親切な人に伊雑宮への行き方を教えてもらったものの、遠いし、電車の本数少なすぎだし、とても行く気になれなかった。でも、姫様たちが行きたいというのに、行かないという選択肢はない。行く手配をしないと、また、右肩が刺されたように痛み、手が上がらなくなるので、必死でツアーを探した。2つほどツアーを見つけ申し込んだ。うち、1つは人数が集まらず催行されなかった。やっぱりマイナーな神社なのだ。伊雑宮に行きたいと人に相談すると、
「随分、ディープな所に行きますね。変わった神社が好きなんですか？」
と聞かれる。はあ、まあ、とか言いながら、ディープな所だよなあと思う。

伊雑宮は、キリっとした雰囲気の静かな佇まいをした神社だった。駐車場の近くに鳥居があり、そこから一面、田んぼが見えた。神様にお供えする大切なお米を育てる場所なので、客観的には広々とした開放的な空間であったが、鳥居を入り口にした強固な結界が見えた。これは、凄いところに来てしまったと思った。神社の入り口の方に歩いていくと、神社の向かいに立派な家が建っていた。そこからも只ならぬ力を感じた。6羽のカラスが、その家から飛んできて、私を囲むように陣取り、歩き始めた。他のツアー客は
「えーーカラス、怖い」
と言いながら、私と距離を取って、御朱印を貰う列に並び始めた。私は御朱印を集めないので、真っ先に2つ目の鳥居をくぐった。鳥居から入ってすぐ右側に拝殿はある。それを見たのだけど、イシス神殿の時のように、鳥居をくぐったとたん、別の世界に入ってしまった。6羽のカラスに守られるように囲われながら、鳥居をくぐると、また、霧のなかだった。巫女さんのような人が5人現れて、2つの大きな箱の蓋を開いた。中は紫のビロードのようなものが敷かれていた。巫女さんの1人が近づいてきて
「お運び下さったものを受け取ります。」
と言った。私は思い当たることが無かったので、もじもじしていると、巫女さんが私の身体に触れて、体内から剣と首飾りを取り出した。剣は長さ50センチ、真っすぐな剣で、沢山の宝石がちりばめられて豪華で重い剣だった。首飾りも舞台衣装かと言いたくなるような、豪華で、大ぶりのものだった。巫女さんがそれをさっきのビロードが敷き詰められた箱にしまい、消えた。

私は呆然と第２の鳥居の前に立っていた。添乗員さんが
「もうすぐ出発しますから、バスに戻って下さいね。」
と声を掛けてきた。確かに、他のツアー客はバスに戻りはじめている。でも、私はまだ参拝してないし、と思い鳥居をくぐろうとすると、添乗員さんが
「白鳥さんの参拝姿があまりに綺麗だったので、写真に撮りました。ツアーの広告に使いたいのですが大丈夫でしょうか？」
と私が、伊雑宮を参拝している写真を見せてくれた。参拝している。確かに私だ、でも私の記憶としては参拝してない。頭が混乱してフリーズしてたら、添乗員さんが
「無理なお願いしてごめんなさい。すいませんでした。」
と言われてしまった。私も我に返り、急いでバスに戻った。私は客観的には普通に皆と一緒に本殿に参拝していたのだ。でも、私の記憶というか経験としては、違う所に行って、巫女さんに会っていた。そして多分エジプトのお土産を届けたのだ。それについては思い当たることがある。それは体重の増減だ。エジプトから帰って、体重計にのって驚いた。10キロ増えていた。エジプトの料理は美味しかったけど、10キロも太るかな、と衝撃だった。周りの人に、私、旅行で、ものすごく太った、と嘆いても
「そんな太って見えないよ。」
と慰められていた。そうなのだ、自分でも太ったように見えないのだ。この10キロはなんなのか、体重計の故障なのか？と悩んだ。しかし、伊雑宮から帰って体重を計ったら、10キロ痩せていた。そんな簡単に10キロの増減はしない。剣と首飾りが10キロあったのだと考えるのが一番納得いく。いったい私は何をしているんだろうと思ったが、深く考えないことにした。姫神様の無理難題のおかげで伊勢に行けたし、美味しい赤福を本店で食べることが出来たし、それでいいじゃないか。

イシス様に言われてから「開ける」を意識してはいるが、こういう、お仕事もあるのかもしれない。私は勝手にこれを「お運び」と呼ぶことにした。

私を守ってくれたカラスは伊雑宮の向かいの家に帰っていった。濡れたようにつやつやの毛を持った美しいカラスだった。

バスに戻ると添乗員さんが、
「先ほどはすいませんでした。これパンフレットでして、お勧めのツアーが書いてあります。
特に、この富士山のまわりにある浅間神社のツアーがお値段もお手頃だし、お勧めです。ぜひ」
と言いながら、渡してくれた。姫神様が喜んでいる。
「ぜひ、参加したいです。」
私の気持ちとは関係なく、参加を表明する。添乗員さんも喜んで、細かいことをいろいろ教えてくれる。次は浅間神社だ。