまで長々と書きましたが、そもそもの話、この部分が思考から欠落してる方が多いかと思います。

はっきり言って、ここまで囲い込み契約が機能しているのは、球団の見極めと選手の頑張りが創り出した「奇跡」です。

そもそも、囲い込んだ選手が順調に活躍して契約を全うしてくれる保証などどこにもありません。
ブレーブスにも、様々なリスクがありました。
例えば、2019年にエース級の活躍を見せ、若きエースとして名を挙げたソロカ。彼と囲い込み契約をしていたら、どうなったでしょうか。彼は2020年をアキレス腱の怪我で早々に終了すると、次のMLBのマウンドは2023年になりました。そして復帰はしたものの、思ったような投球はできず、オフにホワイトソックスへトレードとなりました。

他にも、アクーニャは2021年に右膝十字靱帯断裂という選手生命が終わる可能性もあったほどの大けがを負っています。彼がちゃんと復活したから良かったものの、アクーニャが全くダメになる世界戦も十分にあり得たのです。

このようなリスクも全て背負ったうえで、囲い込みをしているわけです。

そして、契約前半は実際の年棒も、贅沢税のペイロールも嵩む。

ブレーブスは賭けに勝つことで、リターンを得ているのです。

⑥それでもブレーブスが囲い込む理由

ここまで、ブレーブスの囲い込み契約が選手にとって有利なポイントや、ブレーブスにとって不利な部分も少なくないことを解説してきました。
・将来大けがや、不振に陥るかもしれない
・契約前半は年棒も贅沢税ペイロールも嵩む
しかし、それでもこのチームは囲い込み契約をしてきました。

それはなぜでしょうか。
・長期的に主力を保有できる
・順調にいけば契約後半はコスパが非常に良くなる
今のMLBにおいて、この2つのポイントは非常に大きい利益となるでしょう。

また、ここには、ブレーブスのGMであるアンソポロスGMの少年時代の思い出も大きく関わっているようで、幼少期のアンソポロスGMはエクスポス(現ナショナルズ)のファンだったらしく、せっかくスター選手が現れても、トレードやFAで簡単に流出してしまう現実に歯がゆい思いを抱えていたそうです。
ファンには出来るだけそんな思いをしてほしくない。
安心してユニフォームを買えるようにしたい。
そんな思いを持って囲い込み契約をしているそうです。

そして、ブレーブスの覚悟と見極める力が、囲い込み契約の成功につながっているのです。

⑦終わりに

さて、いかがだったでしょうか。
ブレーブスの囲い込み契約は、チームが一方的に得をするような不釣り合いなものではなく、選手にとっても大きなリターンがある契約方法なのです。
それどころか、ブレーブスが選手をしっかりと見極め、強い信頼をし、一定の出血も厭わないからこそ為せる経営方法でした。

この契約は、ブレーブスが選手に提示した「信頼」であり「誠意」であり「思いやり」なのです。

この記事が、少しでも広い視野を持つことに役立ったり、偏った印象を変えるきっかけになれば幸いです。

6500字超えというかなり長い記事になってしまいましたが、ここまで読んでいただいた方には感謝を申し上げます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

それでは、また!


見出し画像はライリー10年契約の際のブレーブス公式の画像より、こちらから↓


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