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#2 波瀾万丈…西日本緊急周遊記

#1 のつづき)

脳内議会紛糾(Day1 / 2月23日未明)

愛知県某所で取材を行っていた私は、取材対象者とのトラブルにより、深夜1時の見知らぬ土地へと放り出されてしまったのだった。

困ったな…今晩どこで夜を明かそうか…

#1で書いたように、この日の朝は粉雪がちらつくほど冷え込んでおり、一刻も早く屋内へ入らないと寒さで凍えてしまうばかりか、スマホのバッテリーも落ちてしまいそうだった。

とりあえず、優しいお兄さんが別れ際に言ってくれた「今夜はネットカフェかどっかでとりあえず泊まって、明日東京に帰れば良いよ」という言葉を思い出し、わずかに残ったバッテリーを使ってGoogle mapに「ネットカフェ」と打ち込んだ。するとすぐに、Google mapが赤いピンで最寄りのネットカフェを数店舗表示してくれた。

なんてことだ…

驚くべきことに一番近くのネットカフェは夜には閉まってしまうという役立たずぶりで、一番近くにある24時間営業の店舗はとても歩いて行けるような距離ではなかった。お金のある人間ならタクシーを使ってそこまで向かうのだろうが、貧乏大学生の私にはそんな財力はなかった。いや、厳密には財布にお金はあった。しかし、こんなくだらないことでお金を使いたくないという変なプライドが邪魔をして、その選択肢はたちまち脳から消えてしまった。

大通りに沿って少し歩くと、向こうにコインランドリーの明かりが見えてきた。しかも隣には24時間営業のコンビニまでついているではないか。やったぞ!助かった!私は早速コインランドリーに入ると、重い荷物をテーブルに置いた。先にいた女性客は自分の洗濯物を袋に詰めて、すぐにいなくなってしまい、私はすぐに独りぼっちになった。さて、朝までどう過ごそうか。

まず、法律上、不法侵入にならないように、荷物の中のわずかな洗濯物を洗濯機の中に入れ、一番安いコースのボタンを押して小銭を投入、スタートボタンを押した。音を立ててグルグルと回り出す洗濯機のドラムを眺めながら、私はこれからのことについて考えた。

まず、現在の状況と自分の感情を整理することにしよう。

  • 取材は中止になったので夜明けすぐにでも東京に帰ることはできる

  • 3月2日10時 福岡空港発の航空券を取ってしまっており、格安航空のためキャンセルすることはできない → 帰宅する場合、飛行機代はドブに捨てることになる

  • 取材対象者のご両親にはお世話になったので挨拶がしたい(両親は店を営んでおり、あいにく23日は定休日のため、会うなら24日にこの街を再訪しなければいけない)

  • あまりにも早い帰宅は家族に無駄な心配をかけるから避けたい(家族には取材対象者とのトラブルについて話したくないので、できれば3月2日に何食わぬ顔で帰宅したい)

  • 自分の落ち度とはいえ、取材の中断と親しくしていた彼とのトラブルに若干心を病んでおり、なんとなく日本海が見たい、旅をして心を癒したい

上記の通り、私の脳内比率は、1:4で「すぐに東京に帰るのは嫌だ」であった。福岡から成田までの航空機代は正直、エクスペディアで予約したのでそんなに高くはない。愛知から福岡まで私の希望に沿って日本海を眺めながら向かうほうがはるかにお金はかかるし、何しろ滞在が長引けば長引くほど宿泊費と食費もかさむのだから、合理的に考えれば飛行機代を捨てて、朝に名古屋発の高速バスか何かで東京まで帰ったほうがはるかに得なのは一目瞭然であった。

早くお金を貯めてちゃんとしたカメラを買いたいんだろう?それなら今はまだお金を使うときではない。さあ、さっさと東京に帰るのだ。

えー…日本海見たいなあ。なんとなく西に逃げたいんだよね。東京へは帰りたくないかなあ。成り行きにまかせて自由気ままに過ごしてみたいのよ…

その後、脳内議会で審議が重ねられた結果、とりあえず朝東京には帰らず一旦愛知に残ることを決めた。その後のことはその時決めれば良いさ。大学生だもん。春休みだもん。ふふん♪

結局、私は煩悩に負けたのである。
既に洗濯機は止まっていた。

#3 につづく)


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