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プラセボ探偵 光永理香 8

8 ノストラダムスの大予言

私は「本」を読まない
「本」だけでは無く活字をほとんど読まない
なぜなら「本」に書いてある事は大抵知っているからだ。
さすがに研究者が今まさに発表した論文までは知るすべは無いが世の中で今起きているいる事やこれから起きる事は大体見当がついている。
これは私の父親の影響が大きい。

私の父は私が高校一年の夏、突然私と母親の前から姿を消した。
他に女が出来たのか、誰かに拉致されたのか知らないが忽然と何の前触れもなく失踪した。
父に依存傾向にあった母親は精神のバランスを崩し家事全般を私がする様になった。
私の場合は多少ショックでは合ったがどこか不思議な人間の父はいつか消えてしまいそうな不安を漠然と感じてはいた。

そんな父親がまだ一緒に家族をしていた頃は良く私に空想の話しをしてくれた。
父は普通の会社員だったが世の中の猛烈社員ではなくいつも定時に退社し18時には家に帰って来ていた。夕食を囲みながら父は良く世の中の事を解説してくれた。日本の事や世界の事、過去の事やこの先起きる事をまるで見て来たかの様に私や母に話してくれた。母はあまり真剣には聞いていなかったが私は父の話しを真剣に聞いて毎日日記の様に書き留めていた。ただ今日聞いたこの話しは一体いつの事なのかはサッパリわからない。

そんな父がもっとも読まなくて良いと言ったのが、「ノストラダムスの大予言」だった。
父曰く「これは予言でも何でもない、ただのフィクションだよ」「まず新世紀は2001年からだから1999年は世紀末じゃない」「恐怖の大王が空から降って来る。そして人類は滅亡すると言ってるけど恐怖の大王が何なのか後からいくらでも当てはめる事が出来るこれは予言でも何でもない」「心配しなくても良いよ1999年には何も起きないから」

そう言って父は1989年に姿を消した。
あれから10年、私は母と二人何とか生きてきた。
父の謎を紐解くべく勤めていると聞いていた会社に尋ねたが父が在籍した記録すら無かった。
何の手がかりも残さず父は忽然と消えた。

半狂乱になりそうな母親を支えながら進学を諦めホテルに就職した。母を家に残して働きに出るのは心配だったが私が働かなければ収入が無いので仕方がなかった。でも働いている時は楽しかったしお客様の会話に聞き耳を立てるのも面白かった。
ついついお客様の会話に口を出してクレームになりそうな事も多々あったかな・・・

父の戸籍を調べたりもしたが北海道のM別町という所だと分かってもそこへ行くには金銭的にも時間的にも余裕は無かった。ましてや探偵を雇う事も出来ないし警察は行方不明の届出を受理してくれただけだった。

父は「光永圭一」という名前を名乗っていた。
普通一般的にはそれは本名で戸籍の人物と本人は同一人物という事になる。でも私は父は光永圭一では無く別の人間なのではないかと思い始めていた。
たとえ父が他の人物でも母と愛し合って私を授かった。そしてここまで私を育てた事実は変わらない。
色々な事を私に教えてくれて優しく私を愛してくれた事には変わらない。私の人生の途中で忽然と居なくなっても私の父親はあの人だ。

いつか父がどうして失踪したのか、しなければならなかったのか解き明かしたい。私にはそれが出来ると信じている。そう思い込んでいる。
きっと父が私に話してくれた不思議な話し、そこにヒントがあるに違いない。
私が子供の頃から書き溜めた日記、父親のおとぎ話を記録したノートを繰り返し読み返しては父と再会出来た時の場面を想像した。
そして一言こう言ってやる・・・

「ノストラダムスの大予言自体は当たっているとも間違っているとも私は言わない、ただそれを勝手な解釈をして人々を恐怖に落としいれる事こそ悪だ。お父さんも私とお母さんを不安にさせて悪だよ。
どうしてそれは前もってお話ししてくれなかったの?」

あぁ〜、一言にしては長すぎるか・・・

つづく(8/52毎週日曜日20:00更新)


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