娘たちからのプレゼント
僕の人生には思いもしないことが良く起こる。
それは2011年10月のことだった ―
* * *
話は変わるが、僕たち夫婦はロンドンで出会った。
妻は1972年の9月末、本場イギリスでダンスを習うため香港経由の南回りでロンドンに入った。
僕はアメリカの避暑地でウェイターをしてから同年10月にロンドンに流れ着いた。
だから、後年になって、
「僕たちは地球を抱きかかえるようにして巡り会ったんだね」
と妻に話して笑われたことがある。
それはさておき、僕たちはしばらくして一緒に帰国した。
結婚の約束をして。
しかし、訳あって駆け落ち。
入籍は親の理解を得てからにしたかったが、妻が最初の子を身籠ったとき、生まれてくる子のために母子手帳の苗字は一緒にしようと、入籍することに。
実は彼女の母子手帳は母親の旧姓だったので、同じ寂しさを味わいさせたくないとの思いがあった。
入籍日は、この結婚も何でもきちんとやり遂げたいと、「一から十まで」の言葉から10月10日にした。
そしてその日がきた。
祭日の日の朝、市役所の裏戸から二人だけで結婚届を出した。
結婚式はしていない。
写真もない。
それが僕たちの勲章。
そんな言葉こそ使わないが、僕たちは同じことを感じながら笑って過ごしてきた。
何もない生活だったが、人は良く集まり、笑った。
そのうちに、やっと二人目の子供も生まれ、4人家族の賑やかな生活になった。
人が来ても来なくても、笑いが絶えない明るい家庭。
やがて、二人の娘たちは大人になり、
それぞれに、素敵な伴侶を見つけ、
僕は思いもかけず、
娘と腕を組んでバージンロードを2度歩いた。
昨年と今年、同じ8月に。
人生には、考えもしなかったことが起こるものだと、感心した。
二人の花嫁姿は美しく、愛おしく、
自分という人生の中で
「いい父親役をやらせてもらっている」と感謝した。
それから二月がたち、33回目の入籍記念日がきた。
特別なことはしない入籍記念日が。
知り合って40年。
その少し前から、子供たち夫婦から、
「記念日は過ぎてしまうけど、それも兼ねてお食事会でもしましょ」
とお誘いが来ていた。
グッドアイディアじゃないか!
楽しいことは大好きだ!
総てのアレンジを娘たちに任せ、言われるままに都内で待ち合わせ。
「どこで食事かな?」
「それとも、初めはお茶かな?」
と、ひょいひょい若者たちの後を着いて行くと、
そこは、丘の上の・・・
小さな結婚式場・・・
僕 :「??? ???」
妻 :「???」
妻 :「★∇○!」
僕 :「!!」
驚く僕たちを楽しそうに見つめる4人組。
そして、
「私達からのサプライズです!」と、娘たち。
式もしていなければ写真もない親のために、
娘たちがずっと前から考えていてくれたようです。
戸惑う女房・・・
こうなったらやるしかない、と早々に腹を決める僕。
かくして、結婚式は厳かに執り行われ ―
神父:「~、誓いますか?」
僕 :(どうかな、という顔をして首をひねる)
妻 :(ピシッと叩いて、誓いを促す)
僕 :「ち、誓います!」
* * *
ウェディングドレスに包まれた、美しい妻をプレゼントしてくれた優しい娘たちと、
それにニコニコ笑顔で付き合ってくれる、気持ちのいいご主人たちに、
繰り返す「ありがとう」の言葉が、
僕の気持ちを伝えきれていないことを知った。
今までは「なにもない」のが僕たちの勲章。
そしてこれからは、このサプライズが僕たちの本当の勲章となって、
人生を支えてくれるだろう。
僕の人生には、夢にも思わないことがよく起こる。
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