ネットの酸いも甘いも教えてくれたn へ

ネットの酸いも甘いも教えてくれたn へ

 お久しぶりです。またこうやってnに手紙を書く日が来るなんて思ってなかったなあ。元気にしていますか?忙しい日々を過ごしていることは容易に予想が付きます。

 nと出会ったのは中学三年生の秋ごろ。今から五年前くらいかな。内緒でTwitterのアカウント作って、来る日も来る日もCASやったりなんだりでお世辞にも健康とは言えない日常を送っていた頃。高校受験を控えてまでネットに依存して、大変だったなあ。

 nは遠いところに住んでいて、たまに見えるなまりがすごく可愛かった。こっそり教えてくれた本名も本当に素敵な名前で、二つ上だったから沢山面倒見てくれたね。賢いのに絶対に驕らないところが好きだった。

 料理が得意で絵も上手で言葉遣いも綺麗で、こんなに女の子っぽい友だちが出来たことがなかったから、新鮮で毎日楽しかった。親の監視が強いところも似ていて、お互い愚痴をこぼしたりしたときもあったね。

 nが大学受験のとき、私には見えないくらい高いところを目指していたのもあって、連絡頻度は減った。だけど、ちゃんとコンスタントに返信くれて、その中ではいつも元気で。人に心配をかけたくない子だったから、nが抱えていた大きすぎるものにも気が付かなかった。

 無事に受験が終わり、合格発表の日。手ごたえはある、という感覚の通り、nの下に合格通知が届いた。そう連絡を受けて、思わず学校ではしゃいだんだよ。このとき気が付くべきだった。いつもだったら多すぎるくらいのビックリマークを使うnが、淡泊な文章だったことに。

 nの大学は私が住んでいる地方にあるから、必然的に一人暮らしが始まった。今まで親のめがあって出来なかった電話も出来るようになって、今までよりも濃い関係になれた。私にとってもnにとっても、短い人生の中で出会った一番のネッ友だったよね。絵が得意なnと音楽が得意な私で、一緒にいろんなものを作った。楽しかったなあ。

 そして私が高校二年、nが大学一年の夏。私たちは初めて顔を合わせた。共通の趣味であるアーティストのライブ会場。私は駄々をこねたり号泣したりして沢山迷惑かけちゃったね。でも、それくらい会えたことが嬉しかったんだ。実際のnも大人っぽくて優しくて暖かくて、安心した。なきじゃくつ私を、人目もはばからず抱きしめてくれてありがとう。

 それから数週間。私たちの関係は終わった。それ以降、修復することは出来なかった。私のせいだった。深入りした私のせい。ネットのことを何も知らなかった、私のせい。

 nは別人だった。本名も、出身地も、大学も、誕生日や家族構成まで、全部嘘だった。それが、簡単に分かってしまった。nがtwitterの本垢探せるもんなら探してみなって言うから、私はnの過去のツイートに会った本垢のフォロワーのスクショを基に探した。今考えると狂気じみてるよね、本当に。そんなことしなければ、今も普通に連絡とって、たまに一緒に遊んでって出来てたのかな。

 嘘をつかれていたこと、それよりも、本当のことを私にも行ってくれなかったことが苦しくて、辛くて、私はnに連絡した。メンヘラみたいな長文。まあ私たちのやり取りなんて大抵はメンヘラみたいな長文だったし、そこに違和感はなかったと思うけど、ビックリマークが一つもない長文は、作った本人にとっても怖かった。

 そこからしばらく返信がなくて、一日経ってやっと来たと思ったら、充電切れてたって。当時絵がきっかけでtwiterのある界隈で有名人になっていたnが、twitterを見ないで一日過ごせる訳がないのは、それをずっと近くで見てきたからよく知ってる。FF200人程度だったものが、一気に2000人以上にまで伸びて、昔からの知り合いを切って、フォロワーは増えていくのにフォローは減っていく。今までは私と空リプとかで遊んだり、意味不明なツイートして楽しんでたよね。だけど、反応が沢山来る時間にしかツイートしないとか、ツイート数が多いとフォロワーが減っちゃうから全然ツイートしないとか、nはどんどん変わっていった。でもね、それでもよかったんだよ。それでも、まだ私のことは特別に思っていてくれていたから。それをツイートすることはなくなったけど、twitter以外のところでは沢山伝えてくれてたから。

 そう思ってたのに、結局nにとって、私はその他大勢と同じだった。本当のことは言えない。大学のことに関してはとても深い事情があったけれど、信じたいのに信じられない自分がいる。それすらも嘘なんじゃないかって。無理矢理信じて話を進めたけど、結局その後、私たちの関係がもとに戻ることなんてなかった。共同で使ってたアカウントのパスワードを勝手に変えられて、余計にこじれただけ。

 「はのとは特別だったから、今更本当のことを言って嫌われたくなかった。付き合いが濃くなるほど、いつバレるんだろうって怖くなることも増えていって、この間初めて会うときも、ネット上と違って全然可愛くなくて幻滅されないか怖かった。」

 この期に及んで、私はその言葉を鵜呑みにしてしまいそうだった。いや、違う。信じたい。この後に教えてくれた本当の、本当の本名。それが私が見つけた本名と違ったから、まだ自分を抑えられたんだと思う。これ以上は自分がもっと傷つくだけだって。

 でも、私にnを責められる権利なんてない。所詮ネット。そのことを学べただけ、恵まれているのかも知れない。そこに真実なんてないんだって知ることが出来た。極端なくらいに批判力を貰った。でも、そんなんじゃ補えないくらい、大切なものを失った。

 人間関係は狭く、そしてとても深く。それが私の性格。一度嫌いになったら好きになれないけど、一度好きになったらなかなか嫌いになれない。執念深いの。あんなに裏切られて捨てられてって木端微塵もいいところなのに、まだnのことを忘れられない。信じたい。まだ、あの頃みたいに戻れるんじゃないかって思っちゃう。関係が崩れてから、もう三年も経つのにね。

 nはどんどん前に進んでいく。最近は〇〇ちゃんと仲いいかな、なんて、〇〇ちゃんとセット扱いが増えて嬉しい、とか、そんなこと言ってたね。やっぱり私だけ置いて行かれている。ごめんね、中身もメンヘラだったみたい、私。

 nとのことがあって、私はネットを辞めた。知らない人と繋がることをやめた。知らない人と、深く付き合うことはしないと誓った。そして、ネット上では別人格を作ることを決めた。

 これは、本来学ばなくてはならない情報リテラシー。当たり前のこと。何度も言うけど、当たり前のことをしていたnを責める権利なんてない。だけど、楽しかった記憶を消すことも出来ない。

 だからね、楽しかったことだけを覚えておこうかな。昔あんな友だちがいたなって、たまに思い出すくらいならいいよね。もうメンヘラは卒業したの。だからもう、大丈夫。

 夢に向かって頑張っているn。私は、何度もnの努力する姿に触発された。レベルは全然違うけど、私もたった一つの夢を叶えられるように頑張るよ。頑張る。だから、nも私の知らない世界で頑張って。別々の道で、nよりうんと幸せになるから。


2021年3月2日 はのと

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