8.隣のサイコパス

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誰にでも好かれる校長

スタウト氏は二十歳そこそこのハンナという女性のセラピーをしていた。
ハンナの父親は、公立高校の校長をしていた。
ある時ハンナの父親は、家に押し入った麻薬常習者を撃ち殺した。
過剰防衛として、懲役10年の有罪判決を言い渡された。
弁護士曰く「弾が後頭部に当たったのは全くのまぐれ当たり」だそうだ。

浮かび上がる人物像

ハンナのセラピーを終えた後、スタウト氏はハンナの言動を振り返った。

ハンナは「なぜ」と自問しなかった─────

「なぜ父は発砲したのか」
「犯罪者と言えど、背を向けて逃げている人間に対してなぜ撃ったのか」

行動動機を知るのを無意識に恐れているのだろう。知ってしまうと父親との関係が危うくなると本能的に察知している可能性がある。

ハンナの話を通して浮かび上がってきた父親の人物像だが、感情的に冷たく、卑劣で支配的であった。ハンナと妻のことは大切に思っているのだろうが、家族というよりトロフィーのような扱いをしているようにスタウト氏は感じた。しかしハンナは父親のそんな性質を、愛のムチのようなものだと解釈していた。
ハンナが言うに父は完璧主義であり、ハンナにニキビができただけで、数日間口を効かなかったそうだ。
ハンナの母が病で入院した時もそうで、一度も見舞いには行かなかった。それどころか、退院した青白い妻に対して「醜い」と不満を持った。

母は不満をもらさなかったし、自己主張をして父親にたてつくことは一度もなかった。
ハンナの母親も完璧主義者であり、虚栄心があった。

ハンナ曰く父親は完全に何もしない訳ではなく、自分が家を空ける時は、母親に花を送ることもあるし「きれいだよ」と褒めることもあるとのこと。
しかしスタウト氏はこの発言に違和感を覚えた。
「父親はどこへ行くわけ?」
そう問うと、ハンナは動揺した。「よく知りません」とのこと。夜遅く帰ってきたり、週末いっぱいどこかへ出かけたりしていた。

話をさらに聞くと、ハンナの父親は、ハンナの友人に対して、セクハラまがいの言動をしていたという事が明らかになった。保護者たちから数回クレームが入った事もあるという。しかしその度に、周りの人間は「校長がそんな事をするはずがない」と弁護をした。

剥がれた仮面

ハンナは人伝ひとづてに《他者に対して校長は、セントラルをセックスのカフェテリアだと言っている》という事を聞く。

泥棒が入った後は、麻薬絡みの電話がかかりはじめたということも母親から聞いた。
電話の主は、ハンナの家にある《情報》を求めており、従わないと父親を痛い目に遭わせると主張していた。


その後ハンナは服役している父に面会し、再びスタウト氏のセラピーを受けた。
ハンナ曰く、父は元気そうだった。それどころか生き生きしていたとのこと。

ハンナは父に対して、麻薬常習者は家で何を泥棒しようとしたのかを聞いたところ、《名簿》を探していたとのこと。父親は、それを話す時も楽しそうだった。ハンナはゾッとした。
ハンナは嫌な予感がして、他に人を殺したことがあるのかを聞いたところ「黙秘権を行使する」と、暗に認めた。

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