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ファンタジー短編小説2

紀淡のリリー8


男踊りは

ひょっとこ踊りにタコ踊り

ぬき足 さし足

さては泥棒 大声出されて

追い回されて

あらら あららと逃げまわる

どっこい ここらで

股 ひらき直って

どんと どどんと 見栄を切る

拍手喝采 雨あられ

粋な兄さん ご祝儀胸わかれ

見せちゃいけない 見せるは 芸よ


それでは ただいまから

第二部 歌謡ショーでございます

阿波踊りの余りの楽しさに

ざわめく余韻を やさしく静めながら

司会の北野純は

イントロに 力をこめる

ここは 流氷 オホーツク

空に舞うのはオジロワシ

逢いにくるのは スケソウ 銀鱗の花

男ごころに 恋の花

ご存じ名曲 北の漁場

紀淡のリリー どうぞ〜


いのち ぬくめて 酔いながら

酒を まわしのむ

あすの稼ぎを 夢にみて  

腹に さらし巻く

リリーは まだ十九 酒のにがさも知るまいに

見事な 節まわしだ

海の男にゃヨー 氷る波しぶき

北の漁場はヨー 男の仕事場さ

拍手が鳴り止まぬ

漁師たちは 心に沁みる

リリーの歌に 心底惚れて

虜になって 身じろぎひとつしない


名残惜しいと

つながりながら 降る雨も

千切れて 石によりそう 未練の雨も

たどり着くのは オホーツク

ここは ここは

その名も 網走番外地

切ないナレーションに続いて

唄うリリーの 物悲しさに

荒くれの漁師達が 

シーンと 涙ぐむ

<続く>


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