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弥太郎、丸山に行くも遊ばず

閏三月五日~八日 岩崎弥太郎は数日来、遊びが過ぎたと自覚したらしく、付き合いや用事で丸山に出かけても深入りしません。記述から、内心では帰郷を決断し達観したような気配を感じるのですが、いかがでしょう?

五日 田内久米という同郷の者が寓舎に来て、その僕しもべが帰国するというので、下許武兵衛と自らの書簡(父親あてなど)を託しました。その後、二人で鍛冶屋町の茶屋に行くと、田内が歌妓を呼びたいと言いましたが、弥太郎は「故ことさらニ」引き受けませんでした。

 しかし田内は自分で都合をつけたようで、「老妓」阿菊がやって来ました。指相撲や箸拳で「互いに技を尽くし」、真夜中近くなって、田内は大酔、「余もまた随分愉快」。阿菊が帰り、田内は泊まると言いましたが、弥太郎は無理にも寓舎に帰りました。

六日 朝は読書。夜、田内が熱望するので一緒に丸山へ。茶屋で妓女と酒宴の後、「諸楼を徘徊」し遊女屋に行きました。弥太郎は遊女を断り、田内には「玉川とか申す娼妓」がついたものの、歌妓がなかなか来ません。弥太郎は「戯れに老婆を罵ののし」り、険悪な空気に。

 午前三時頃に弥太郎は退出、田内は残りました。帰路、馴染みの歌妓歌路の「宅前で細声で名を呼ぶ」。茶菓で接待された後、もう一人の歌妓と三人で外出しました。下婢が明かりを灯して先行、辺りは「寂然」としています。深夜営業が当たり前の遊郭も、さすがに灯火の落とされる時間でした。

 それでも、「一酒楼を呼び起こして酒を命ず」歌って、飲んで、歌妓二人は「指相撲で互いに技を極める。傍観するのもまた楽しい」退出すると、二人の歌妓は(丸山の出入り口の)二重門まで来ても別れようとせず、「相和して歌いながら、ついに余の寓居まで来てから辞去した」この時の声を同宿者に聞かれ、「余は顔に汗しながら枕に就いた。間もなく鶏が鳴いた」

七日 朝は読書、昼前から同宿者と田内と三人で伊勢神社を参拝し、「眺望が甚佳とても良い」諏訪神社にも赴きました。ゆっくり寓舎に戻るとすでに薄暮。夜、昨晩の会計がすんでいない分の支払いに行こうと考えつつ、頼山陽の詩を読んでいたら「不覚にも夢の内にいた」

八日 午前、下許武兵衛を訪ねて長崎見物の客が来たので、下許は不在であると告げました。夕暮れ、その客を旅宿に訪ねると、ちょうど酒席で「彼是かれこれ談話中」、一緒に酒を飲み、弥太郎はイギリス人を訪ねる予定があるので来ないか、と誘いました。その後丸山に寄り、昨晩の歌妓に支払いをして「直様すぐさま」帰りました。

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