これで最後、というつもりだった。

ワインを飲むと決めていたわたしは、乾杯のビールを飲み切れずに差し出すと、「いいんすか、」と躊躇もなく口をつける彼を横目で確かめながら、
わたしも彼のような人間だったなと思出す。

それ、ひとくちちょうだいとお酒や料理をもらったり、歩くときは、肘に手を絡ませたり、男友達と会うと嬉しくて、酔ったりあまつさえ泣いたりした。彼らが女性にフラれたりすると肩を抱きなぐさめたりもしていた。

わたしは鈍重なブスだったので、
彼らがわたしを好きと言うことはなかった。
ただ、それだけのことだ。

彼は冷ためたふりをして、寡黙にふるまうが、わたしがして欲しいツッコミをきちんとしてくれる。こころに、ちょうどいいサイズのハリセンをもっている。そして、人に興味がないという複雑な悩みを持っている。本当に人に興味がないひとはそんなふうに悩んだりしないのにな、とわたしはいつも疑問におもう。
頭が悪いのかなと思うけど、彼は文武両道の高校でサッカーに打ち込み、旧帝大を卒業している。

彼の矛盾する様にも、わたしは惹かれていたのだと思う。

テーブルに議論を乗せていったら、乗るべき電車はもうなかった。

明日も仕事だとちゃんと渋って、
二件目を探すわたしにフラフラとついてくる彼の誠実をわたしは愛している。

今夜も、薦められたワインを頼んだ方がいいのかな?と言いつつ、ビールばかりキレイに飲んだ。
彼の左肩がうしろからわたしの右肩にぶつかり、顔を合わせて笑う。

うん。
わたしも、そういうひとだった。

ただ、あなたが素敵で、
見つけたのはわたしの友達だったのに。
ただ、わたしが、ふとした瞬間に、
あぁ、好きだなぁって思ってしまって、
それが一年間毎日続いたから、
伝えるしかなかっただけ。

素直な気持ちを、話してもらえる自分であることに、すこしホッとしたりもしたんだ。

「僕はそういうふうに思ってないです」

半年前、六本木の喧騒のなかで、
あなたがわたしを振る前に、
息をちいさく、吸う音がした。

あなたが、わたしの気持ちに応えられない自分に傷ついたような気がしたんだ。あのとき。
それだけで、なんだか、わたしは嬉しいような気がしたんだ。

そのあとに、彼は言った。
「僕たちはもう、会えないんですか?」

会えない。
と言ったのはわたしなのに、
会いたくなっちゃった、と誘うわたしもわたし。

「いつものことながら、遅い時間帯でよければ!」
という彼も彼。

告白のときにプレゼントしたデンマーク製の時計は、手首には巻かれることはない。
フラれ続けてることはちゃんと理解しているよ。

どんなにお酒が進んでも、フッた身として、
先の話もまたねとは言うこともしない彼の、誠実をわたしは愛している。

わたしの存在は、大したもんにならなくても、いつかちゃんと邪魔になる。

それを伝えてくれたとしたら、
それもさ、ちゃんと誠実と呼んで愛すから。

またこうして、わたしの前で笑顔を見せてね。できれば。
わたしの前で、少しずつ酔ってほどけていってね。できれば。

でも、次は、わたしのためにタクシーを止め、ドアを閉めてはくれなくてもいいよ。

少し歩きたくなっているはずだから。

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