山田孝雄

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ファンタジー短編小説2

紀淡のリリー最終回 さくらの花が咲き オルベージュ 北の洋洋は お客で一杯になり 忙しい日が続く 百合は少しずつ 料理をまかされて 休みの日は 疲れてしまい 寮にいる日が 多くなっていた いつしか季節は 夏になり 健さんの店を 訪ねることにした どうしているかなぁ 健さん・・・ 免許は持っていたので 会社の車を借りて ドライブと洒落る 渚の道は ゆるやかに曲がり 目の前に オホーツク 北見山地をのぞみ 窓を開けると 野の花の丘へと 誘われ すれ

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      紀淡のリリー14 帰ろうとするから  ここに居なさい ひどい吹雪だから あしたになったら止むから ここに居なさい そう言って エゾシカに ハマナスと 名を付けて 一緒に 小上がりで 抱きしめて寝たのさ 目覚めると ハマナスがいない 岬止まりまで 行ってみたが 姿がみえない 雪は止んでいた それもそうだ  ハマナスが咲くには まだ早い リリー いや百合 きっと おまえは ハマナスの 生まれ変わりだ 俺は そう思っているのさ あしたになったら ま

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        紀淡のリリー13 それから地元の漁師が 三人できて 漁の話で盛り上がり 帰って行った 北の夜更けは早い すぐに日暮れて あっという間に過ぎてゆく 楽しい一日だった 百合は 目を細めて 夜空をみた きらきらきらと 星は 手の届くように かがやき 生きる強さを 知った でもなぜ こんな所に 父は生まれ変わり 暮らしているの 夢じゃない 海鳴り 渚通り 帰り道である 女子寮まで 健は 送ってくれる 健さん 親しみをこめて 呼ぶように なっていた

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          紀淡のリリー12 刺身の盛り合わせです オホーツクの真烏賊|《まいか》に 時しらずです 舟形の木の板に 下駄の歯がついているだけの 純朴な器に 百合が添えた 桂むきと人参の飾り切り 摺り下ろし生わさび 祖で優雅な 隠し美である 桃とみゆうは 写真に納めて メモを取ると 顔を見合わせて あいづちを打ちながら 楽しそうに 食べている オホーツクブルー おかわり下さい オホーツクブルー 中身は なんでしょうか このネーミングは・・・ほろ酔う程に

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          紀淡のリリー オリジナルのカクテルがあるそうですが アラサーティの女性二人は 尋ねる はい ございます オホーツクブルーに流氷です 百合が答えると それじゃオホーツクブルーをふたつ 何やら手帳に メモを取る二人 料理本の記者かもしれない もしかして 健は 有名な 隠れた料理人? 百合は そう思い始めていた 料理は 沙流岬 ワンメニューです こちらのきめたものしか お出ししません よろしいでしょうか 健は 悠悠として 客に媚|《こび》る仕草を い

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          紀淡のリリー10 近くの紋別港に 珍しい魚が 上がるから 沙流岬に 店を構えたそうだ 正式に開店するまで 創作修行中で 安くて美味しいと 漁師仲間や旅人に 口づてに伝わり 賑わっているそうだ 週末に洋洋に来て 料理長にいろいろ教わってるから じきに会えるさ 支配人は 百合の恋ごころが 気がかりだった はじめまして 竜神健です 料理見習いの南風百合です 目と目が合って 肩を小さく窄《すぼ》めて 百合は挨拶した 場を和ませるように 料理長が それ

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          紀淡のリリー9 山のような ご祝儀を  拾い集めて お礼をのべて 袖に引いて リリーは 支配人にすべて渡した リリー いや百合 これはお前のものだ 取っておくれ いいんだよ いいえ わたしは 料理見習いの身分 受け取る訳には まいりません 百合は そう言うと 料理場へ 急いだ おはようございます 支配人に挨拶をすると 百合 昨夜はありがとう 本当に 助かったよ 漁協の皆さんに ほめられて 鼻が 高かったよ 感謝の言葉が うれしかった 支配人

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          紀淡のリリー8 男踊りは ひょっとこ踊りにタコ踊り ぬき足 さし足 さては泥棒 大声出されて 追い回されて あらら あららと逃げまわる どっこい ここらで 股 ひらき直って どんと どどんと 見栄を切る 拍手喝采 雨あられ 粋な兄さん ご祝儀胸わかれ 見せちゃいけない 見せるは 芸よ それでは ただいまから 第二部 歌謡ショーでございます 阿波踊りの余りの楽しさに ざわめく余韻を やさしく静めながら 司会の北野純は イントロに 力をこめる

