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徒然なる地球温暖化 No.5:人口減少時代だからこそ大胆な変革を!

これからの人口減少は、これまでのシステムを改変して持続可能社会を作る最後のチャンス

 今後、火力発電を減らし、原子力と自然エネルギーによる発電の割合を増やし、最終的に自然エネルギーのみで持続可能な社会を作るためには、これからの人口減少を上手に利用しないといけません。
 これからの人口減少により消滅する地方の市町村がたくさんあることは紛れもない事実であり、粛々と適応していく必要があります。

人口の偏在は解消できるか?

 石炭産業の衰退とともに2007年に財政破綻した北海道の夕張市の例では、自然の人口減少を上回る早さで人口減少と財政縮小が続き、現在は小人口の財政に見合ったスマートシティ化を目指して、主な居住地域を市の中心部になるよう集約化を進めています。
 これは、上下水道や電気などのインフラ設備に必要な費用を削減し、地域社会を再構築して持続可能な社会を作るいい先例になるでしょう。

 あなたの住んでいる場所は、あなたが死ぬときまで過疎地にならず、自分の子供たちがその先も住んでいられるでしょうか?
 先祖代々の土地に執着しすぎて、気がついたら誰もいなくなった空き家だらけの土地で地縛霊のような老後を送ることにならないでしょうか?
 もし、あなたが市街地中心から離れた郊外や古い団地に住んでいる場合は、散歩しながら空き家の数が年々増えてないかじっくりと観察したほうがいいでしょう。

地方の町や村を消滅させずに今後も持続可能とするためには、
・今後の人口減少速度に合わせてインフラを整理、集約してスマートシティ化できるかどうか?
・人口を流出させない核になる持続可能な産業があるかどうか?
・地域外に流出するお金を減らして、地域内で経済を回せるようにできるかどうか?
といった点が大事になります。これらを満たせない自治体は自然消滅するでしょう。

 水資源が豊かなところにはビール会社や半導体産業がやってくる。地熱資源が豊かなところは温泉関連産業が発達する。
 では、太陽光や風力が豊かなところではどんな産業が発達できるか?

 これまでは、大都市圏近隣の工業地帯に立地する火力発電所で大量に発電して大都市圏に電力を送電してきました。
 これから2050年までの火力発電所を減らす期間は、原子力発電所が立地する地方、自然エネルギー(水力発電用ダム、地熱発電井戸、太陽光パネル、風力発電用風車、バイオマス発電施設)が散在する地方が、相対的に重要になります。

 一方で、太陽光や風力は電気に変換されて送電されてしまうので、地元が潤わないという欠点があります。
 さらに、地方は都市圏に比べて電力需要者となる人口の減少も速いため、地方で作った電気はひたすら都市圏に送電され、地方には太陽光パネルや風車しか残らないという未来がすでに透けて見えています。
 かつて水力発電用のダムがそこら中に建設されましたが、ダムを受け入れた村の周囲には何の産業も発達していないという痛い例もあります。

自然エネルギーで地方を救うにはどうしたらいいか?

 基本は地方分散です。地方の居住人口と経済を維持するために、自然エネルギーを利用する産業を誘致し独立した経済圏を作るしかありません。
 そのためには、市町村と黎明期にある地域電力会社が連携して、将来ビジョンを持って重要な役割を果たさないといけません。

 太陽光発電や風力発電の大手デベロッパーは大都市に拠点を置き、地方にメガソーラーや風車群を設置して得た電力を大口需要者である都市部に送電して儲けるビジネス構造となっています。
 地方の受益は、施設の固定資産税程度しかありません。太陽光パネルや風車の設置とメンテナンスの時にしか人が来ず、地元に金が落ちないし、居住人口も増えません。
 ここに割って入って、地域で発電した電気をその地域で地産地消する仕組みとするため、大手デベロッパーが太陽光発電や風力発電を開発する段階から市町村が関わっていく必要があります。

