見出し画像

徒然なる地球温暖化 No.4:人口減少時代の日本に必要な電力と温暖化の緩和に必要なことは?

今回のノートも、前回に続き以下の本の内容を参考にして書いています。他にも色々似たような本が出ていますが、さっくり読み易いのでこの分野に興味が湧いた人にはお勧めです。

これまでの日本は、ず~と人口が増加してきた

 これまでの日本では、人口が絶えず増加する人口ボーナスにより経済が発展し、あたかも収入が増え続けるのが当たり前という常識が培われました。
しかしながら、人口増加は2009年にピークを迎え、すでに人口減少時代に突入しています。
 それにもかかわらず、人口減少社会を経験したことのない私たちは、過去の常識を捨てきれずにいろいろなことを昔の基準で考えがちです。

 増田寛也さんがたくさん良い本を出していますが、現在のようにすごい勢いで人口が減っていくということは、今すぐにでも移民受け入れ政策に本腰を入れない限り、労働者、消費者が減って産業の活力も下がり続けるということです。

 インフラも同様で、人口のピークに合わせて構築された様々なインフラ(道路や橋脚、鉄道、上下水道や電力網など)は、人口減とともにメンテナンス不能となり維持できなくなります。
 もう一つの問題として、地球温暖化はすでに止められない段階に入っていて、今後はCO2排出速度を抑制して温暖化のスピードを緩くする、さらに温暖化に伴って頻度や強度が増した自然災害や食料に関わる農業・漁業への影響に適応していく必要があります。

日本の人口と電力の話

 これまでに経験したことのない人口減少時代を見すえて、今後どの程度の電力が必要か予測するためにもう少し詳しく見てみたいと思います。
 これまでの人口の推移と各年代の電力需要をグラフにしてみました。

2022年までの人口の変化と電力需要(資源エネルギー庁と国際エネルギー機関(IEA)のデータ)

 参照元によって値に多少の違いがありますが、傾向としては人口が最大値となった2010年頃に電力需要のピークがあり、現在は人口減少とともに電力需要が減少傾向にあることがわかります。
 日本はここ2、30年間ず~と経済が低成長でGDPも伸び悩んでいますので、電力需要の減少は経済が縮小している結果とも言えるかもしれません。
 しかしながら、経済の縮小は人口ボーナスが終わってオーナス期に移行した結果でもあるので、結局、人口減と電力需要減は無関係ではありません。

 下の図は1990年から2010年までの人口と電力需要の関係と、2011年から2022年までの人口と電力需要の関係です。横軸の単位は10万人です。

 人口増加から人口減少への切り替わりは2009年~2010年頃ですが、日本の電力需要に関わる大きな出来事として、2011年の東日本大震災があり、2011年以降人口減少とともに節電も大きく進みました。電力需要は2011年をピークに徐々に減り始めます。そのため、グラフを2010年までと2011年からの2つに分けて描いています。

 1990年から2010年までの人口と電力需要には非常に良い相関があり、人口が10万人増えるごとに約6350GWhの電力需要が増えていきます。これに対応するために政府や電力会社は、火力発電所や原子力発電所を増やしてきました。

 ひるがえって2011年以降は傾向が逆転します。人口は減っていき、それに伴って電力需要も減っています。データ数が少ないので精度は落ちますが、人口が10万人減るごとに約3630GWhの電力需要が減っています。
 人口増加時代の電力需要増加量と人口減少時代の電力需要減少量は、同じ増減速度になっていません。人口の増減と電力を利用するインフラなどの増減にはタイムラグがあるのかもしれません。

 一説によると日本の人口は、2020年から2021年の1年間に約60万人減少したということですから、この1年間だけで必要な電力量が、約22000GWh減ったことになります。

将来はどうなるでしょうか?

