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駅で出会った粋な1コマ #虎吉の交流部屋プチ企画



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目の前にいる人が自らの仕事に誇りを持っているか、時折、外から分かることがある。

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「危ないからやめなさい」

今にも発車しそうな電車の運転席を至近距離で見つめる保育園児くらいの男の子がいた。都会のど真ん中の駅のホーム。

周りの人たちも「邪魔だ」と言わんばかりに険しい顔で側を通り過ぎる。お母さんはさらに声を荒げる。

「やめなさいって言ってるでしょ ! 危ないから。言うこと聞かないなら帰るよ ! 」

その男の子は電車が好きでたまらないのだろう。
運転席だけを必死に見つめ、なお動こうとしない。
その目はただ1点を見ている。

周囲の大人たちはその光景を気にもとめない。
皆、思い思いに談笑したり笑い合ったりしながら男の子の前を通り過ぎていく。僕だけがなぜか気になって仕方なく、その光景を見ていた。

そうしているうちに、お母さんの堪忍袋の緒がついに切れてしまった。鬼の形相で周囲に聞こえるくらい声を荒らげ、
「もう先に行っとくからね ! あんたなんか知らない」

その時だった。
発車直前の電車の運転手さんが男の子に「バイバイ」と手を振ったのだ。男の子はもちろん大喜びだ。ジャンプしながら何度も手を振り返し、可愛らしい笑顔を取り戻した。

立場は逆転してしまった。
今度はお母さんが焦っている。僕はそのお母さんがバツが悪そうに必死に愛想笑いをつくり、運転手さんに何度もお辞儀をしている姿を見て、ついプッと笑ってしまった。

電車が動き始める。
前を見なければならない運転手さんは、男の子のために最後に挨拶代わりに汽笛を鳴らして過ぎ去っていった。

男の子はまたもや大喜びだ。周囲を見るとほんの少し人だかりができ、微笑ましくその光景を見ていた。僕はその様子を見て感動してしまった。

何て粋な運転手さんなんだろう。
たった一人の男の子を喜ばせるためにあそこまでできるなんて。

男の子とお母さんは満面の笑みで喋りながら、仲良く手をつなぎ、エスカレーターへと去っていった。

周囲を見ると温かい空気がその場を支配していた。
その温もりを肌で感じた時、なぜか僕までうれしさのようなものが思わず込み上げてきた。

もちろん、誰よりも一番喜んでいたのは、お母さんだったことは言うまでもない。
大丈夫。世の中まだまだ捨てたもんじゃない。


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運転手さんの一連の行動を見て、深く感動すると同時に、自身の仕事に誇りを持たれているように直感で感じた。

ただ運転するだけでなく、大人であろうと子どもであろうと、気持ちよく電車を利用してほしいと思っているのであろう。

どのような仕事でも与えれた仕事以上の「+α」の仕事ができる人は周囲に信頼され、「代えのきかない人物」として重宝されるように思う。

そのような「目指すべき人物像」を見れたことで目標ができ、僕はうれしくなったのだと思う。
やりがいは「見つかる」ものではなく「見つける」もの。人から学ぶことはまだまだ多いのである。


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