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4章第4話 病院では

 
【目 次】


 サークルが「宿題」に取り組んでいた間の病院の様子を少し見てみましょう。実は、千葉ちゃんの入院直後から詰所では、彼が入った306号室が毎日のように話題になっていました。こんな風にです。

 

看護婦A:なんかさ、あの人が来てから暗かった病室が一変したわね。

看護婦B:そう。二日目くらいから千葉さんが「はあい、点眼の時間ですよ」なんて声かけててさ。そしたら、お互い口きかなかった人たちがさ、声揃えて「はーい! 次も教えて下さい!」なんて、元気よく返事してんのよ。笑っちゃうわよ。

看護婦C:世代が近いってこともあるかもしれないけど、まるでクラス会みたいよ。さっきあそこを通ったら、中でひそひそやってんのよ。何かと思って立ち聞きしたら、自慢話大会なのよ。

看護婦A:自慢話大会? どんなさ?

 そこで、看護婦Cが廊下で聞いた話を話し出しました。

 


■流氷の上のバーベキュー大会


 千 葉: 俺なんか高校の時、毎年流氷の上を何時間も一人でずーっと歩いてってさ、沖でカムチャッカから来た人たちと氷上バーベキューやってたさ。捕まえたトド肉でさ。


患者1
: それはないべさ! それに流氷乗ったら叱られるべさ!

千 葉: こっそりやってたんだから、叱られようがないさ。

患者2: 言葉、通じないべさ。

千 葉: ジェスチャーで分かるって。


看護婦C
: みんなで「いやいやいや、そりゃ、ほらこいてる」って言って、大笑いしてんのよ! そしたら、千葉ちゃんが「としちゃんも何かないか」って。

看護婦A:えっ、「としちゃん」って「高橋さん」のこと? あの二人知り合いだったの?

看護婦C: 全然。だけど、あの病室では「お互い、同室でいられる数日を楽しもうよ」って、下の名前やニックネームで呼ぶことにしたみたいよ。笑っちゃうわよ。そしたらね、その「としちゃん」が「俺はカワセミの墓場を見つけたことある」って話したの。全員が「ええー」ってそっくり返ったらね ― 

 

■カワセミの墓場


としちゃん: あんたたち、死期を迎えたゾウは群れから離れて墓場に行くって話、知ってるべさ。都市伝説って話もあるけどさ。で、俺はある時、川辺を歩いてて、「そう言えばカワセミの死骸を見たことないなー」って思ったのさ。
 それって変だべ。カワセミだって死ぬべさ。なのに、死骸を見たことないからさ、もしかして、どこかに墓場があるんじゃないかと思って、次の日、弁当作ってさ、川の上流調べに行ったさ。流れをどんどん上って行ったらさ、見つけたの。浅瀬の川底にカワセミのガイコツが刺さっているのをさ。墓場よ。カワセミの。

患者3: なんで刺さってるのさ。

としちゃん: 推測だけど、目が悪くなってエサ取りの失敗回数が増えてくと、ある日、縄張りを子供たちに譲るため、カワセミはそこに行くんでないべか。そして思いっきり川に飛び込んで死ぬんだよ。だから、粘土質でしっかり刺さらないと駄目なのさ。抜けちゃったりすると決意が鈍っちゃうからな。
 いやー、幾つもの骨が刺さっててさ。俺は思わず手を合わせた。

 

看護婦C: みんなが「ほんとか、ほんとか?!」って聞いても、としさんはニヤニヤするだけで返事しないんだわ。代わりに、「お前なんかないか、JT」って隣のベッドに話を振ったらさー。

看護婦A:えっ、ちょっと待って、ちょっと待って。こないだまで殆ど話さなかった人を、突然「お前」呼ばわりかい。それに、その「JT」ってなんなのさ。

看護婦C: 「寺田さん」よ。学校時代にトランペット吹いていたらしく、ラッパ吹いてたんならラッパーだとなって、それぽく「JT」って呼ぶことにしたみたいよ。あの年でさ。本人は結構気に入ってるみたいよ。

看護婦B:それで「JT」は何話したの? 早く聞きたい! 私こういう馬鹿な話が大好きなの。

看護婦C: それがさー、信じられないんだわ。「キツツキを手で捕まえてた」って言ったのよー! みんなは、「それはできないべさ」って言ったんだけどね、「俺はやった」って言うのよ。

 

■キツツキの手掴み

 
J T: 知ってっか? キツツキが木をつっつくのをドラミングって言うんだけど、ダダダダダって1秒間に何回やると思う? 20回位やるんだぜ、固い木だってなんだって1秒間に20回の高速でダダダダダってやるのさ。
 その衝撃を考えてもみろって。根性ないキツツキは完全に脳震盪起こして、落ちちゃう。かなりベテランのキツツキだって、勢いよくドラミングしている最中、突然、木の中に固い芯かなんかあったりすると、「ガーン」だよ、「ガーン」。嘴が跳ね返され、めまいして落ちちゃうのさ。それを手掴みよ。


としちゃん
: ほんとかよ!

