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「各国の保育」(第9章関連)(2023.6.21.議論)

各国の保育実態について調べ、その特徴や課題についてまとめました。

ロシア
特徴
①3年間の育児休暇が保障されている
・育児休暇は母親だけでなく、父親、祖父母も取得できる
②「母親(家族)資本」の制度
・第2子以降が3歳になったときに、ロシア国民の平均年収の0.5倍〜2倍に当たる額の補助金が受け取れる
③長時間保育
・幼稚園の預かり時間は8時間〜14時間ほどで、朝昼晩の食事も付いている

課題
①幼稚園料金の上昇
・英語やダンスなどの追加的な保育サービスの金額が上昇している
②待機児童問題
・ソ連解体による混乱の影響で1990年代に幼稚園数は激減したが、2000年代の好景気や新政権の政策によって社会が安定し、出生率と保育需要が高まった結果、幼稚園の定員充足率が100を上回った。

ドイツ
特徴
①子育て経済支援;親手当プラス
・最高月額1800€(約28万円)を通常12ヶ月間(受給額を半額にすれば24ヶ月間)受け取ることができる
+母親の職場復帰支援;パートナーシップ・ボーナス
・両親が週24〜32時間の範囲で共にパートタイム労働を行う場合、親手当受給期間を4ヶ月にできる
②時間政策;親時間
・3年間の育児休暇を取得でき、そのうち1年間は子供が3歳になるまでに取得する必要があるが、残りの2年間は先送りして子供が3〜8歳の間に取得することができる

課題
①母親のキャリア上の不利
・母親はパートタイムでの就業であり、就業率は上がっても職業上の不利な立場は解消されていない
・母親のフルタイム労働のためには保育等のインフラ整備が進んでいない

韓国
特徴
①完全無償教育
・0〜5歳児を持つ全所得層を対象に所得水準に関係なく実施
②6歳未満の就学前の児童の保育所「オリニジップ」
・平日7:30〜19:30、土曜7:30〜15:30で週68時間の保育を保障
③育児休業給付
・賃金日額×30×67%の額の所得保障
④パパ育児休業ボーナス制度
・子供に対して2回目の育児休業を取得する親に対して最初の3ヶ月間は通常の賃金の100%を支給

課題
①出生率の低さ
・2020年の合計特殊出生率は0.84
②男性の家事参加の少なさ
・男性の平日家事労働時間は48分で、女性の190分を大きく下回っている

ニュージーランド
特徴
①幼保一元化
・保育も幼児教育の一環として捉え、幼稚園と異なる待遇是正、不平等な補助金制度是正
・就学前統一カリキュラムの導入によって、通う施設の種類が異なっても公平で良質な幼児教育を提供
②多様な幼児保育サービス施設
・幼稚園、保育所、家庭教育、院内保育、通信制学校など複数の施設を組み合わせて利用することが可能
+プレイセンター
・親と子供が一緒に来て活動する施設で、機関と親自らが施設の維持・運営を行う点、子供の教育に加え親教育の側面もある点が特徴的
③20時間幼児教育
・3〜5歳児を対象とした1日6時間、週20時間まで保育料を無料にする

フランス
特徴
①現金給付
・子供1人あたりでも10種類ある豊富な手当
②子育ての困難を緩和する環境づくり
・公教育は3歳から無償となる
・自治体運営の放課後児童クラブが利用できる
③負担を減らす税制度
・子供が増えるほど所得税が下がる課税方式(N分N乗)
④認定保育ママ
・在宅での保育サービスを提供する者のうち、一定の要件を備えたものを登録する制度

課題
①保育の質
(保育ママ設立の背景;保育ニーズの高まりに保育所の増設が追いつかない)
・保育サービスの質よりも量を優先させている

アフリカ
特徴
①人々は子供に寛容で、「子供を社会で育てる」という意識がある
②地位や経済力があるものにとっては住みやすい
・外国人や白人が住む地域には多くの保育園・幼稚園があり、待機児童もゼロ