 移民を積極的に受け入れない限り人口は減る一方でしょう。2030年には1億2100万人、2050年には1億500万人前後まで減少していきます。

 2010年以降の人口減少時代の電力需要データの傾向を外挿すると、必要な電力は2030年には年間82万GWh程度、約2050年までには年間27万GWh程度まで減る可能性があります。
 これは1970年代の電力需要と同等です。その頃の人口は、実際に1億500万人前後でした。

 この見積もりは、IEAが出している日本の発電量データを外挿して求めていますが、資源エネルギー庁の出している発電量データはIEAのデータより少なめの発電量となっています(2019年時点で既に86万GWh程度となっている)ので、実際には更に少ない値になるかもしれません。

 なお、これまでになかった電力需要として、2050年までに徐々に自動車がEVに置き換わり最終的に6万GWh程度の電力が要るようになると仮定すると、2030年頃に年間84万GWh程度、2050年頃には年間33万GWh程度の電力が必要になります。

 このように、人口が減り、将来の電力需要も減るということは、良いことでしょうか?悪いことでしょうか?
 昭和のオジサン世代はどんどん引退し、イケイケどんどんの遠い昔の常識は歴史の1ページに過ぎなくなります。
 事実だけを冷静に見つめて、今後どうすべきか考えないといけません。

 日本は2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指しています。
 2050年までに、電力需要が現在のおおよそ100万GWhから33万GWhまで減るのであれば、その分、化石燃料を使った火力発電所を減らして、電力業界においてはカーボンニュートラルが達成できるかもしれません。

 また、原子力発電が大っ嫌いな人は、減った電力需要分の原子力発電所を即刻止めろと言い出すかもしれません。
 原子力発電所を今すぐ止めたい人、原発停止より地球温暖化防止の方が大事な人、いろいろな思想の違いがありますが、カーボンニュートラル達成にしろ、原子力発電所の停止にしろ、この2050年までの電力需要に基づいて、何をどういう優先順位で進めていくのか考えないといけません。

 そのために、日本の電力がどういう発電割合で得られているか見てみましょう。

実際、どういう割合で日本の電力は発電されているのか?

 下の図は、IEAのデータに基づいて各年度の発電減割合を示したものです。
右側の図は、シンプルに化石燃料、原子力、自然エネルギーの区分けにしてあります。

 図の通り、原子力発電は2011年の東日本大震災を境にして大きく減っており、その減った分を天然ガス火力発電と太陽光で補っているという構図になっています。
 ざっくりいうと、現在の日本の電力の7割は化石燃料により得られています。残り1割が原子力、2割が自然エネルギーです。
 コロナ禍もありましたが、ここ数年の発電量を見ると、自然エネルギーのうち太陽光発電の割合が着実に伸びていることがわかります。
 化石燃料は微減していて、トレンドとしては良い方向です。

 では、2030年の84万GWh程度、2050年の33万GWh程度の電力需要を、どの発電源で賄うことができそうでしょうか?
 2022年に自然エネルギーで得られた電力は約23万GWh、原子力は6万GWh程度、合わせて29万GWh程度でした。
 もう少し頑張って原子力と自然エネルギーを1割程度増やして、2050年までに33万GWh程度の電力を賄えるようになれば、化石燃料の使用をなくして2050年のカーボンニュートラル達成は何とかなりそうな感じです。

 ただし、自然エネルギーのうち水力発電と地熱発電、バイオマス発電については安定して電力を得ることができますが、太陽光発電と風力発電は天気次第で常時、安定した電力を得られるわけではありません。
 天気が悪い時のためのバックアップ電源がどうしても必要になります。

6年後、2030年の日本を見よう!

 2050年だとだいぶ先の目標になってしまうので、もう少し手前の目標で考えてみましょう。
 日本政府は地球温暖化に関わるCO2排出量を世界全体で減らすためのパリ協定で、2030年までにCO2排出量を2013年比で26%削減すると約束し、その後、さらに目標を挙げて46%削減すると宣言しています。

 2013年の電力需要は約110GWhでした。そのうち、CO2を排出する化石燃料による火力発電で得た電力が約94GWhです。
 2030年までにCO2排出量を46%削減するためには、ざっくり言えば、この火力発電で得る電力を94GWhの54%に当たる約51GWh以下になるまで減らさないといけません。

 人口減により2030年の電力需要は84万GWh程度と予想されますので、化石燃料による火力発電で得る電力を約51GWhと設定すると、必然的に残りの33万GWhをCO2を出さない自然エネルギー、原子力で調達しないといけません。
 これは偶然ですが、先に述べた2050年頃の人口に対して必要な電力量(約33万GWh)と同等です。
 つまり、2030年のパリ協定の約束を守れるように、化石燃料を減らしてその分、自然エネルギー、原子力で賄えるよう頑張れば、2050年には人口減による電力需要減少によって化石燃料なしでも電力需要を賄え、かつカーボンニュートラルも自動的に達成できるということになります。