 新たに構築される太陽光発電や風力発電については、地域電力会社を設立して電力の地産地消を目指すとして、すでに利用されている自然エネルギーを地元に取り戻す方法はないでしょうか?
 太陽光発電や風力発電よりずっと昔に開発が進んだ水力発電を例に見てみましょう。

 富山県と長野県の境に位置する黒部ダムは、映画や小説の「黒部の太陽」の題材になった日本最大級の水力発電所です。

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0269324

 この発電所は、歴史的経緯から北陸電力の営業域である富山にありながら、関西電力が水利権を持ち大阪周辺に電力を送電しています。
 関西電力と北陸電力の発電源の割合をみると、北陸電力は地元に水力資源があるのに、自分のところの電力の大半を石炭火力発電で作るという矛盾したことになっています。

関西電力と北陸電力の発電源の割合

 大都市から地方へ地方分散をすすめるために、例えば大阪から富山に少しでも人口移動させるためにはどうしたらいいでしょうか?

GX推進法のカーボンプライシングを使えないか?

2028年から、GX推進法によって炭素税が導入されます。
 炭素税は簡単に言うと、CO2を出すものに課金することです。主に化石燃料の輸入・販売者に対して賦課金が徴収されます。
 結果として化石燃料を利用して発電する電力代が値上がりすることになります。
 少し古いですが、2014年の発電源ごとのコスト内訳は図のようになっていました。

https://standard-project.net/energy/statistics/cost.html

原子力 約10円/kWh
石炭火力 約12円/kWh
天然ガス火力 約14円/kWh
陸上風力 約22円/kWh
太陽光 24~29円/kWh
水力 約11円/kWh
地熱 約17円/kWh
バイオマス 約30円/kWh

 現在、利用されている火力発電は、ほぼ石炭火力と天然ガス火力で、これらと比べると一般水力を除いて自然エネルギーの電力は割高で、その割高な電力をFIT制度で電力会社、廻りまわって一般家庭に買い取らせて、無理やり普及させてきたのが現実です。

 中途半端な炭素税では意味がありませんが、今後、石炭火力と天然ガス火力の電気代が自然エネルギーの電気代より高くなるくらいの炭素税がかかる場合は、電力会社は化石燃料の使用量を抑え、より自然エネルギーの普及が進むでしょう。

 もう一歩進めて、この電力料金の価格差を地方分散に利用できないものでしょうか?

一つのやり方として、
・県内で発電した電気は県内で地産地消する。余剰分を他県に送電する。
・電力料金を電力会社ごとではなく県(あるいは市町村)ごとに、その土地で作った電力の発電源の割合に応じて設定する。
・県を跨いで電力を送受電する場合は、送電費用を上乗せして県ごとに設定した売価で電力を売買する。
という荒業が考えられます。

例えば、下の表は2019年の県ごとの発電量と発電源割合です。

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0269324

 関西電力は、福井県の原子力発電所、富山県の水力発電所などを使ってバランスよく電力を得ていますが、大阪府内での発電源の割合は99%は火力発電です。
 北陸電力は、半分以上の電力を化石燃料で発電していますが、富山県内での発電源の割合は58%が水力発電です。

 県ごとの発電源の割合と先ほどの各電源の発電コストをかけ算して、それらを足し合わせると、県ごとの発電コストが求められます。
 現在は火力、原子力、水力発電のコストがあまり変わらないので各県の電力単価はあまり変わらない状況です。火力の電力単価を12円とすると、各県の電力単価は11~12円で同等となります。
 ここで、仮に炭素税を大きく載せて火力発電の発電コストを40円/kWhとして、富山県と大阪府、福井県の発電コストを計算すると表のようになります。

炭素税を大きく載せた県ごとの電気代

富山県は23円/kWh、大阪府は40円/kWh、福井県は16円/kWhです。
大阪と富山、福井の単価は2倍近い差となります。

 この電力を地産地消するルールとすることで、カーボンフリーの電力を多く供給できる富山、福井は大阪に比べてより安価な価格設定ができ、電力を多く使う企業を大阪から誘致しやすくなります。
 地方分散により、カーボンフリーの電力源のある地域に産業や人口を再配置するためには、この価格差を維持しないといけません。
 現在、人口の多い大阪は自前の電力源だけでは足りませんので、富山の水力発電所、福井の原子力発電所から送電してもらっている状況ですが、上記の単価のまま富山、福井から電力を送電すると、大阪の電力単価を下げ、結局、価格差が小さくなってしまいます。
 価格差を維持するためには、例えば富山、福井から大阪への送電時に、価格調整費を上乗せするなどが考えられます。