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          紀淡のリリー7 漁師の宴は 実に楽しい 赤銅色に灼けた肌 澄んだひとみ 厚い胸板 そのくせに 男心の裏表 めっぽう弱い恋と人情 長老の乾杯で始まり 海明けを前に 活気に溢れている オホーツクに咲く 銀鱗の華 スケソウが ごつごつやってくる マイクを持ち はらはらしながら 宴会部長 北野純はステージに立った ショータイム 本日のゲストを ご紹介いたします 紀淡海峡 遥々《はるばる》と 由良の岬に 咲いた 百合の花 鳴門の渦に 引き寄せられて 踊

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          紀淡のリリー6 そうですか それは頼もしい 番外地健が やって来たら 競争をさせて みるか 料理長は ほほえみ 合格と言った 番外地健とは 誰だろう 百合はそう思いながら 料理の下働きに 一生懸命 励んだ それから一ヶ月が過ぎた頃 支配人 大変です 宴会部長の 北野純が 青い顔で 飛んできた 歌手の 西京はるみが 病気で 本日 出演叶わないそうです コロナか それでは コロナイほうがいいなぁ 支配人の寒いギャグに 救われながら 困りはて

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          紀淡のリリー5 網走湖の湖畔に オーベルジュの 北の洋々がある 小さな旅館だが フランス料理と日本料理が 見事に創造され 触れあう 人気の旅館である ここで修行しよう 勝手に百合は そう決めていた 断られたら 朝まで 座り込む 作戦である ボストンバッグに スーツケース リボンで結んだ ポニーテール あかぬけない 百合をみて うちでは 募集してないので と断り 追い払う 支配人 勅使河原あきら 柔和な顔で 睨《にら》みを 利|かしたものの 哀

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          紀淡のリリー4 泳ぎの達人だったけ あん人が 海で 死ぬはずがなか いつも話してた オホーツクの海で  スケソウをとる夢を クリオネと遊ぶ夢を きっと叶えて 生きているさ 漁師の仲間達は けして 悲しみを 受け入れようとしない 美智子も ずっとずっと 信じていたかった 大阪や兵庫や和歌山から 県立淡路高校を志願し 優秀な生徒が 集まってくる 調理師コースや パティシエコースは 大人気である 百合は 調理師コースで学んでいた 卒業すると 調

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          紀淡のリリー3 あらしたいの(やばいよ やばいよ) 高校生たちが   見学に来ては ぞくぞく入門する 南淡路 阿波踊り連合 俗称 南淡連 誘った訳ではないが 百合と母の 阿波踊りに 魅せられて ひとり ふたり 仲間がふえ 若々しく 賑やかに なっていった 吹上の浜に 難破船が あがったそうだ 船乗りは 若くて 軽い怪我で 済んだそうだぜ 今年の台風は すごかったなぁ 地元の漁師達は 気遣い ほっと胸を なでおりす そう言えば 南風丸を 想

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          紀淡のリリー2 物心つくと 百合は 父のことを 尋ねることはなかった 休みの日に 母が習っていた 阿波踊りを見学して 見よう見まねで 一緒に踊るように なった 大人顔負けの 見事な手捌きに ひょっとこのような 足おくりに みんなが おどろいた 高校生になった頃 洲本の漁師達が 気づかいながら 父の話を 少しずつ してくれるようになった 母港洲本津名港 南風丸 父の船である 明石海峡 北廻り 小豆島の 駆け上がりで 鯛を釣るのが 日課だった

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          紀淡のリリー1 大阪港を懐|《ふところ》に 淡路島と和歌山を 相みて 悠々と洋々と大潮はながれる 友ヶ島水道 別の名を 紀淡海峡と言う 由良の丘から 少女は ささやく 逢いたいよ 逢いたいよ 百合は 本名 南風百合 美智子は母である 小高い丘で 小さな美容室を 母は一人で 経営し 百合を 育ててくれた 店の前に二人 座って 沖の島の 朝日を 播磨灘の 夕日を 肩をよせあい いつまでも見ていた 由良地区には 結婚式の風習がない 子供が三歳に

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          南州丸(最終回) ひむかの朝日が 熱く燃えて 登るぜ 台風一過の海は いいもんだぜ 大間で教わった サンマの仕掛けにしようか いやいや あれは夢だった やっぱり飛び魚を 泳がせようぜ 豪が ひとりごとを 言うと 快が まじまじと 顔を のぞきこむ 兄貴 どんな夢みたんだよ 続きを教えろよ 快は 興味津津 聞いてくる 兄貴の恋人は 崎で 俺の恋人は 恐か どっちが美人だ 教えろよ しつこく 深掘りしてくる そうだ そうだよ ふたりとも いい娘だ

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