幻のよる

きっかけは、おきまりのようにSNSだった。
SNSってやつは、一体どうやってこの細い糸をみつけるのだろうか、度々こわくなる。
15年は会っていなくて、いまや共通の友人のひとりもいないわたしたちが、また繋がる必要なんてなんにもなかったはずなのだが。

とにかく彼は生きているようだった。
彼が大学の卒業のタイミングにひとりでタイに旅立ち、なんか知らん川のほとりで京都の女の子と出会い恋に落ちて帰ってきた。
電話でお別れを承知したのに、
夜11時に彼が毎日電話をくれる、というルーティンはなぜか変わることはなく、
どうしてだか、新しい彼女との関係について相談を受けていたのは、遠い昔のはなし。

なぜか、
神宮球場で野球を一緒に観ることになった。
わたしが数年前からカープファンだとは知らないのは仕方ない。
一塁側の内野席、三列目。

それでも、野球観戦は無条件に楽しい。

選手が大きく見えて、つば九郎が近くまできて、
たこ焼きを買ってもらって楽しんだ。

新卒で入った化学系の大手メーカーは退職して、いまは、空港で働いているときいた。
あのころ、いろいろ問題が山積みだった淡路島の実家もいまは落ち着いていると。

しかし、わたしたちは、お互いがいま結婚しているのか、いま恋人がいるのか、とうとう質問もしないで、神宮名物の打ち上げ花火をみて、
試合が終わり、球場を出るとそのまま解散した。
帰り道、関西に居を構える彼が、今夜どこに泊まるのかもわたしはきかなかったことに気づいて、少し笑った。

あの夜は、本当に実在したのか、いまでもぼんやりした気持ちになる。

そういえば、カープが勝ったのかどうかも、覚えていない。

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