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随筆: 感動的な葬式

 つい最近親戚の葬式に出席した。正直言って、半ば義務感からの出席であった。亡くなった人は私と歳が15歳も離れた年上の従弟にあたる。もう10年以上も前に別の親戚の葬式で会って以来のことであった。

 僧侶の読経が続く中、喪主に続き一人一人、参加者は棺が安置された祭壇の前に進み、両手を合わせて故人の冥福を祈った。その中の一人で、かなりの高齢の男性が、長い間棺の前に立ちじっと故人を見つめていた。そして、突然「いろいろとありがとうございました」と言って、両手を合わせた。その人は故人とどのような関係があったのかは全く知らない。しかし、相当親しい関係だったのだろうと推察した。

 葬式が終わり僧侶が退場した後、故人を偲んでバイオリンとオーボエの演奏者が祭壇前に出てきた。フランク・シナトラが歌い有名になった「My Way」の演奏をおこなった。私が知っているこの従弟は、かなり歳をとってからも赤いスポーツカーを乗るなど派手好きで個性的な人であった。この曲はまさにこの人に捧げるに相応しい曲であった。

 葬儀に参加する前、家族葬で行うと聞いていたのだが、気が付くと先の高齢の男性と同じような人が5名ほどいた。葬式が終わり、棺の中の故人の周りに花を供える時、その人達も家族や親戚に混じりいっしょに入れていた。そして棺に蓋をしたとき、別の高齢の男性が、亡くなったことが残念でならないという気持ちを表すように、何度も手で軽く棺をたたき、「ありがとう。お世話になりました。」と声をかけた。

 葬儀の時、こんな声をかけてくれる友人がいるとは、亡くなった従弟の私の知らない人柄を初めて知った。

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