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プラセボ探偵 光永理香 13

13 伍億円事件別件逮捕事件(推理編)

 父が掛けて来た着信履歴に電話してみた。
呼び出し音は鳴っているが誰も出ない。
とりあえず母親に1時間おきに電話するようにお願いした。誰か出たらそこは何処なのか聞くように言った。

私は図書館の閲覧室に行って当時の事件の報道を調べた。

 光永圭一は突然捜査線上に浮かんで来た。
いままでいなかった人間がいきなり現れたように

 それをセンセーショナルに報道したのは「毎朝新聞」だった。
まるで犯人を捕らえたかの様な記事を毎日書き連ねた。当然民衆は新聞の記事を信じて疑わなかった。
しかし、今この時代にこの記事を読むと「穴」がかなりあった。
 警察は慎重に裏付けを進めていたが何処から漏れるのか、逮捕の容疑は何から何まで書かれていた。

 父、光永圭一は身分証明の類いを一切持っていなかった。
「そりゃそうだその時代の人間じゃないんだから」
それでも父は履歴書を改ざんしてまでも就職面接を受けようとしていた。戸籍も捏造して・・・
存在しない本籍や住所、デタラメな学歴や職歴その偽造が直接の逮捕の容疑だった。
文章偽造の取調べは僅か1時間、その後は何日も何回も勾留を延長されて取調べされた。

「ただそれだけだ その履歴書の書き方が犯人の脅迫文と良く似ている たったそれだけで」
あとはこじつけばかりだった。
※車の運転が上手い
 (現代の車をガンガン運転していた)
※脅迫文に付着していた血液型が一致
 (たまたま、4分の1の確率だよ)
※犯人の人相としたモンタージュ写真に顔が似てる
 (だんだん似顔絵が父親に寄せてきた)
そして父親の精神はどんどん病んでいった。

まったくの別件逮捕だ、違法だ 
勾留の延長もやりたい放題だ

 父はいったい何の為に面接を受けようとしていたのか、何処の会社を受けようとしたのか

その答えは母親が持って来てくれた。

 電話に出たのは解体屋のアルバイトだった。
東京郊外にある古いビルに放置されていた黒電話だった。
まさに解体されようとしていたこのビルは電力会社の名義で登記されていた。

 40年前は電力会社の研究室として活用されていた
らしい。父はこの研究室に入り込もうとしたと考えられる。しかし残念ながらその研究室が何の研究をしていたかは今でも電力会社のシークレットだった。

 一旦調べるのをやめて父親が自◯した最寄り所轄署に行ってみた。遺体は霊安室にあったが、その容姿を見て驚いた。
その遺体はすっかり歳を取った老人だった。 
失踪する10年前から考えてもあまりの変わり様だった。
疲れ果て年を老い生きているより死を選んだ苦悩が滲み出た顔をしていた。
警察の拷問の様な取調べマスコミに犯人扱いされ家族を巻き込んで不幸にしてしまった自責の念が溢れている様に思い込んだ。

 不確かだが父にはアリバイがあった。
犯行当日、父は電力会社の面接を受けていた。
警察の発表では履歴書を出しただけで
面接には現れなかったと言う事になっている。
それはおかしい誰かが真実を曲げている。
だがそれを証言してくれる人間が現れなかった。
面接を受けた証言があれば物理的に伍億円事件の犯行は不可能になる。でもどうやればいいのか・・・

 ところで父はどうやって電力会社に入り込み40年後の未来に電話するが出来たのか・・・
電力会社の研究室には時間を飛び越える事が出来る何か秘密があると思い込んだ。

 父の遺留品を確認した。
財布や腕時計に小さな手帳があった。
その手帳には以前私が父から聞いた歴史的事件のメモ書でびっしりだった。
見逃してしまいそうだったが表表紙の裏の余白に数学の公式の様な、西暦から入った日付の様な、はたまた電話番号の様な、何か見慣れた数字の文字列が書かれていた。

「2008-09-25-03-0695-0X0X」

東京の地区番号以降は私達の自宅の番号だ。
その前は父から電話があった日付だ。
どうやらあの研究室にあった黒電話は相手の番号の前に掛けたい年月日を回すとその時代に掛かる事が出来るのだと私は思い込んだ。
理論的には全くわからないがきっとそうだ。

 所轄の係員は父親を早く荼毘に伏すように勧めてきたが、「それはまだ出来ない」と言い残し東京の元研究室に向かった。父を骨にしてしまっては歴史が変わった時、父親が存在出来ない様な気がした。
それと早く行かなければビルが解体されてしまう。

つづく(13/52毎週日曜日18:00更新)

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