 2030年のパリ協定目標の達成はその後の日本にとって非常に大きな意味があるということです。

 では、2030年までに33万GWhを自然エネルギー、原子力で調達できるでしょうか?
 繰り返しになりますが、2022年に自然エネルギーで得られた電力は約23万GWh、原子力は6万GWh程度、合わせて29万GWh程度でした。
 あと6年間で、4万GWh分増やして33万GWhまでもっていけるでしょうか?

原子力発電は自然エネルギーのみで持続可能な社会ができるまでやめられない

 まず、原子力発電により得られる電力について見てみます。
 東日本大震災の東京電力福島第一原子力発電所の事故前は、日本全体で54基の原子炉が稼働していましたが、現在はほとんどが止まっていたり、点検中だったりします。
 下の表は日本各地にある原子炉の出力と運転寿命をまとめたものです。

 従来、原子力発電所の運転寿命は40年とされていました。
 そのため、年とともに寿命を迎えた原子炉が運転できなくなり、原子力発電で得られる電力量は徐々に減っていきます。
 つまり、新しく原子力発電所をつくるか、古い原子炉を建てかえないと、いずれ原子力発電で得られる電力はなくなります。

 2050年頃に原子力発電所はなくなってしまう勢いだったのですが、2023年にGX脱炭素電源法が成立しました。
 この法律は、従来の原子炉等規制法や電気事業法、原子力基本法など5法を一括して改正するもので、運転期間の規定が原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法から経済産業省が所管する電気事業法に移り、原子力規制委員会の審査や裁判所の命令、行政指導などで停止した期間を運転期間から除くことになりました。
 これにより、建設後40年近くになった原子炉についても検査を行い認可が得られれば40年以上稼働させて良いことになりました。
 これまでも特例として、原子力規制委員会が審査をして安全性を認めれば、40年+最長20年の延長ができましたが、点検などで停止した期間を運転期間としてカウントしないことで60年以上の運転ができるようになる計算です。

年度ごとの原子力発電所の許可出量総計

 GX脱炭素電源法によっていくつかの原子炉は寿命が延長され、年々発電量は減るものの2050年ごろまで原子力である程度の電力を得ることができそうです。
 とはいえ、すべての原子炉の寿命が延長されることはあり得ませんし、原子力規制委員会の厳しい審査により、常時稼働状態にある原子炉の数はかなり限られるというのが現実です。

 2030年までに化石燃料を使う火力発電所を減らすと同時に、33万GWhの電力を自然エネルギー、原子力で調達しないといけないので、できるだけ原子力発電による電力は増やさないといけません。
 現状は原子力で発電した電力は2021年に約7万GWh、2022年に約5.6万GWh程度しか供給できていません。
 2022年時点で自然エネルギーの電力が約23万GWh分得られるようになっていますので、原子力により得られる電力を10万GWhまで増やして維持できれば、2030年のパリ協定目標や2050年のカーボンニュートラルも達成できるようになります。

 逆に言えば、2030年までに原子力により10万GWh程度の電力を定常的に得られるようにしないと、2030年のパリ協定目標も2050年のカーボンニュートラルも達成できないということです。

自然エネルギーも増やせるだけ増やそう!

 自然エネルギーは2030年までにどのくらい増やすことができるでしょうか?
 環境省は、日本各地の日射量や風況など自然環境データをもとに様々な再生可能エネルギーの導入可能量を下の表のように推計しています。

 この推計では風力発電だけで96~200万GWhの導入可能量があるとされています。
 この一部だけでも導入が進んで2030年までに33万GWhの電力を自然エネルギーで得られるようにならないものでしょうか?