課題
①出生登録されていない子供の存在
・育児・保育に関する保育サービスを利用できない
②貧困のループ
・貧困→売春→若年妊娠→貧困の負のループ

+α
明治〜昭和の日本
①明治・大正の保育
・幼稚園に通えるのは一部の富裕層のみであったため、防貧・救貧のための保育園が誕生
・親の教育を含めた、家庭全体への支援
②戦前の保育
・保育こそが救貧という考えのもと社会事業としての託児所が開設
③戦時中の保育
・幼稚園の戦時託児所への転換
④戦後の保育
(1)1960年代→保育機能だけでなく、教育機能も求められるようになる
(2)1970年代→・第2次ベビーブーム+女性就業者の増加による待機児童発生
・保育施設の不足+多様な保育ニーズに非対応(保育所の保育時間は原則8時間+通勤時間に限定)→劣悪なベビーホテル(深夜・早朝にも対応した認可外保育園)の利用が増加
・3歳児神話などから保育施設を頼らない育児も増加し、仕事か育児かの2者択一を迫られる状況

参考資料
杉田健(2016)「ロシアの少子化対策「母親資本」制度とその効果」
https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/rr_28_12.pdf
村知稔三(2015)「ロシアにおける子育て支援政策の現状と課題」
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/20067105.pdf
村知稔三(2014)「3つのロシアと保育制度の変遷」『幼児教育史研究』(9)
p.77−91
https://www.jstage.jst.go.jp/article/youjikyoikushi/9/0/9_KJ00009777950/_pdf
横井正信,ドイツにおける家族政策の展開,福井大学教育・人文社会系部門紀要 第6号,2022
https://u-fukui.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=29043&item_no=1&page_id=13&block_id=21
中谷奈津子著「保育所等における子ども家庭支援の変遷」、中谷奈津子・鶴宏史・関川芳考編著『保育所等の子ども家庭支援の実態と展望―困難家庭を支えるための組織的アプローチの提案―』、2021、中央法規、30-43頁参照
湯川 嘉津美、「幼児教育の立場から」『幼児教育研究史第10号』65-70頁参照
https://www.jstage.jst.go.jp/article/youjikyoikushi/10/0/10_KJ00010133206/_pdf
日本貿易振興機構, 「男性の育児休暇、配偶者の出産時に一度だけ(エチオピア)」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/04/84e3bf1321d1993e.html
unicef,「Birth Registration for Every Child by 2030:Are we on track?」
https://www.unicef.or.jp/jcu-cms/media-contents/2019/12/Birth-registration-for-every-child-by-2030-brochure.pdf
国際協力機構,『【JICA海外協力隊】「ボランティア 現地レポート」池田さゆりさん(ガーナ)』,(参照 2023-6-19)
https://www.jica.go.jp/obihiro/topics/2023/h2nf2c0000003p1g.html
認定NPO法人フローレンス,「ヨハネスブルグの治安問題に緊張しながらも南アフリカで園デビュー。治安の悪さとは裏腹に、育児のしやすさにびっくり。」,(参照2023-6-19)
https://sugoii.florence.or.jp/1575/
アフリック・アフリカ,「息を合わせて育てる」,(参照 2023-6-19)
https://afric-africa.org/inafrica/gender12/
鈴木洋平,『「不便なはず?」のアフリカで、なぜ「子育てがしやすい」と感じるのか?――セネガルで子育てする日本人10人に聞いてみた。』,(参照 2023-6-19)
https://note.com/yoheisuzuki04/n/n4b0a17980b63
日韓比較からみる男性の育児休業取得状況 : パパ・クオータ導入を中心に
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/80165/1/60_ES_70(2)_111.pdf
韓国の保育政策と保育所利用実態
https://chikushi-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=283&item_no=1&page_id=13&block_id=21
自治体国際化協会シドニー事務所「ニュージーランドにおける子育て支援政策」(2017)p13-34
高橋一郎 加藤あや美「ニュージーランドにおける保育制度の現状のまとめとその検討」(2017)p78-86
朝日新聞デジタル(今さら聞けない世界)首相の産休取得で注目、NZの子育て 寛容社会の背景は2019年04月24日
https://xsearch.asahi.com/kiji/detail/?1687302677266
【ニュージーランドの教育】世界の良いとこ取りで“学び方を学ぶ” KIDSNA STYLLE
https://kidsna.com/magazine/entertainment-report-200817-11261#p3597394
https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/KK/0022/KK00220L149.pdf
就学前教育・保育革命の比較教育的考察、杉本均、佛教大学教育学部学会紀要 第22号(2022年9月)
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18529304.pdf
フランスの子育て支援 ー家族政策と選択の自由ー
神尾 真知子 海外社会保障研究、2007
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/474584.html
高橋順子 「フランスに学ぶ 子育て支援制度」NHK解説委員室
2022年10月12日
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pcstudies/2018/69/2018_76/_pdf
フランスの保育サービスと認定保育ママ:日本への示唆
千田航、公共選択 第69号、2018年

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