旅行会社から、富士御室浅間神社を回るツアーが、新しく出ましたと連絡が来る。以前行った浅間神社巡りには入ってなかった神社だそう。金運アップということで人気があるらしい。また、金運ですかあ、とちょっとテンション下がったが、ここには行かねばなるまいと思い、申込ボタンをぽちっとする。

当日はとても天気が良く、雲一つない。ツアーで一緒になった男性が
「あなた、ラッキーでしたね。私と一緒だと絶対晴れるんです。」
とドヤ顔してくる。何を言ってるんだ、姫神様がいるからだぞと、言い返してやろうかと思うけど、姫神様たちが放っておけというので、振り上げた拳をおろす。神社ツアーは女性が多いが、それを気にせず参加する男性は不思議ちゃんが多いが、皆、自由に楽しそうにしている。

　新屋山神社というのが金運神社として有名だ。船井総研の船井幸雄氏によって有名になった。ビジネスの成功をお願いすると叶うらしい。その後、東北の震災で地軸がずれて、金運のパワーが富士御室浅間神社にずれたという、もっともらしい噂がある。新屋山神社のご祭神の娘が富士御室浅間神社のご祭神だ。どっちも、カード型のお守りを売っていて、両方を、お財布に入れておくといいことがあるらしい。富士御室浅間神社のカード型のお守りはコノハナサクヤヒメ様が描いてある。姫神様曰く、このカードを繋がりたい人に渡しておくと良いということなので、数枚買い求める。

何の用でここに来たのかよく分からないので、くまなく歩いてみる。本殿の左側、老夫婦の像がある。いかにも人の好さそうな笑顔満面の老夫婦だ。
「おかえりなさい。」
と声を掛けてくる。ここがどうもコノハナサクヤヒメ様が産まれた、もしくは、幼少期を過ごした場所らしい。しかも
「初心者ですから分かりやすくしてあげます。」
と言って、透明なエメラルドグリーンの龍を飛ばし始めた。他のツアー客は御朱印で忙しいので、近くには誰もいない。私以外にも見えているのだろうか。
「あなただけに見える、あなたの龍です。」
というではないか。
「だれも信じてくれないから、写真撮っていいですか？」
と聞くと大丈夫と言うので、しっぽのほうだけだけど撮ることが出来た。
「そのうち、見えなくても、一緒に行動できるようになりますが、初めのうちは龍も姿を見せて、あなたをガイドしてくれます。」
とのことだった。
凄い話で興奮して、楽しい気分なのに、隣で急に、パリンパリンと凄い音。何かと思い見てみると、女性がひとり、鍋のようなものに向かって石を投げつけている。それもすごい勢いだ。殺気じみている。怖い形相で、次から次に投げつける。気が付くと、彼女の殺気に皆が息をのんで見つめている。手にあったものを投げ切ったのだろう。やっと、移動していった。

　彼女が遠くに行ってから、私は近くに行って説明書きを読む。厄割の玉と呼ばれるものを二個300円で社務所で売っているから、買って、中央に設置してある鍋のようなものにぶつけると厄落とし出来て幸運になるとのこと。いったい何個買って投げていたのだろう。

　ランチタイムになり、ツアーで一緒になった女性3人で一緒に食べる。話題はもちろんさっきの、厄割の玉の女性。噂話と悪口を言いまくってこそ女子会は盛り上がるし、楽しい。一体、何の恨みがあって、あんなに投げていたのかについて勝手に考察する。まあ、男がらみだろうなということで話がまとまり、複数の男への恨みなのか、一人への深い恨みなのか、についての考察に移る。結論も出ないまま、悪口も言い尽くし、今度は、神社で何をお願いしようかという話になる。私は
「朝、遅刻しそうになりパンを咥えて道を走っていると、向こうからやってきた男性とぶつかるんだ。」
と話はじめた、そうなると、その男性が転校生だったパターンと、お互いの魂が入れ替わるパターンがあるよね、という話になる。
「普通はそうだよね、私は違うよ。その人と銀行口座が入れ替わるんだ。それを神様にお願いする。」
と言うと、二人は大笑いした。
「これからは生体認証の時代だし、ワンチャンあるよ。」
なんてアドバイスまでくれる。誰とぶつかったら、良い感じに銀行口座が入れ替わるかなどと話しているうちに、ランチタイムが終わる。

龍のおたしなみとして雨を降らせるのは朝飯前とのこと。もちろん晴れさせることも簡単だ。雨でも降らせて、あの生意気な男にぎゃふんと言わせるか、などとエメラルドグリーンの龍と話していたら、お約束どおり、うしろからハリセンで叩かれた。

それ以降も、龍の話をすると何故か男性の方が食いついてくる。大概、自分に付いている龍は何か教えて欲しいという。そしてもっと強い龍、金龍か銀龍をつけて欲しいという。もちろん私はその能力はないと断る。適当に誤魔化そうとしても絶対あきらめない。とことんくっついてきて、しつこく質問してくる。何回かそういう経験をして、龍の話はしないことにした。

帰り際に、自称晴れ男がニコニコしながら話しかけてくる。
「良いこと教えてあげましょう。絶対、三峯神社行った方がいいですよ。」