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弥太郎、最後の豪遊

閏三月十一日~十三日 岩崎弥太郎は、上司の下許武兵衛が出張で不在の間に丸山で豪遊しました。また、英国人と知り合いになった縁を活かして、当時のハイテクである蒸気船を見物しています。

十一日 暮れ方、弥太郎は明日帰国だという前川を寓舎に訪ねました。その後、花月楼に上がり、昨晩から浪花楼に置いたままだった袴を取りに行かせたところ、「ご来臨を請う」と袴を渡してくれません。舞妓を交えての酒宴の後で浪花楼へ行き、花月楼の阿近や芸妓ら多数を交えて「団欒」しました。

 弦や鼓で賑やかな中、遊女の一人が弥太郎の耳に猥褻な囁きをし、男芸者は手拍子を叩き、舞妓が舞います。最中に弥太郎が秘かに楼から抜け出ようとしたところ、浪華楼の皆に遮られます。「余は奮然として直ちに去る」花月に行って「一睡」するとすでに深夜遅く、起きて寓舎に帰りました。

十二日 この日は、午前中から隅田敬治と花月楼に行きました。藤の花が咲き誇り「言葉で言えないほど綺麗である」舞妓が弦や鼓に合わせて舞い、隅田のために別の遊女屋で馴染みの遊女も呼びました。指相撲、酔甚楽酔ってすごく楽しい、弥太郎は昼頃に寝てしまい、起きると既に薄暮。隅田を別の遊女屋に訪ねて行くと、まだ布団の中でした。

 そこでも宴席となり、弥太郎のために舞妓が呼ばれます。泊まっていけとの誘いですが、そうはしたくない弥太郎は「一計を案じて」花月楼の阿近に手紙を出します。すると阿近が馴染みの遊女綾葉と共に現れました。「随分愉快ナリ」阿近は陪席して酒を飲んだ後、弥太郎の刀を肩に担いで帰ろうとします。

 弥太郎を留めるために、遊女屋の面々が刀を奪いにかかりますが、阿近は離さず綾葉と共に笑いつつ立ち去りました。弥太郎は左右(の刀)と離れるわけにはいかないから、と最後には怒ったふりまでして、花月に戻りました。その際、明朝迎えに来るよう隅田と約束をしました。

 弥太郎は、阿近が都合をつけて別の遊女屋に来てくれたことを喜んでいます。阿近との親しさもありますが、得意客への特別サービスであり、これも料金の内、きっとすごく高かったでしょう。また、弥太郎は当たり前のことのように書いていますが、女性に刀を託したり、妓楼に置きっぱなしにしたりするなど、刀の扱いがぞんざいに見えます。

十三日 朝八時頃、隅田が来た時、弥太郎はまだ布団の中で二日酔いでした。知人宅に泊まっていたと装うことができるよう、寓舎に戻る隅田に頼みごとをしました(後述しますが、その日上司の下許が出張先から戻るのを出迎えずにすまそうとしたのです)。漱口くちをすすぎ喫飯めしをたべた後、広馬場の英人メイジョウル宅に行きました。茶菓でもてなされ、「少シク」牛乳を勧められて断ることができませんでした。亦一況也まあ、こんなこともある

 その後、メイジョウルとイギリスの火輪船(外車式蒸気船)を見物に行くことになり、大浦港会所の下から「英の舟印(旗)を風になびかせて、端艇バッテイラの櫓を舟子二人に漕がせ、波を乗り切って飛ぶように火船に赴いた」この様子を、(たまたま?)鬼界島で舟遊びをしていた同郷の田内久米に目撃されました。メイジョウルは弥太郎を連れて火船を詳しく案内しました。「広大さに驚いた」

 メイジョウル宅に戻り、「大コップニテ冷酒ヲ牛飲ス、西洋酒ナリ」その日は尾崎優舞場(劇場)に行くことになっていたのでねんごろニ案内」する約束をして辞去。「結髪、浴場」。芝居茶屋に頼んで予約した「高桟敷」に、メイジョウルはだいぶ遅れてやって来ました。演目は「伊賀越(道中双六)」、「随分面白」。「娼婦」数人と盃をやりとりしました。

 夕暮れ時に花月に入り、綾葉らとの酒席の後に「投宿」。真夜中を過ぎて寓舎に帰りました。「この日、下許君が肥後行きから帰った。午後は英人の案内だと申し置いておいた」ものの、「不義中の義で(上司に不義理をしつつ、遊女には義理を果たした、の意か? 結果、当日中に大根屋に戻ることができなかったので)「一計を生じて、小さな燗瓶とっくりに西洋酒を入れ(たものを添え)、手紙を認めて下許君に投じ、(遊びほうけていた)足跡を蔽い隠そうとした」あきれた振る舞いですが、恐らく弥太郎は最後の豪遊だと観念していたはずです。


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