日本のリスキリング制度や特徴、事例

濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か-正社員体制の矛盾と転機』p69-96 入口以前の世界より。

令和5年11月15日(水)
この日は、日本のリスキリングの制度や特徴、実例などゼミ生同士で調べて、報告と議論を行いました。


◯リスキリングとは
リスキリング…既に就業している人に対して、新しい知識や技術を習得させること就業能力の向上を図る企業が事業戦略に合わせ、社員に新しいスキルや知識を身につけさせる人材教育。→企業が主体→リスキリング

リカレント教育…社会人が継続的かつ自主的にスキルアップを行うための学びのこと。→個人が主体→リカレント教育

○リスキリングとメンバーシップ型
メンバーシップ型では、柔軟なスキル転換が可能であるため、ジョブ型雇用システムより業務変化に対応しやすい。日本では、パソコン導入したりとか、無計画OJTによるリスキリングがずっと行われてきた。
(新しい職務が与えられて、ともかくやってみろスタイルで四苦八苦しながら仕事をこなす⇒習熟スピードが遅く、個人差も大きい)

欧米はジョブ型、仕事と育成が分離され、育成部分がフォーマル訓練(=公的機関での社会人向けの訓練)として認識されている。
→日本は仕事と育成が混然一体、実質的な訓練時間が労働時間としてカウントされてきた
→日本の人材投資は過小評価されている面がある
 一方で、Off-JT投資が少なく、それが近年減少傾向であったことへの問題視


○リスキリングの二つの自己負担

・経済的負担
経産省の事業に採択された補助事業者のリスキリング講座を修了することで受講料の50%の給付を受けることができる
→リスキリングにかけていい費用は平均で月6797円(女性向け転職サイト調査)で、給付があっても自己負担は大きい
リスキリングに取り組む中で感じた悩みの2位は経済的な負担

・時間的負担
リスキリングの誤解として「就業時間外に個人が自主的に取り組むべき」ということが挙げられる。本来、リスキリングは企業が、自社の成長事業を担う人材を育成することが目的のため、業務にあたる。多くの場合、企業が「個人の自主的な学習」をサポートしているため、新たな学びが属人的で、業務には当たらない。
→リスキリングに取り組む中で感じた悩みの1位は「学習時間の確保」
→企業としても、新たな学びが属人的であるがゆえに、学びは組織の集合知として活きない


○日本のフォーマル訓練への投資額
企業主導の訓練投資額の国際比較:最低レベル

◆「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
補助事業者が実施する①キャリア相談対応、②リスキリング提供、③転職支援、④フォローアップに要する経費を支援

◆第四次産業革命スキル習得講座認定制度
IT・データを中心とした将来の成長が強く見込まれ、雇用創出に貢献する分野(AI、IoT、クラウド、データサイエンス、高度なセキュリティ・ネットワーク 等)において、社会人が高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図る、専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定する制度

△Reスキル講座の特徴
・第四次産業革命を牽引する先端分野のハイレベルなスキル習得を目指す
・グループワークやディスカッション、プレゼンなどの 実践的な教育方法
・社会人が受講しやすい工夫(e ラーニング、週末・夜間開講、振替受講等)
・プログラムや教材の開発等に、実務家や大学教授等の専門家が関与
・修了証が交付され、スキルの習得を対外的に見える化できる

△講座提供側の利点  Reスキル講座に認定されると…
・企業のブランドイメージや認知度の向上
・講座の安心感や認知度の向上
・他社講座との差別化→受講者の拡大


○リスキリングの事例
日立製作所:国内グループ企業の全社員約16万人を対象に、DX基礎教育を実施
個人的な疑問:リスキリングでの学習内容が、IT・デジタル分野だけになっていないか
→全社員が今ない業務のためにリスキリングしたとして、本当にその効果を発揮する機会があるのか、どの程度リスキリングの機会を設ければいいのか

・紀陽銀行(和歌山)の例
学び直しをポイント制、見える化する
背景:地方では人口減少=これまでのビジネスモデル通用しない
→多様な視点や価値観が必要

これまで:実務に必要な銀行業務検定などの資格は「行員の年次や等級に応じて」取得してもらう=自身の役職に相応して
→キャリア形成が画一化してしまう
新制度の内容:等級に応じて取得しなければならないポイント数を決める
       公的資格以外に、他の部門の研修、ビジネススキルを学ぶ

・三井住友信託銀行の例
社員の7割をシステム導入ができるDX人材に育てる
背景:国内外のフィンテック企業との競争激化
例:主要ネット専業銀行の預金は5年間で2倍に

