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【映画】PERFECT DAYS(2023年)

2023年の終わりに
役所広司さんが第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞に輝いた映画
PERFECT DAYS」を観てきました。

鑑賞後、noteに
チラッと書きましたが笑
あらためて感想を少し。

〈物語〉

トイレ清掃員をしている平山(役所広司)は
毎日決まった時間に起きると
植物に水をあげて身支度を済ませ
自分の車で担当の現場へ向かいます。
車内に彼の集めたカセットテープの音楽が流れる頃、朝日が見えはじめ
彼はひとつひとつのトイレを掃除していきます。
休憩時間にカメラで木々を撮影し
公園のホームレス(田中泯)の動きに自由を見つけ
仕事が終わるといつもの銭湯、飲み屋へ行き
休みの日にはいつもの古本屋、クリーニング店、居酒屋を行き来して
好きな本を読みながら眠りについて一日を終えると
また朝が来て目覚めた彼は新しい一日を始めて…というストーリーです。

〈平山の描き方と役者たち〉

映画は今の平山に起こる些細なエピソードと
彼の過去、
流れるカセットテープからの音楽、
平山が見る景色で構成されています。

平山の
「お金」「家族」などの数字はほとんど出てきません。
彼は多くを語らないのでどんな人物なのかすぐにはわかりません。

けれど観客は
若い同僚のタカシ(柄本時生)とタカシの彼女のアヤ(アオイヤマダ)とのやりとりに彼の人柄を知り

居酒屋のママ(石川さゆり)の優しさ
と美しい歌声に耳を傾ける横顔に彼がママに心を寄せていることを知ります。

家出をして平山を訪ねて来た姪のニコ(中野有紗)を見て目を細めた平山の心には懐かしさと、自分を頼りにしてくれた嬉しさもあったのもしれません。

どのシーンもしなやかで
急かされるような場面展開はありません。
そのため
平山についてじっくりと考えることができます。

やがて
平山の過去が
再会した妹のケイコのセリフで語られ

居酒屋のママの元夫(三浦友和)との会話で
平山は自身の胸の内を声にします。

物語が終わる頃
観客の中の平山という人物像が完成します。

監督は『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』でも知られるヴィム・ヴェンダース。

映像の美しさはもちろん
平山の暮らしの中に、街の中に
それぞれある生活音が静かなリズムのように心地よく聞こえてきます。

本当に平山の描き方は素晴らしかった。

〈好きなシーン〉

この作品のキャスティングもとても素晴らしいと思いました。
特に女性たちは皆さん良かったですね。

アヤは若い世代の先の見えない自分と生活への苛立ちから
救いを求めるようにカセットテープに聴き入りました。

居酒屋のママの
人生が「変わること」を望まず
静かに、でも明るく生きていこうとする生き方は
きっと多くの人が望む生き方かもしれないと思わせてくれました。

妹のケイコの少ない言葉の中に
一瞬にして妹として母親として
後悔を抱えている彼女が見えました。

平山の仕事について行き
平山がトイレ掃除をしている最中
トイレを利用する人の中に
「トイレ掃除」を見下し
「トイレ掃除をしている平山」までも見下す人がいることを見たニコは
微かに怒る視線を見せたけれど
平山と目があって
小さく微笑む彼を見て
ニコもまた優しく笑って…という
わずかな表情の変化を美しくでも飾ることなく見せてくれました。

ママの元夫、友山が
これまでとこれからも「抱えているもの」を平山に教えると

平山は自分自身と友山を重ねるように
友山の問いの答えを探しました。

これらはみんな好きなシーンなんですが
監督の演出もさることながら
役者さんたちの高い演技力も観ることができました。

〈理不尽さを知った先に〉

人が生きてゆく時の中にやって来る
やるせなく深い「理不尽な出来事」。

私は「理不尽」な出来事そのものを細かく描いている映画をたくさん観てきました。
苦しみもがき、やがて大胆にまたは静かにそれを受け止め立ち向かう主人公をたくさん観てきました。
もちろんどの作品も感動しました。

けれど
このPERFECT DAYSでは

「理不尽さ」を細かく描くのではなく
「理不尽さを経験した後の世界」に趣きをおいて描かれているように感じました。

平山もこれまでたくさんの「理不尽」を経験してきたのではないかと思えたら

朝、ドアを開けたときの
まるで朝を初めて見るような
柔らかな笑みを観ていると
なぜだか涙が出てきます。
彼は抱えきれない理不尽さを
ようやく今、静かにそれを手放せたのかもしれません。

スカイツリーをバックに自転車に乗って銭湯へ行く彼の背中は
理不尽さを経験しその側を歩いてきた人間の背中そのものでした。

実は2回目に観た時に(!)
タカシの軽さとアヤの表情を見ていて
この若いふたりはきっとおそらく
これから「理不尽な出来事」を迎えるのかもしれない…と勝手に思えてしまって笑、
ふたりが愛おしくなりました笑。

〈映像に身を委ねて〉

役者さんたちを信頼して
映像に身を委ねる悦び。
鑑賞後の多幸感。

スクリーンに映し出される
木々や植物の緑、朝日と夕日、
缶コーヒーを開ける音、鍵が擦れる音、
自転車を漕ぐ音…それらの中には

いつも私たちが見ている景色もありました。

理不尽さを通り過ぎたらその先で
朝、空を見上げる平山のように
自分も笑みを浮かべることができるかもしれない。

そんな風に思えたら。

また人生の素晴らしさを知ってしまったじゃないか笑。

そして

役所広司さんの
素晴らしさをとうとう
世界も知ってしまいましたね(!)


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