J T: 俺、嘘つく顔してる? キツツキは、あれだけガンガンやるには年期も根性も必要って訳さ。

千 葉: だけど、どれが落ちてくるキツツキかなんて、事前に分からんべや。

J T: そりゃ、分からん。だから、キツツキが来そうな木に目星を付けて、その下で寝転がって隠れて待つのさ。やがてキツツキが現れてドラミングを開始する。そしたらドラミングのテンポをよーく聞いてから、そのタイミングを崩すように木をガーンと勢いよく蹴る。音楽で言う「裏拍」の所だ。分かるかなー、君たちには? 
 そしたら、木の揺れるテンポがずれる。キツツキにしてみたら、予想より半テンポ早く木の揺れが自分に戻って来る。
 キツツキは慌てる。だけど、もう遅いんだわ。なにせ高速でダダダダやってるからなあ。「も一丁突っつくか」と思ってる所に木の方からやってくるんだから、たまったもんじゃない。カウンター・パンチみたいもんだから破壊力抜群! それで「ふわ~」っと脳震盪起こして、落ちて来るやつを捕まえるのよ。



看護婦C
:みんなが、「いやー、さすがにそれは信じられませんぞ」と言ってると、誰かが、「キツツキって木を突っつかないと餌食べれないのか? その辺の木の実とか虫とか食べないのか?」って聞いたのよ。
 そりゃそうよね、あれだけダダダダ木を突っついて虫1匹じゃ、割り合わないじゃない? だから、一瞬静まり返ったの。そしたら何て言ったと思う? 「そんなことやったら、キツツキじゃないべや。仲間から『ウソツキ』って言われちゃうっしょ!」だって! もう、何が何だか話がわや。だけど、おっかっしいしょー。

看護婦B:いやいやいや。あの人たち、ほんとはんかくさいんでないの。で、それでおしまい?

わや:ごちゃごちゃしてる様を表す北海道弁。
はんかくさい:バカ、おかしい。

看護婦C:いやさ。そしたら、JTが「竹ノ内」もなんかないか?」って振ってさー。

看護婦B:ちょっと待って。あの病室に「竹ノ内」はいないじゃない。残るは「上田」さんと「下村」さんじゃない。

看護婦C:上田さんが「おれは竹ノ内豊に似てるから、「竹ノ内」がいいって主張したんだってさ。

看護婦B:やめてほしいわ! 「上田馬之助」みたいな顔してるくせにさ。

看護婦C:まあまあまあまあ、落ち着いて。その竹ノ内がトカゲの話を始めたの。

 

■几帳面なトカゲ


竹ノ内
: 俺は皆みたい面白い話はないなあ。でも・・・去年、庭の草取りしていた時、トカゲの面白い習性を見つけちゃった。教えちゃろか? 
 トカゲってネコなんかに追いかけられてしっぽを切り離すしょ。ネコが切れた尻尾を持って行くこともあるし、切れた尻尾が動いている間は遊んでいても、動かなくなると、それをほったらかしにしちゃう猫もいるんだよね。それを去年、見たのさ。
 ネコが尻尾を残して行っちゃうと、トカゲがひょっこり戻ってきたのさ。そしたら、自分のしっぽをくわえて縁の下に入ったさ。おっかしいなぁと思って、覗いてみたらさ、カラカラになったしっぽが何本も、きちんと並んでるのさ! いやあ、びっくりした。トカゲって几帳面なんだわ。


看護婦C
:そしたら、みんなで「 そりゃない、そりゃない。あんた一番真面目そうな顔してるけど、なかなかのもんだなあ」て言って、みんなで大笑いしてんのさ。
 あの部屋の人たち、みんなおかしくなったんだわ。あの人が入院してからね。でも、笑いがあると救われた気持ちになるわ。

看護婦B:でもさ、千葉さんは 明日もう片方の目の手術して、明後日には退院よ。

看護婦A:そしたら、あの病室どうなるの?

看護婦B:また。静まり返っちゃう…?

 

看護婦C:でも、もし失敗すると、退院が延びるけどね。

看護婦A:だよね。先生に頼んでみる?

看護婦C:そうしてみる? もう少し楽しくいたいもんね。

 

 詰所に笑い声が広がりました。まあ、冗談で話していただけでしたが、千葉ちゃんの2回目の手術は「なんとなく」失敗し、退院が数日伸びてしまいました。(汗)

 
「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)


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