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ファンタジー短編小説2

紀淡のリリー3


あらしたいの(やばいよ やばいよ)

高校生たちが  

見学に来ては ぞくぞく入門する

南淡路 阿波踊り連合

俗称 南淡連

誘った訳ではないが

百合と母の 阿波踊りに

魅せられて ひとり ふたり

仲間がふえ 若々しく

賑やかに なっていった


吹上の浜に

難破船が あがったそうだ

船乗りは 若くて

軽い怪我で 済んだそうだぜ

今年の台風は すごかったなぁ

地元の漁師達は 気遣い

ほっと胸を なでおりす

そう言えば

南風丸を 想い出す

あの時は 大変だったなぁ


南風丸は三屯九百

型は古いが 勇敢だった

🎶時化|《しけ》が恐けりゃ 漁師になるな

風は恋人 嵐は共よ  🎶

自作自演の漁場歌を

歌いながら 港を後にする

高倉健によく似た 風貌が

一段と男らしくなり 

ちぎれる程 手を振る 家族がいる

父の名は 南風涼|《みなみかぜりょう》

赤銅色に 灼けた肌 えがお

誰も忘れは しない


水槽で 見事な鯛が 泳いでいた

十六年前

百合が生まれて まもなくの頃

吹上の浜に

難破船が 着いた

マストは折れて 船べりは 剥がれ

かすかに 南風丸の 南が見えた

涼の姿は 何処にもなかった

<続く>


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