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生成AIと創作

ChatGPTを使って書いたという小説が芥川賞をとって、話題になりました。九段理江さんの『東京都同情塔』です。NHK WEBのインタビューの中で、どのようにAIを使ったか、作家本人による説明がありました。

その中で九段さんがChatGPTに、「『刑務所』という名称を現代的な価値観に基づいてリニューアルしたいです。どのような案が考えられますか?」という質問をしているのに興味を惹かれました。面白い質問です。
その答えとしてChatGPTから、
『ポジティブリカバリーセンター』『コミュニティリユースセンター』『セカンドチャンスセンター』など5つの案が出されたそうです。しかし九段さんはこれを採用せず、最終的に「シンパシータワートーキョー」としたそうです。

AIのしてきた回答に対して、九段さんが感じたのは、カタカナの外来語による軽い言葉が氾濫し、社会をゆがめているのでは、ということ。なるほど。でもこれってありがちなことです。そのゆがみがAIの回答に反映されている、ということなのでしょうね。

広告会社でコピーライターをしていた頃、書棚にイタリア語、スペイン語、フランス語などの小辞典を備えていました。新しくできる集合住宅のネーミングを考える際などに、役立つからです。音がきれいで、意味的に特徴を表していて、手垢がついていない、でも何らかのイメージを湧かせる言葉、といったものを辞書で探すためです。

なんて軽い。たしかに上っ面のカタカナ言葉を社会に氾濫させていました。

で、九段さんに真似て、ChatGPTにマンションの名前を考えてもらうことにしました。条件は以下のようにつけました。

江東区に新しくできる、家族世帯用中心のマンションの名前を考えてください。建物はモダンというより、ややレトロなイタリア風デザインで、中庭があって植栽が豊かなど共有スペースに特徴があります。高層階は隅田川が望めて、花火大会も見えます。清澄白河駅近くで、販売価格は6000万円以上。

これに対して、1秒もかけずに返してきたのが「リヴィエラ・ファミーリア」でした。ChatGPTの説明はこうです。

この名前は、イタリア風のデザインや中庭の豊かな植栽、高層階からの隅田川と花火大会の眺望に合わせています。 "リヴィエラ"は地中海沿岸地域を指し、家族向けの暖かく穏やかなイメージを連想させます。 "ファミーリア"はイタリア語で「家族」を意味しており、清澄白河の魅力的な環境と組み合わせることで、住む人々にとって家族と共に過ごす素敵な場所を連想させるでしょう。

ChatGPTの回答

ほっほー。なるほど。理由もちゃんとあって、このまま企画書に写せそうです。
さらにいくつかあげてもらったのが以下。

イタリアーガーデンズ・リバーヴュ
ベラ・フィオーレ・テラス
ドルチェ・リヴィエラ・ハイツ
アンビアンテ・クレスト
(中略)
グリーンヴェール・シーニック・レジデンス

「日本語による和名はいかがでしょう」と聞いたところ

イタリアンガーデン川越
華美なる花の香りテラス
甘美なリヴィエラハイツ
優雅な雰囲気クレスト
(後略)

川越? 地域がちがう。。。
カタカナがまったくないものとして「大きな地平線の生活」というのがありました。
住所が「江東区白河1丁目……大きな地平線の生活 507」みたいな?
さらに和名で候補をあげてもらうと、「幻想の水辺住まい」などがあげられました。
まあ、通らないかもしれないけれど、カタカナ名より少しましかも。
とはいえ、ChatGPTの回答は、世の中に出回っている言葉をあれこれ組み合わせてる感は否めません。
コピーライターも同じようなことをしてますが。

九段さんの本のタイトル『東京都同情塔』というのはちょっといいです。おそらく「シンパシータワートーキョー」の日本語訳でしょう。刑務所をそう呼ぶようになったら、世の中の犯罪者に対する気持ちも変わるかも。

もう少し、ChatGPTで遊んでみましょうか。

AIの創作能力を試すのに、ネーミングは簡単にテストできていいかもしれません。新発売のお菓子の名前、新しいタイプの塾の名前、、、などなど。

ここでもう少し創作系に寄って、小説のタイトルはどうかな。
以下のような設定で、短編小説のタイトルを考えてもらいます。

わたし
短編小説のあらすじを書きました。小説に合うタイトルを付けてもらえますか?
ChatGPT
もちろんです。あらすじを教えてください。それに合ったタイトルを考えます。

パートナー関係にある二人の男性の会話劇。登場人物はほぼこの二人。
場所は日本。一人はフランス出身で名前はリュシアン。もう一人は日本人でケイ。渋谷のレコードバーで出会った二人は、同居を始めて2年目。リュシアンは語学学校の講師や通訳をしていて、ケイはスタジオ・ミュージシャンと名乗っているが、稼ぎは少なくリュシアンの収入に頼っている。

二人は文化的背景の違いから、あるいは個性の違い、育った家庭環境の違いから、言い争うことが多い。

その言い争いの会話の激しさ(ある種の活気とも言える)、身も蓋もない言いようがこの小説の核で、人間のもつしょうもない部分、弱い部分がよく出ている。また言葉というものが、相手を切りつける武器になることを表している。

