白い犯行

雨が降った たくさん降った 晴れ間を忘れた 雨が降っただけで梅雨ではなかった それは季節ではなく ただ雨が降っただけだった カラスが鳴いている よく鳴いている 夜にも朝にも鳴いていて 見かけると数匹で群れている ぼくの中のカラスはひとりだから どちらかはカラスではないのかもしれない なににも例外はあるのだし 一概に語れるものなんてないのだから どちらもカラスなのかもしれない 一概に語れないのなら まとめてカラスと呼ぶことも間違っているのかもしれない マネキンが落ちている 町には粗大ゴミが溢れていて 不法投棄された家具やモーターが積み上げられている その端にひっそりとマネキンが置かれている 頭のない上半身のマネキンが倒れている 首元から中の空洞が覗いている 首元にぽっかりと覗いた穴ぼこ その周りを囲むように首が形成されている マネキンの素材が加工の解けた首周りから露わになっている 薄べったい繊維の重なりが 表層の下には幾つもの層が重ねられ 表面が表面でないことを示している からっぽであることと 厚みがあることは 同時に存在し それはまるで正しく人を模している 湿ってやわらかくなったマネキンを 蹴りつけると垢がぽろぽろと落ちる 古くさいドレスボデーがゆっくりと朽ちていく ぼくは愛おしくなって持ち帰ろうとしたのだが あまりにぼろぼろと朽ちていくので また元の場所に帰した マネキンを抱えて歩いた道には ぽろぽろとマネキンの皮膚が落ちていて ぼくの犯行は夜にも白く際立つ マネキンを投げ捨てると 垢がぽろぽろと落ちる 新しい皮膚を見せびらかそうとするのか 薄く朽ちて 穴ぼこを増やすばかりである 黒い穴ぼこからカラスが湧き出てくる 最近町に増えたカラスはここから出てきてたのかと納得する カラスがグリグリと体をねじりながら 首元の穴ぼこから何匹も出てくる ぽとりと落ちるとよたよたと歩き 道に落ちている白い皮膚をくわえると 夜明けに飛び立つのだった 見上げると白黒のフォルムが飛んでいる 真っ黒な夜と真っ白な朝 皮膚とカラスのどちらを見失うのだろうか

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