浅間神社をまわるツアーで隣の席になった人が下の名前が美緒だった。字も一緒だった。とてつもなく盛り上がってしまい、美緒会なるものを作り、何度か会って食事した。英検一級、TOEIC満点の英語の天才だった。アメリカの小説の翻訳をしているとのこと。天才なのだが、かなりお金には困っているとのことだった。
早稲田にある穴八幡宮の一陽来復のお守り授かりに行こうと、誘われた。他のあまたの金運神社では、金運効果がいまいちだったから、一発逆転したといとのこと。あんまり、素敵な提案じゃないなと思ったが、そのあと早稲田駅あたりで美味しい物食べようと言うので、まんまと引っかかってしまった。

一陽来復お守りは、冬至、大晦日、節分のいずれかに設置するお守り。冬至に購入して飾れば、一番長い時間飾れることになるので、冬至に買い求めにくる人が列をなすとのこと。
冬至、前日の夜、待ち合わせて、穴八幡宮に向かう。階段にびっしりの人だかり。階段に並んで、誰か転んだらやだな。雨ふりそうなのにやだな。寒いのにやだな。と「やだな」の連打をしながらも、並ぶ。彼女が言うには最近は小説の翻訳の仕事がないので、インターナショナルスクールの幼稚園のアルバイトをしているとのこと。TOEIC満点の天才の先生が幼稚園児に必要なのかとか、ツッコミをいれながら、順番を待つ。幼稚園の生徒は日本人だから、結局、日本語で話すことも多いそうで、さもあらんと納得。

寒いからなのか、なんか具合が悪くなってきた。丈夫が取り柄の私がどうしたことだろう。あと30分近くは待たなきゃいけないのに困ったなと思った。すると、姫神様の後ろにいる年配の女性が、
「一筆書きで星を書きなさい。その星の真ん中をくぐる気持ちで、上から、下まで星を動かしなさい。」
と言った。もちろんイメージでやるだけのことだけども、急に楽になった。
「何が起こったんですか?」
と聞くと、
「ここは欲の想念がすごい。そのエネルギーにやられたので、結界を作ってあなたを保護しました。」
と言われた。
「この八幡宮の力は本物なんですか?」
と聞くと、いつも穏やかな彼女がキツイ目をして私を見ながら
「本物も本物。すごいです。それだけに、使い方に、物凄く神経をつかわないといけません。力が強いということは思っている以上に怖ろしいことです。」
といつもより声を張り上げて言った。
確かに、力のあるものは扱いが難しいだろうなと思った。

寒さで体が固まったころ、やっとお守りを買えた。受け取って、鞄にしまおうと思ったが、しまえない。寒さなのか、何か感じるものなのか、手がビリビリする。やっとのことでしまい。居酒屋に移動。それを待っていたかのような?雨。今、並んでる人達は大変だねえなんて言いながら、温かいものを食べて生き返る。

お腹もいっぱいになって、少しほろ酔いになり、帰ろうかなと思っていると、彼女が私の手相を見る。可も不可もないことを言う。手相を見てもらったお礼ということで私がご馳走する。
大した金額ではない、奢るのは構わない。でもなんか違和感を感じる。3回会って、3回、この手口で奢らされている。こんなことでぎゃあぎゃあいう私はみみっちいのだろうか。さっき授かったお守りのせいか、右手がずっとビリビリしている。
「この近くにザリガニ専門店があるのよね?行く?」
と聞くので、ザリガニ??という気持ちと、また、奢るのか?という気持ちが整理できず、黙ってたら、
「今日はもうお腹いっぱいだし今度にしようか」
と言われてしまった。え?これからザリガニ食べるつもりだったの?次も私が奢るの?
と頭が?だらけのまま、店をでる。
「ちょっと用事があるから」
と言って、そこで別れて、私は穴八幡宮に戻る。入り口の人に、
「すいません、返します。」
と、さっき授かったばかりのお守りを返す。私には、まだ、このお守りを使いこなす力はない。あり得ないという顔をされながら帰る。

お守りを返したら急に身体が楽になった。神社やお守りには相性もあるのかもしれない。
もやもやする相手とも付き合わなくてもいいかもしれない。早稲田のザリガニ専門店にザリガニを食べに行く日は来ないだろうなと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?