新制度の内容:レベルごとにリスキリング
例: レベル1 ITパスポート…システムの要件定義やシステム検収に携われる
   レベル2 ローコード、1億円未満のシステムの案件指揮
   レベル3 大規模案件指揮

→大企業、正規社員に限られている?
→雇用保険の対象ではない非正規は? 例:求職者支援制度

・海外事例
スウェーデンの実践的職業大学
職業安定庁及び労使の委員が加わる決定機関が労働市場の分析に基づいて、教育訓練の量と内容を決定。
→企業に対して即戦力となる有能な人材を提供する制度として構想
→産官学・公労使の緊密な連携の下で、企業ニーズにマッチした人材を実務訓練を重視することで育成。デュアルシステム。



○リスキリングへの誤解(経済産業省)
・リスキリングは、一部のデジタル人材の育成・獲得の問題
→全社員にリスキリングの機会を
・リスキリングは、日本企業の得意なOJTの延長
→今ある業務にはOJT、今ない業務にはリスキリングで対応
・リスキリングのコンテンツは、社内開発するしかない
→社外コンテンツの利用も視野に
・DXの時代でも、デジタルスキルよりもリーダーシップコンピテンシー、論理的思考力などソフトスキルの方が重要
→ソフトスキルだけが高くても、デジタル技術を実際に扱えなければ、生み出せる価値は限定的?


○攻めと守りのリスキリング
攻め:「社内DXを加速させるためのデジタルスキル習得を支援」
会社の事業構造変革に合わせ、将来必要となるスキルやデジタルリテラシーを身に着けさせる

守り:「技術的失業を防ぎ、働く人々の雇用を守る支援」
技術的失業対策、余剰人員の再戦力化が目的

リスキリングの具体例:ピア・ラーニング(manebi社)
従来のオンラインでプログラム等を学べる研修では、社員から「一人の学びは孤独で仲間が欲しい」という声が挙がった
→社員同士が学ぶ「ピア・ラーニング」を導入
講師役も社員が担い、マーケティングの基礎や生成AIの使い方などを学ぶ


参考資料
亀山秀雄(2023)「マネジメント力を強化するリスキリング学習プログラムの提案」P2Mマガジン19, p.17-25
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iaptwombulletin/19/0/19_17/_pdf/-char/ja
経済産業省 リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 https://careerup.reskilling.go.jp/
経済産業省(2022)「令和4年度補正予算 リスキリングを通じたキャリアアップ 支援事業費補助金(三次公募)公募要領」https://careerup.reskilling.go.jp/assets/files/business/koubo_youryou_03.pdf
経済産業省「第四次産業革命スキル習得講座 (Re スキル講座」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/it/pdf/kaikaku8.pdf
経済産業省(2023)「第四次産業革命スキル習得講座(Reスキル講座)認定制度
~制度説明資料~」https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/reskillprograms/pdf/seido_setsumei_shiryo.pdf経済産業省(2023)「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/reskillprograms/pdf/seido_setsumei_shiryo.pdf
経済産業省(2023)「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf
japan reskilling initiative, 「リスキリングとは」,
https://jp-reskilling.org/whatisreskilling(2023-11-12閲覧
社員同士が教え合う「ピア・ラーニング」、能動的に学び成長促す、manebiCEO田島智也氏(仕事に効くスキル), 日経産業新聞, 2023-10-04, p15, 日経テレコンhttps://t21.nikkei.co.jp/g3/CMNDF11.do(2023-11-12閲覧)     「リカレント教育の推進に関する 厚生労働省の取組について」厚生労働省, 2022年9月
https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/000983563.pdf
「リスキリングにおける悩み1位は「学習時間の確保」、2位は「経済的な負担」=ナイル調べ=」, ICT教育ニュース, 2023年10月
https://ict-enews.net/2023/10/11nyle/
後藤宗明(2023)「リスキリングは終業時間内にやる業務。失敗につながる”誤解”を解かない限りあなたの事業は縮小する」FNNプライムオンライン
https://www.fnn.jp/articles/-/596883
「リスキリングにかけていい費用、月6797円」日本経済新聞, 2023年6月
日本経済新聞「リスキリングを見える化 ポイント制で挑戦促す」、2023年9月 
日本経済新聞「三井住友信託銀 7割DX人材に」、2023年8月15日
「海外事例から探る日本版リスキリング『カギはOJT』」山田久教授,NIKKEIリスキリング,2023.10.4(閲覧日:2023年11月14日)
https://reskill.nikkei.com/article/DGXZQOLM27BP40X20C23A9000000/
「海外に見る、中小企業向けリスキリング支援」リクルートワークス研究所(閲覧日:2023年11月14日)
https://www.works-i.com/project/dx2021/overseas.html



















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