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医学部再受験のリスク② -たくさんの再受験生を見てきた医師の立場から考える

前回のnoteでは普通の企業に就職することに対して再受験をする場合は金銭的に良いリターンを得ることは難しいこと、20代の貴重な時間を地方で過ごすデメリットを取り上げました。今回は入学/編入、医学生となった時の進級、誤解されがちな医師国家試験について考えます。

あくまで筆者個人の感想でありエビデンスの類は一切ありません。その点をどうかご了承ください。

1.無事に入学/編入できるか

まず最初の関門です。単純な学力なら余裕で受かる方も医学部入試では面接点が存在するため面接官ガチャや運に左右されます。面接が形だけの医学部もありますが、東大をはじめとする旧帝医学部などで入試難易度自体が高いです。その東大理Ⅲも面接単独落ちが出現したと最近ネットで話題になりました。

地方の医学部では昔は面接点がなかったものの現在は点数化されているという大学も数多く見られます。筆者の大学も同様です。また、面接でほぼ決まる推薦入試が女子ばかりなことからわかるように面接は女子が圧倒的有利です。Xでは裁判官の女子割/チン騎士司法が話題ですが、医学部の面接官も中高年の男性が多く若い女性に点数を高くつける傾向があるのかもしれません。

筆者の合格した代は推薦入試がほぼ女子だったのに対して一般入試はほぼ男子という歪みが生じていました。事実一般入試で入学した女子はほぼ全員浪人生です。現在は地域枠なども存在するため変わってきているとは思いますが、一般枠は減少しているため昔より男子学生は厳しいと思います。

では東京医大のアレはどうなんだと言われると思います。あの件は衝撃でしたし、それ以上に驚いたのが都内私立医卒の医師たちは「皆知っているだろ、何言ってるんだ」という反応だったことです。都内私立医と地方国立では知っている世界が違うのかもしれません。

編入は2年生から出来るパターンがありますが島根大学のように3年生からできる大学があります。もちろん3年生からの方が良いですが、都会からとても遠い場合はよく考えたほうがいいと思います。

このように単純に勉強しているだけでは合格が決まらないため、努力や学力が反映されにくい、年単位での損失になりやすい点は注意が必要です。

2.進級

2年生以上はどの大学(東大など一部除く)も全授業必修です。1科目でも落としたら即留年です。上の学年に上がって取り直すなんてことはできません。そして偏差値が低ければ低いほど進級は厳しいです。私立医は留年させると学費で儲かるからかエグいところはとにかくエグいです。

他の学部と大きく違う点ですが、授業を自由に選ぶことができないため講座間での競争が起きず、アカハラも起こりがちです。単位を落としやすい授業でも全員が必修のため受けざるを得ませんし授業の質は悪いです。

特に基礎医学は授業もわかりにくく、無駄にプリントが多いため要点を理解できず試験を落とします。追試も1回だけだったり追試自体行わなかったりでとにかく精神的にやられます。臨床の方はどんなにわかりにくい授業でも国試予備校の映像授業があるため代替可能ですが、基礎医学の映像授業はまずありません。スケッチなど無駄な作業をさせたり、先輩から譲り受けた教科書は禁止にして、一人一冊買わせるといった嫌がらせ教授も存在します。全授業必修のため医学生は教員に逆らうことができず、そのため理不尽なアカハラが起こりやすい環境になっています。群馬大学医学部の演劇で留年など医学とは何ら関係ないでしょうしアカハラの極みです。

そして留年のリスクファクターは多浪生/留年生/再受験生です。統計を取ったわけではありませんが、実感として皆思っているのではないでしょうか。再受験される方は受験予定の大学の進級難易度を調べることは必須です。

筆者は基礎医学で留年したからか、医師国家試験に受かった時に一番に思ったことは「これで毎年進級発表に怯えなくていいんだ、試験はもう受けなくてもいいんだ」ということです。

3.医師国家試験は難しいのか

結論簡単です。新卒なら94%合格します。とはいっても誰でも受かる試験に落ちる恐怖は存在しますし、試験当日は緊張します。

医学部受験を突破した全国の医学生が集まって1割が落ちる試験だから難しいという意見もあるかと思います。問題なのは何と比較して簡単か、ということです。筆者は医学部入試と比較するとはるかに簡単かつ安心だと思います。理由として医学部入試は前述のように学力だけでは合格が保証されません。一方医師国家試験はマークシートで400問なので分散されており学力の期待値が出やすいです。医師国家試験は100回やっても100回合格するでしょうが、医学部入試は低偏差値の大学でもそうはいきません。

それでも医学の勉強が難しいのではないか?という意見もあると思います。分厚い医学書や大量のプリントを見るとそう思ってしまうのは無理もありません。しかし試験で得点するためには分厚い医学書を読む必要はありません。要点を掴みにくい上に時間がかかるためむしろ無駄です。

具体的を出します。眼科を例にあげると、medu4という予備校の授業のプリントでは約90ページです。どのくらいの文字量なのか、以前はYouTubeにサンプル動画が上がっていたのですが現在は削除されており見せることができず残念です。ただ情報が詰め込まれていないですし、画像や問題演習も含んで90ページです。もちろん循環器などはページ数も多いですが、大学の数学や物理学に比べると敷居は低く簡単だと思います。
まとめてみたシリーズもとても役に立ちました。これだけで完全にはなりませんがわかりやすいですし、医学部のある大学の生協には置いてあることが多いので手に取ってみることができます。

医学の勉強は暗記が中心です。逆に言えば皆初心者からスタートみたいなものです。眼科を学んだから皮膚科も勉強しやすいわけではなく(科をまたぐ疾患は別ですが)、一から勉強です。この点も大学の数学などと違いハードルが低いと思います。

勉強は基礎からの応用だと思っている人が多いですが、基礎医学を学んだから臨床医学を学びやすいわけではないと思います。筆者は脱分極もミトコンドリア回路も全くわからず留年しましたが、臨床は(映像授業のおかげで)とてもよく理解できて卒業試験では学年3位でした。もちろん大学で研究する方や医師になってからの自己研鑽は別だとは思います。

長くなりましたが以上が独断と偏見に基づく筆者個人の見解です。建設的な批判は大歓迎ですのでコメントしてくださると幸いです。

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