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交換日記

処分できない青春の思い出の物に「交換日記」がある。

当時読んでいた「中三時代」の読者コーナーに「交換日記をしている」との女子の投稿があった。「交換日記」には女子のイメージがあるが、「俺たちもやろうぜ!」と親友たちに提案し、僕が口火を切って書き出したのは1965年(昭和40年)6月7日。

日記は主に合唱部の3名の間で交換した。3名とは ―― 

井矢見
比賀見
苦砂見


僕たちの仲間に最初にバク転を成功させた高橋君がいて、僕が彼に「お前、チビ太に似てる」(漫画、おそ松くんに登場する人物)と言って「チビ太」と呼び始めると、すかさず彼は「じゃあ、お前はイヤミだ!」と言い、それで僕のあだ名はイヤミになった。


「お前がイヤミならおれはヒガミにするかな」と決めたのは成績優秀、リーダーシップ抜群の加藤君。


加藤君と同じく成績優秀だった桑山君はクシャミと決めた。これは夏目漱石の「吾輩は猫である」の登場人物から拝借したもので、桑山君の読書家らしさがあらわれていた。


日記の内容は初っ端から好きな女の子の話で、その後も、好きな子の話を中心に、お互いの意見をぶつけ合いながら2冊目、3冊目と続いた。


次の人に回すために、休みの日は家まで届けたりもした。そんなことも楽しかった。

翌年には高校受験があり、一人は遠くの優秀な高校を目指していたので、いつまでも続けられるわけじゃないと分かっていたが、心のどこかで、いつまでも続いて欲しいと思っていた。友情の証に。


翌年の1月に「日記は続けるべし」の書き込みがあるのだが、それは、この頃からなんとなく3人の間に溝が生じてきたからでもある。原因は良く分からないのだが、書き込みがギクシャクしてきた。


1966年(昭和41年)2月17日、苦砂見が書いた(抜粋)。

「自分の本来の姿なんてありやしない。
自分というものは絶えず変わっていなければならないんだ。
昨日と今日の自分が同じであってはいけないんだ。

お前の本来の姿なんてありゃしない。
あるのは過去の自分と更に過去より進歩した自分だけなんだ!
お前は元のお前には戻れない!」


苦砂見が叫んだこの日から交換日記は白紙のページになった。

今も残る4冊の中に、僕たち3人の中三時代が詰まっている。

(まこと)





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