朝一番の飛行機で羽田を出て鹿児島空港に行く。車でピックアップしてもらい一路、吾平山上陵に向かう。
「僕たち、ずっと鹿児島住んでますけど、行きたいって言われたところ、どこも行ったことない所ばっかりです。東京の人は変わってますね」
と開口一番言われてしまう。そりゃそうだ。古代の日本史とコノハナサクヤヒメに興味あるんですよねえ、と言って、誤魔化してある。コノハナサクヤヒメと一緒とかいうと頭おかしい人と思われてしまう。
おっとりさんは50歳で独身、無職。彼らは遠い親戚だそうで、彼女の面倒をみているそうだ。東京で世話になったお礼をしたいということらしい。

コノハナサクヤヒメという美人が鹿児島の笠沙の浜で遊んでいたのを天照大神の孫のニニギが見染めて、結婚し、三人の息子を産んだということだ。
その後の話は諸説あるが、ニニギがコノハナサクヤヒメの産んだ子供は自分の子ではないのではと疑い、コノハナサクヤヒメはその疑いを晴らすため、出口のない家を作り、火を放ち、無事に子供が生まれればニニギの子ですという、激しい行動にでた。結果として、無事に生まれたので疑いは晴れたという話である。

普段は黙っていらっしゃるコノハナサクヤヒメ様が、ぼそっと
「出口のない家なんてどうやって入るんだ。閉じ込められて火をつけられたんだ。それに、一度に3人産まないよ」
と仰った。まあ、そうだろうな、と納得した。

車のなかで、コノハナサクヤヒメ様について古事記などに書いてある話を、ざっくりかいつまんで彼らに話すと、びっくりして、ニニギのあまりのモラハラぶりに二人とも怒りだした。もっと言えば、コノハナサクヤヒメの父親が姉のイワナガヒメも一緒に嫁にだしたのに、見た目で判断してイワナガヒメを追い返したという話もあるが、もう、言い出せなかった。確かに、考えれば考えるほど、モラハラでしかない。そんな人が天孫といわれ、日本各所に祀られている。

吾平山上陵に着いて、たまげた。そこまで、本当に普通の田園風景だったのに、急に、別世界になるのだ。宮内庁が管理していて、それこそ塵ひとつ落ちていない手入れの行き届きようだ。おっとりさんと、私と、彼女の友人夫婦、合計4人。4人とも驚きを隠せない。なんで、こんなところに急にこんなすごいものがあるんだ。

神武天皇のお父さんを祀ってある。コノハナサクヤヒメ様にしたら孫が祀ってあることにある。整備されて、完璧に清掃された道をどんどん進んでいく。カメラの三脚を背負って歩く人を見つけて、ついていく。慣れたように、どんどん奥に進んでいく。川沿いの道に出ると一番奥に大きな岩山があり、そこに祠がたててある。そこがどうもお墓ということらしい。カメラを持った人が三脚をたてて写真を撮りだす。
「桜の季節にもう一度いらっしゃい、最高に綺麗ですよ」
と言われて、皆、納得。これで桜が咲いていたら、現実の世界と思えない美しさになるに違いない。

予定が詰まっているので、すぐ移動。竹亭というとんかつ屋に開店と同時に入る。あっという間に満席になる。期待が高まる。とんかつもキャベツもべらぼうに美味しい。ついてくるお味噌汁が、食べなれない味だ。私がお味噌汁に苦戦していると笑われてしまった。

鹿児島は方言が難しい。もちろん私に合わせて共通語で話してくれるのだが、他のテーブルの人の会話が聞き取れない。ご夫妻曰く、鹿児島は情報戦に勝つために、スパイに聞き取られないように、分かりにくい言語にしたと言われているとのこと。その鹿児島のなかでも頴娃という地域は、また、違う言葉だそうだ。そこは遺跡が発掘されているし、天智天皇が来たともいわれているらしい。
天智天皇が鹿児島に??と思ったけど、調べてみると、大宮妃というお気に入りの妃が頴娃の出身で、大宮妃が里に帰ったとき、追いかけてきたという話だ。え?天智天皇は額田王が好きなんじゃなかったっけ?井上靖の「額田王」という小説を思い出す。

おっとりさんをせかして、とんかつをガツガツと食べ、また、移動する。次は、高屋山上陵だ。小ぶりの山の上にあるらしく、出来るだけ近づいて歩く距離を減らすため、登れるところまで車で登って、ご主人に道で車を停めて待っていてもらう。山道に入るとすぐ陵墓だ。さっきのとは全然規模感が違う。でも、コノハナサクヤヒメ様にとったら息子だ。会いたかっただろう。3人いると言われている息子のうち、1人しか祀られていない。

この息子達の話も酷い話だ。息子のうち2人は海幸彦と山幸彦と言われている。その2人が、狩場を交換して、山幸彦が釣り具を海幸彦に借りて釣りをしたら、針を無くしてしまった。それを海幸彦が許さず、山幸彦は針を探しに竜宮城に行く。そこで針を見つけるが、見染められて竜宮城の姫の豊玉姫と結婚する。そして、おじいさんに海を制御出来る玉を貰い、それで海幸彦を懲らしめるという話だ。

母親のコノハナサクヤヒメ様としては決して面白い話ではないと思う。この話を聞いてどう思うのだろうか。

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