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「デンマークとスウェーデンの子育て」(第2章関連)(2023.7.19議論)

 今回は、デンマークとスウェーデンの子育てについてディベートを行った。デンマークとスウェーデンともに北欧の国であるが、議論を重ねていく中、両国の子育て事情に違いがあることが見えてきた。福祉の手厚い北欧諸国の子育てを、政策、保育施設、ジェンダーなどを取り上げながら紹介していく。

デンマークの子育て

・育休中の所得補償

 出産日割手当は、なんと従前賃金の100%。そして上限額は、自給換算で1,480円、週給換算で54,766円となっている。
 この出産日割手当の対象期間は、両親であわせて最大52週間(内訳:産前休暇4週間、産後休暇14週間、父親休暇2週間、両親共有の育児休暇32週間)となっている。
 出産日割手当は市が給付している。使用者が被用者に給与を支払っていない場合、市は被用者に出産日割手当を支給する。使用者が被用者に給与を支払っている場合、市は使用者に出産日割手当を償還する。

・女性の職場復帰

 積極的に保育所を活動できる環境が整っているため、出産を経験した女性が早期に職場復帰することが可能。
 女性のキャリアという観点では、長期の育児休業は望ましくないという考え方があり、女性を早期に労働市場へ戻すのがデンマークの特徴。

・保育所の環境

 保育士と子どもの対話が重視される。日本のような先生と子どもの上下関係がなく、子どもの意志を尊重した対等なコミュニケーションが行われる。
 保育士が子どもを褒めるのではなく、あるがままを受容することで幼いうちから存在価値や自己肯定感を高めている。
 子どもの自主性や自己肯定感、創造性、共感能力を高める工夫があり、保育所を利用することが子どもの成長につながっている。
 また、すべての子供は保護者の労働状況に関係なく保育施設に入園することができる。義務教育制度で子供への教育を保障していてデイケアはただの保育所としてではなく教育の場としても使用されていて、生活と学校を切り離していないという特徴がある。

スウェーデンの保育

・スウェーデンの保育施設


・就学前学校
 就労(失業)あるいは就学中の親を持つ1〜5歳児を対象とする最も一般的な保育施設。
 
・家庭保育所
 入所条件や保育料は基本的に就学前学校と同様。コミューンが運営母体となり、委託を受けた家庭保育者が自宅で開設する。現在は「複数家族システム」を導入し、利用者家族が共同していずれかの自宅を家庭保育所としている場合もある。
 
・オープン就学前学校
 上記の2つの保育所に登録していない子どもであれば、無料で自由に利用できる施設。保育所を利用せず、自ら子育てをする家族の助けとなっている。
 
 多様な保育施設を設置がそれぞれのライフスタイルに合わせた子育てを可能にしている

スウェーデンの保育制度

 1歳までは親が育てる方がいいという考えのもと、保育施設入所要件は1歳からとなっている。1~12歳の子供に対しては、就学前保育と学童保育の場を提供する義務があり、就学前学校(保育所)に通う権利が与えられている。また保育は公教育の一環であり、3~5歳児については1日3時間(年間525時間)の保育が無償化されている。

・育児休暇には、全日休暇と部分休暇の2つがある
 全日休暇:子供が生後18か月未満まで、1日休み
 部分休暇:子供が8歳未満or小学校1年生修了まで、通常の1日8時間労働を3/4、1/2、1/4、 1/8に短縮でき、休んだ分だけ両親手当が支給される

両親手当について
・合計で480日分支給。その内90日ずつがパパ月、ママ月として割り振られ、残りは両親で分け合える。
・支給額は390日間まで給与の80%(上限、下限あり)、残りは1日あたり180クローナの一律支給。
・上記のものとは別に、一時介護両親手当というものもある(子どもの病気・伝染病・病院への付き添い・授業参観に対応するため、子供1人当たり最大120日、給与の80%)

・子育て支援の変遷

(1970年~)
「男女双方の仕事と育児の両立」の実現を目指した政策
→3歳児~6歳児を持つ母親の就業率は83.6%、父親91.2%(2016年)
 
(20世紀代初頭~)
・男女雇用機会均等法
・労働時間法(所定労働時間は週40時間以下)、有給休暇法(年間最低5週)、6~8月にかけて4週間連続した有給休暇を取得する権利が保障されている
・両親休暇取得に対する職場での差別禁止
・「父親の月」(現在は3か月の休業期間)
→人として尊厳ある働き方(労働者の権利保護)→共働き型社会へシフト
 