 現実的には、自然環境が再生可能エネルギーの導入に適していても、収益が保証されないと実際に太陽光発電や風力発電などを設置する事業者が出てこず、自然エネルギーがなかなか増えないというのが難しいところです。
 実際に、2022年の風力発電は1万GWhに満たず、ここ数年ほんの僅かしか増えていません。

現在は過渡期あるいは岐路にいる…

 これまでにFIT制度の電力買取などにより、太陽光発電に適した平地や原野の多くにはすでに太陽光パネルが敷き詰められ、山林の傾斜地や国立公園の周囲まで開発が進み環境問題化するまで至りました。
 今後、建屋の屋根などに太陽光パネルの敷設が進むとしても、太陽光により得られる電力は頭打ちになってきます。
 一方、風力発電に関しては、東北地方や北海道に風力発電の適地が多く、ここ数年ですごい勢いで風車の数が増えています。

 今のところ、発電した電力を電力消費地である大都市に送るための送電線の容量が小さく、発電をしても余ってしまう余剰電力が生じていることもありますが、それを解決するための送電設備の増設や大容量蓄電施設の整備も徐々に進んでいます。

 風力発電による電力により、現在約23万GWh得られている自然エネルギーの電力を、2030年までに33万GWhまでどれくらい近づけられるかがカギとなります。

 なお、繰り返しになりますが太陽光発電も風力発電も天候任せで、地球温暖化に伴う気候変動によって風力発電の適地だった所に将来、風が吹かなくなるなど想定外のリスクもあります。
 太陽光、風力が、足りない時にはバックアップ電源が、過剰な時には余剰電力を貯めておく仕組みが必要になります。

 お天気任せにならないでCO2を出さない自然エネルギーには、水力発電、地熱発電、バイオマス発電などがあり、これらをバックアップ電源にできればいいのですが、水力発電に必要なダム建設はもうすでに適地がないくらい開発されており、バイオマス発電も含めてバックアップに十分な電力量とは言えません。
 日本は地熱大国なので、地熱発電をもっと増やせそうなものですが、地熱源の多くは開発が制限される国立公園内にあり、ボーリングを掘っても十分な熱源にあたる確率が低く、開発のための投資にはリスクがあり、なかなか開発が進みません。
 化石燃料を使う火力発電と原子力発電は、バックアップ電源として完全になくすことはできません。

 一方、風力発電や太陽光発電の余剰電力を貯めておく仕組みについては、徐々に蓄電池の整備が進んでいます。
 北海道の道北地方の例では、数えきれないほど設置されている風車で得られる余剰電力を蓄電する施設として、世界最大級の定置型蓄電池システムが豊富町に整備されています。

容量は720MWhほどですが、この地域の人口に対するバックアップ電源としては十分であり、電力の自給自足も可能です。
 今後は、自然エネルギーで持続可能な事業を行う企業と居住者を誘致して、地方分散社会の良好事例となってほしいところです。

結論:毎年の発電源割合を見ていくことが大事

 原子力により得られる電力を10万GWhまで増やして維持すること、現在約23万GWh得られている自然エネルギーの電力を主に風力発電でできるだけ増やすことにより、2030年までに33万GWhの電力を得て化石燃料使用量を減らし、2030年のパリ協定目標や2050年のカーボンニュートラルを達成することは、現実的な目標です。
 原子力発電には根強い反対もありますが、現時点で原子力発電を止めた場合はパリ協定の公約を達成することはできません。
 まずは2030年までに国際公約であるパリ協定を遵守し、徐々に人口減により電力需要が減り、それが自然エネルギーと原子力で得られる電力量と釣り合う2050年頃まで、安定して電力を得られる原子力発電を続け、カーボンニュートラルを達成したたうえで、その後の電力需要に合わせて原子力発電所の数を減らしていくというのが、現実的な落としどころになります。
 あと6年間、日本の電力量の推移を見守りましょう。

 自然エネルギーの適地は、九州や東北、北海道など大部分が地方にあります。地方と大都市を比べると、電力をより多く必要とするのは大都市です。
 愚かなことに、北海道の豊富な自然エネルギーの電力を東京に送るために、秋田、新潟に向けて海底電力線の整備が進められていますが、大都市の人口も徐々に減っていきます。地方は、それに輪をかけて人口が減りますが、電力を途中で送電ロスしながら何千キロも先に送るくらいなら、自然エネルギーのある場所に人口を地方分散させ、エネルギーの地産地消を進めていくべきだと思います。

 次回は、電力の地産地消と地方分散について妄想してみます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?