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ファンタジー短編小説2

紀淡のリリー10


近くの紋別港に

珍しい魚が 上がるから

沙流岬に 店を構えたそうだ

正式に開店するまで

創作修行中で 安くて美味しいと

漁師仲間や旅人に

口づてに伝わり 賑わっているそうだ

週末に洋洋に来て

料理長にいろいろ教わってるから

じきに会えるさ

支配人は 百合の恋ごころが 気がかりだった


はじめまして 竜神健です

料理見習いの南風百合です

目と目が合って

肩を小さく窄|《すぼ》めて 百合は挨拶した

場を和ませるように

料理長が それじゃ桂むきの競争やりますか

と茶化す

いえいえとんでもないです 辞退します

とても敵|《かな》いません

百合は華のある健にしりごみをした


その日を縁に

休みの日となると

料理修行所番外地で

百合はお手伝いをするようになった

オホーツクを望む 沙流岬

ピアシリ山に

夕日が沈むと

カチカチと石を鳴らし

健は 番外地の灯りを点す

カチカチは 鹿を呼んでいるらしい


タクシーの止まる音がして

旅人が 二人やってきた

会釈して

席へ案内すると

よかったらカウンターにして下さい

料理する所を 見せて貰っていいですか

小太りの方が ほほえむ

かまいませんよ どうぞ

健は 愛想よく 答えて

仕込みを 続ける

百合は やさしい健の本当の顔を

初めて知った

<続く>

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