(1998 年)
Läroplan för förskolan(ナショナルカリキュラム)制定にて、学校法を適用
『教育及び保育は、働く親の要求にこたえるためのものだけでなく、
 子どもたち一人一人に保証されるべき権利である』
・エデュケアモデル(EDUCARE)
・保育が必要な家庭の子だけでなく、すべての子供たちを対象とする
・「生涯学習の第一歩」として明確に位置付け

(現在)
出産休暇制度:計14週間、産前・産後の各二週間の休業は義務付けされている
育児休暇制度(両親休暇制度):18か月(16か月は両親給付が支給)分割取得を可能として利便性を高め、男性も取得しやすいように整備されている
看護休暇制度:一人につき年間120日間(所得の80%が支給)
*親族・友人の介護のための介護休業取得も可能(年100日)
*行政手続きのIT化が進んでおり、受給者の9割がオンラインの申請手続きを利用。子供の看護休暇と10日休暇はスマートフォンのアプリを用いて申請手続きが可能

・ケアと教育を提供する


〇教育的ケア:インタビュー調査などから
教育的ケア(家庭的保育など)が根強く支持されるのは、
・都市部では、就学前学校の受け皿
・人口減少地域では、就学前学校の設置や利用が難しい世帯をカバー
・子どもの居住地域の生活と保育環境を乖離させない
・少人数で子どもの日々の興味に合わせた活動
・SNSを通じた保護者への情報公開

・「保育ママ」の雇用の安定性(学校教諭と同様の給与体系、社会保障)
・運営主体である自治体から、研修の実施・保育理念の通達など徹底
 →保育の質を担保
・生活と仕事を一体化するライフスタイルとして選択する人が多い

⇔ベテラン保育者のリタイアで減少傾向
⇔移民の多いスウェーデン
 →保育者1人でケアを担うため第一言語スウェーデン語の教育は保証できない


参考文献
・中島園恵著、「デンマークにおける公的育児支援のフレキシキュリテイ」、2013、『北ヨーロッパ研究』,9,p.23‐31
https://www.jstage.jst.go.jp/article/janes/9/0/9_23/_pdf/-char/ja

・奥井めぐみ著、「育児休業取得期間が復帰この女性の仕事満足度に与える影響」日本労働研究雑誌2022.12(2023.7.18閲覧)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/12/pdf/099-115.pdf 

・勝浦眞仁、上田敏丈「諸外国における子育て支援の実態を探る」桜花学園大学保育学部研究紀要第26号 2022(2023.7.18閲覧)https://ohka.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=369&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1&page_id=13&block_id=21 

・櫻谷眞理子著、『個を大切にするデンマークの保育に学ぶ―自立性と自己決定を重視した実践―』、2015、「立命館産業社会論集第51巻第1号」、(2023/7/19閲覧)https://www.ritsumei.ac.jp/ss/sansharonshu/assets/file/2015/51-1_03-07.pdf

・佐藤桃子著、『デンマークにおける子どもの社会的養護ー予防的役割の必要性ー』、2014
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/27117/ahs35_53.pdf

・石渡香織・月田みづえ著、『デンマークの保育・教育サービスと家庭で育む子どもの自立と連帯ー社会参加と責任のわかち合いー』、2008
https://swu.repo.nii.ac.jp/records/4571

・高橋美恵子著, 「スウェーデンの子育て支援 ―ワークライフ・バランスと子どもの権利の実現―」, 海外社会保障研究所, 2007, p79-80
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/DATA/pdf/18529305.pdf

・古橋エツ子著、「スウェーデン:育児保障におけるジェンダーギャップへの取組み」.『法制論叢』, 2016, 52, 2, p.145-162.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalps/52/2/52_145/_pdf/-char/ja

・高橋美恵子著、『スウェーデンにおける仕事と育児の両立支援施策の現状ー整備された労働環境と育児休業制度』、2018、 https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2018/12/sweden.html

・吉次豊見著,『スウェーデンにおける教育的ケア(Pedagogisk omsorg)―家庭的保育の動向と人口減少地域における実践から―』、2023、kwansei.repo.nii.ac.jp

アールベリエル 松井 久子 、川崎 一彦、澤野 由紀子、鈴木 賢志、西浦和樹著、『みんなの教育 スウェーデンの「人を育てる」国家戦略』、2018、ミツイパブリッシング

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