たとえばケイは人を血液型で分類するのが面白いと思っている。リュシアンの方はそんなものは科学的根拠がなく、バカバカしいと思っている。ちなみケイはB型。リュシアンはAB型。こんな小さな差異であっても、言い争いが始まると罵りあいになり、相手の性格を罵倒し、最終的に別れ話にまで発展する。最近、とことん対立した際に、リュシアンがいつかクアラルンプールに連れていくと言って謝り、仲が収まったことがあった。

以来、二人の間でクアラルンプールへの旅の話が、ときどき冗談めかして出る。が、金もなく、暇もなく、実現はしていない。それで毎日ちょっとしたことで二人は諍い、暴力はないものの徹底的に相手をこきおろし、関係を悪化させるという生活がつづいている。

しかし何故か、今のところ別れてはいない。自分たち自身、なぜ一緒にいるのか、よくわからないところがある。仲がいいときは、憎しみの感情はどこかにいっている。互いを思いやることも、相手をほめることもできる。まわりの人間には、この二人の関係が理解できない。

架空の短編小説のあらすじ

ChatGPT
素晴らしいあらすじですね。この短編小説にぴったりのタイトルの一つとして、「言葉のダンス」が考えられます。このタイトルは、登場人物たちが言葉を使って争い、踊るように対話する様子を表現しています。言葉が彼らの関係を形成し、崩れさせる力を強調しています。他にも検討するべきタイトルがあれば教えてください。

「言葉のダンス」に対する感想
*つかみは悪くないけれど、話の核をついているようには見えない。また、小説のタイトルとして魅力がない。

わたし
この小説で、別の案があれば、二つか三つ、教えてください。

ChatGPT
もちろんです。以下にいくつかのタイトルの提案をさせていただきます。

  1. 『言葉の戦場』 - 言葉が二人の関係を戦場に変え、時には傷つけながらも、彼らの絆を試す。

  2. 『断ち切れぬ結びつき』 - 言い争いや諍いが続く中でも、なぜか結びつきを断ち切れない二人の関係。

  3. 『対話のラプソディ』 - 言葉による対話が、彼らの人間関係を音楽のようなラプソディに変えていく。

これらのタイトルが物語の要素とマッチするかどうかを考慮してみてください。他にも希望があれば、更なる提案もできます。

感想
*どれもあらすじに添いすぎていて、飛躍がない。

わたし
何か希望がもてるようなタイトルは可能でしょうか。

ChatGPT
もちろん、希望を感じさせるタイトルも考えてみましょう。

  1. 『共鳴の調和』 - 争いと調和が交錯し、最終的には共鳴の中で希望が芽生える。

  2. 『揺れる心、静かなる愛』 - 言葉の荒波に揺れながらも、穏やかな愛が漂う。

  3. 『言葉の裏側に広がる未来』 - 言葉の奥に潜む未知の可能性と希望。

これらのタイトルが希望と共感をもたらすものであるかどうか、お気に入りがあればお知らせください。

感想
*やっぱり地べたを這うようなアイディアばかり。同じ場所をぐるぐる回ってる。また小説のタイトルとしてどうなのか。

と、こんな感じです。いかがでしょう。
とにかく返答のスピードが速くて、聞いた途端に答えが出てきます。相手が人間であれば、慌てないでもう少し考えてから返事してください、と言いたくなります。

いや、ChatGPTは考えてはいません。考えて答えているのではないです。考えるという行為がどんなものか、にもよりますが。

質問に対して、蓄積された大量のデータから、答えを類推し、伝えてきます。マンションの名前のときもそうですが、小説の場合も、こちらが渡した言葉の原材料から、その周辺を探索し、即座に関連しそうな言葉をひろってきて並べる、そういうことじゃないでしょうか。

ここには人間がしているような「思考」はないように思います。やや反射神経のような。

人間でも、これに近い人はいます。その人の犯した失敗や欠点を指摘すると、即座にそれを否定、あるいは弁解、またはくつがえすような言葉で言い返し、相手の指摘を無効にしてくる人。考えて返しているのではなく、すでに手持ちの反論を、反射神経のように返してくる。

ちなみに、この架空の短編小説に文学的な、あるいはストーリーや意図を象徴するようなタイトルをつけるとしたら、どんなものが考えられるか。

わたしの提案は、たとえば『クアラルンプール』です。

クアラルンプールはただの地名ですが、小説の中の二人の男性にとって、そうなったらいいという、現実とは違う状況を象徴する言葉でもあります。

この架空の小説はわたしのオリジナルですが、実は、以前に近しい友人が英語で書いた小説に設定が似ています。その人はその小説に『言わぬが花』あるいは『沈黙は金』のようなタイトルの候補を(英語で)あげていました。が、どうもぴったりはまらない、ということでわたしに相談してきたのです。そのときわたしが提案したのが、この『クアラルンプール』でした。(この地名は、その友人が同じような意味合いで、小説の中であげていたものです)

