忘れていたのに
同じ職場で、いつもニコニコ気遣ってくれる人が、何か書類を束ねているときに、たまたま正面にいたわたしは、その開いた眉間と長い睫毛が目に入って、愕然とした。
似ているのだ。
だから、自然と目で追ってしまっていたのだ、わたしは。
それだけで背中が冷えていく。
いまでも、思い出すとただれたような灼けついた気持ちになる。
何人かのひとを好きになったけれど、こんな気持ちになるのは初めてかもしれない。
彼に会わなくなってほぼ一年くらいは、わたしは紙クズのような気持ちで生き続けていた。
彼がわたしにしたことは、客観的にみたら、たいして酷いことではなかったのかもしれない。
問題があったとしたらたぶんわたしのほうで。
ふたりで楽しく何度か食事をした彼のお母さんや、
たまに買い物を請け負うと、娘ふたりのありがとう動画レターをおくってくれた可愛い彼の妹にも、
もう会うことはないのだなぁと少し切ないような気持ちになる。
今夜は近所の温泉に入ってすぐ眠ろう。
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