命にかえても息子は守る。死にたくても。

連呼する。
自分で選んだ道じゃないか。自分で選んだ道じゃないか。自分で選んだ道じゃないか。じぶんで えらんだ みちじゃないか。

生まれ育った家を出るときは希望に満ちていた。
これから自分の人生を歩めるんだと思った。
ずっとこの人と一緒にいるんだと。

絶対にこの家から逃げなくてはならない。そう決心したのは、息子が2歳のときだろうか。
そのときは覚悟していた。
まずこの家から逃げる。そしてそこで終わりじゃない。
でも先のことを考えても仕方ない。その時を切り抜けるので精一杯だった。

あれから5年が経つ。当時に比べたら比べ物にならないほど落ち着いた生活を遅れるようになった。何も恐れなくていい。朝日を浴びて、夕暮れの空をみあげることだってできるようになった。

それでも真っ暗な日は訪れる。ラスボスは自分自身だ。

これまで人を避けてきた人生であったと思う。
孤独だってへっちゃらで、人とちがうことを自分で面白がってすらいた。

そのツケだぜと言わんばかりに、どうしようもない瞬間が訪れる。

上等だ。

ひとりが何だ。DVがなんだ。不倫がなんだ。
生活保護がなんだ。鬱がなんだ。じぶんで拵えた孤独のフルハウスをながめて、悟る。お願いだから奇跡が起きてくれ。

私にはサンボマスターがいるから大丈夫だ。
思えば音楽で耳を塞ぐのが大好きだった。たぶん生まれた頃から好きだったのではないだろうか。

つよくつよく人に惹かれて、この人と一緒にいようと思った。
その結実が私の息子である。

どんなことがあっても、あのときの気持ちは本物だったと確信している。
パパはめちゃくちゃかっこいい人だよ。
パパも音楽に身を捧げて、ハードコアからジャズに傾倒するほど捧げていて。レアなバンドTをいくつも持っていた。
そんなTシャツを君のためにメルカリに出品してしまうほど君を愛していた。
自分の顔に産着を載せて、お腹の中にひたすら話しかけていた。

そんなパパだから、ぜったいに君はかっこよくなるはずだ。
安心して育ってくれ。

ママの出生がどうあろうと、ママとパパの末路がどうあろうと、
それは君の知ったこっちゃないし、君はただただ幸せにすごしてくれたらいい。

ひたすらにクワガタの世話をして、マインクラフトで大人顔負けの機関車をつくり、マイクラで生意気に悔しがる君が大好きだ。

命に変えても私が守るからね。
死にたい気持ちに、私を死なせてなるものか。


息子がグレて「こんな家、出てってやるよババァ」と言ったあと、「何言ってもいいが大学にだけは行っておけ」と送り出し、旅立つその日に「これ持っていけ」と渡します。