 電力会社はもともと複数の県にまたがって広域で複数の電力源で発電をして、それらのコストを均して管轄領域内の電力料金を設定しています。
 例えば、大阪、富山、福井で炭素税により生じる電力単価の差を均して均一電力料金を設定する場合、富山・福井の住人は電気を送るだけでなく、大阪の住人の炭素税の一部を負担して割高な電気代を払うことになります。
 原子力発電所を多数受け入れている福井の住人から見たら、ただでさえ大阪から搾取されていて不公平感が強いわけで、さらに増加した電力料金を負担するのは受け入れ難いでしょう。
 一方、大阪は電気代が高いままだと地場産業が出て行ってしまうので、火力発電の割合を下げ、自然エネルギーの割合を上げる努力をするようになりCO2排出量削減が進みます。結果として、各県のCO2排出量削減競争が勃発することになります。

 実際に現在、北海道から秋田、新潟へ海底電力線を引いて、東京に太陽光や風力で得た電気を送る計画が進んでいますが、北海道の著しい人口減少を食い止めたいのであれば、送電調整費を上乗せして高い電気を送り、北海道の安い電力を求めて、東京から企業が移転してくるように仕向けないといけません。上乗せした得た資金で移転してくる企業に補助金を出して、更に北海道の魅力を高めることもできます。

 大前提として、炭素税により化石燃料由来の電気代をカーボンフリーの電気代よりかなり高くしないといけませんが、このくらいの変化がないと人口減少と大都市への一極集中により地方が衰退する将来シナリオを変えるためのパラダイムシフトは起こりません。

 県(自治体)単位の電気料金設定は、電力会社が管轄領域内の様々な発電源のコストを均して均一電気料金としているのを、県ごとにばらして再計算するだけですので、電力会社自体の収益は大きく変わりません(地域ごとの価格変更や、値上がり地域からのクレームなど面倒くさい業務が増えるので、多大なマイナスとも言えますが…)。

 以上は県単位を事例にして書きましたが、炭素税が導入されると、まず最初に電力会社単位で顧客を取り合うために上述のようなことが加速されるでしょう。
 旧来の火力発電所を有する大手電力会社と新規の自然エネルギー主体の中小地域電力会社の競争になります。
 消費者としては、資本が弱くかつ不安定な自然エネルギーに依存する地域電力会社は、停電したり電気代が激しく変動したりするリスクがあり、信用できるかどうかわかりません。
 地域電力会社は、全国の同業他社と電力協同組合のような形で過不足のある電力をやり取りして効率的に電力を地産地消し、市町村と連携して地域をカーボンフリーの電力に塗り替えていく事例を増やして、大手電力会社に対抗していくことになります。

結論

 人口減少社会の日本では、都市部への一極集中を緩和して、地方の様々な資源を有効活用して地方分散を進め国力を維持する必要があります。
 そのためには、地方に散在するエネルギーを利用して人口を移動させる大ナタを振るわないといけません。

「人口減少×自然エネルギー=温暖化の緩和+人口分散&持続可能な地方」

とするためのカギの一つは、自治体ごとの電気代の差別化と消費者への見える化です。
 既に乱立する大小の電力会社間で電気料金は異なっていますが、意識して地元の地域電力会社の電気料金や発電源について見てみることから始めましょう。次に、他の地域の電気料金や発電源も見てみましょう。
 最終的には、地域ごとの発電量に応じて人口と企業が地方に分散することで、日本全体で地域資源を有効利用できるようになり社会の持続可能性が高まってきます。

もう、いい加減、東京基準で物事を考えるのは止めにしましょう!

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