これを聞いたその作家は、「これだーっ!」と叫びました。「そうなんだよ、これだこれだ、完璧、いただきます」と。

こちらはパッと浮かんだ最初の案を言っただけなのに、これほど本人が喜ぶとは逆に驚きでした。

しかしこのパッと浮かんだ、というのはいったい何なのか。どういう現象なのか。インスピレーション、ひらめき、霊感、啓示、、、、

蓄積されたデータや経験を組み合わせたり、入れ替えたりして何かをもっともらしいものを生み出す、見え方を変える、そういったこととは少し違う、まったく違う場所から降ってきたような、あるいは五感が一瞬のうちに統合されて、バラバラだった既存のもの(過去)が違う一つの感覚となり、何かを発生させた、といった。

おそらく創作というのは、小説でも、音楽でも、絵でも、建築でも、何であれそういった、フッと湧いて出てきたような、どこからやって来たのか定かでない、ある種の啓示のようなものによって道が示されるものなのかもしれません。

その一瞬のひらめきのようなものは、多分、「過去」ではなく、「未来」に属しています。過去を、蓄積されたデータをいくら検索しても出てこない、見つけることができないものだと思います。

その意味で、生成AIは膨大な過去であり、未来ではない。未来と交信できるのは、人間であり、人間以外の動物だと思います。

ただ、、、「フッと湧いて出る」という啓示のようなものも、結局のところ脳の作用の結果と思えば、いずれAIにも同じことが起こせる可能性はあるかもしれません。データから引き出した案をズラズラ並べるのではなく、「偶然性」も組み込まれた、遠い星から飛んできたみたいな、突拍子もないインスピレーションに満ちたアイディアが。
あるいは、、、膨大なデータを瞬時に計算・処理することによって生まれる、この世にはまだない、人間には予測できないアイディアといったものが。


***

蛇足:
たまたまこの記事を書いてるときに、Netflixで『ポップスが最高に輝いた夜』(バオ・グエン監督、2024年)という音楽ドキュメンタリー見ました。『We Are The World』(1985年)のメイキングフィルムで、1985年1月28日の録音スタジオ風景(撮影されていた!)と、生存している歌い手たち(ライオネル・リッチー、ブルース・スプリングスティーン、シンディ・ローパーなど)と関係者へのインタビューで構成されていました。
マイケル・ジャクソン、ボブ・ディラン、ダイアナ・ロス、ポール・サイモンと当時のスターシンガー40人以上が、エチオピアの飢餓を救うために一堂に集まり、歌うことで、レコードの売上金によって支援するというプロジェクトでした。

ライオネル・リッチーとマイケル・ジャクソンが歌をつくり、クインシー・ジョーンズ総指揮のもと、コーラス+ソロの演奏をします。
その歌声の凄さっていうのが半端なくて。そもそも人間の声って一人ずつ違っていてそのこと自体も凄いことだし、またそのバラバラの声が重なったときの迫力も凄いわけです。ユニゾンの迫力、ハモったときの迫力、どちらも。(シンディ・ローパーなど)突出した独特の声をもつ人たちのソロパートも凄くて('凄い'の連続ですが)。
で、もしかしたらこれは、人間の声だからできることなのかな、と。

(深層学習やビッグデータを駆使して)極限レベルまで個性づけし、生成したAIシンガー40人の声を集めて、何か歌わせたとき、こういうことが起きるのかどうか。プログラムの精度をめいっぱい上げて、人間としか思えない個性あるシンガーを40人分つくって。それが可能だとして、その作品の、そこにある意味はと考えると、やっぱり人間が集合して、バラバラの思いとバラバラの声のままやった方がいいんじゃないかと思いました。

いやー、でもわかりません。20年(いや5年?)もたたないうちに、AIシンガーというものが音楽界で地位を獲得して、一般の人気を集めて、ファンを集めて、マーケットを圧巻して、、、、あり得ないことではないです。そういうスターAIシンガーが何人も出て、ボランティアで結集して(多分メタバースの世界で)『We Are The World』みたいなことをやっても、同じようなビッグイベントになって、飢餓や貧困、戦争被害などへの支援の大きな貢献となる、のかも。リスナーもノリノリの大興奮で。

そのころには、AIはキャラクターの独自性だけでなく、擬似感情、擬似共感みたいなものも装備していて、何のために集まって歌うのか、十分な理解と擬似的な感情の高まりをもって、プロジェクトに臨むってことも、、、、

この記事を書いていて思ったのは、人間とAIは酷似しているということ。AIのやっていることは、人間のコピーライターにそっくりだし、音楽界で人気のアイドルグループ(坂道シリーズとか)も、あの人たち実はAIシンガーなんだよと言われても、あーそうなんだ、くらいの感じがあるし。音楽的にもビジュアル的にも。
「究極人形」という名前のグループもあるそうで、むしろ人間の方がAIに近づいていってる? 
状況として、一般のファンが、バーチャルシンガーを受け入れる素地はもう整っているように見えます。。。


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