見出し画像

DISCO TEKE-TEN open vol.1

 なんとかOPENにこぎ着けた俺たちだが、その時点で残りの所持金は8万ちょっと。食事もしなくてはならないし、毎日の店代も必要だ。そもそもこの時点で、船でも全員は帰れない計算になる。客が来なければ、このまま久米島に骨を埋める覚悟。というほどの気合はなかったがとにかく頑張る他ない。しかし初日は客が入らず、2日目も1組か2組だった。そもそも店も少し路地入ったところで、看板も手作りでは、怪しい店にしか見えない。これはまずいと、翌日は全員でビーチに出動。ビーチパラソルの穴を掘りながら店の宣伝。昨日までの声がけを変えて、送迎の時間の約束を取るようにした。民宿〇〇に19:30で4名というようにスケジュールを決めて、迎えに行く作戦に変更した。シーズンインしたイーフビーチは200人くらいの女子社員、女子大生で99%が女性客。構図はこうだ、昔から人気の新島ここ数年ブームの与論島。去年の与論島のメインストリートは、竹下通りかってくらいに人がいて、ナンパ目的のにいちゃんで溢れていた。まずお金のある若い女性がリゾートを見つけ遊びに行き始める。それを知った男たちが必死にバイトをしてその島を目指す。でもその頃には感度の速い女性たちは別の島に流れ、もともと人気だったリゾートは男ばかりの島になる。その法則を男は気づかない、綺麗な自然を求めてくる女性と女性目当ての男たち。そもそも見えてる物が違うので、まあ、そういうことになる。なのでブーム前の久米島は遊びに来る観光客のほとんどが女性客で、見渡す限り女性客しかいないビーチができあがるというわけだ。華やかな水着の女性たちも、2,500円の入場料を払ってくれる客。むしろ2,500円の現金にしか見えないくらい、切羽詰まっていた俺たちは必死さを隠しながら勧誘しまくった。

 そして、みんなの勧誘の力もあって、その日ついに70人のお客が来てくれた。夕食後の民宿を回って、殺虫剤臭いボロボロな後ろのドアが開けっぱなしの緑色のハイエースに、当然座席もないので、荷台に中腰スタイルで女性たちを乗せて移動。よくみんなそんな車に乗って来てくれたと今は思う。島の反対側から30分以上その車に揺られ真っ暗な島の道を、一体どこに連れて行かれるのか、きっと不安だっただろうなと。とにかく店は若い女性たちでいっぱいになった。
すると今度は新たな問題が発生した。数名のお客から
「男いないじゃん」
とクレームが入ったのだ。確かに店内は俺たち以外は全員女性。夏のアバンチュール?を求めたお客からしてみたら、女しかいない店はそりゃつまらないよね。そこでちょっといい男のタカヒロやよこちゃんをホストのようにテーブルにつけて、俺は表通りに出て男性客を探すことに、通りを歩く島の若ものに声をかけ、
「タダでいいから遊んでいかない?」
と歩いている島の男の子を片っ端から勧誘。
 こうして女性は正規料金、男性は無料という珍しいDISCOが誕生した。島に誕生したDISCOは島の若者たちは興味津々。でも久米島の男の子はすごくシャイな子が多くて、最初に近づいてきたのが自称ヤ⚪︎ザのタカシ(仮名)でコザの組がどうの、武闘派がどうのと色々フカしてきた。本来はそういった関係者の入店をさせないような注意を払っていたが、そう悪い奴でもなさそうなので出入りを許していた。でもシャイなんで店の前でなんやかん言うだけで、結局店にはあんまり入って来なかった。その次に仲良くなったのは地元のちょいヤンキーな女の子グループで近くの喫茶店やスナックで働く子達。その子達に
 「私たち時給150円ももらってるのよ」。
と自慢され、150円って安すぎだろう。と思ったが自分たちの今を換算すると時給50円くらいだったので愕然とした。そしてスーパー玉寄の彦ちゃん。この彦ちゃんは、その後俺たちと長野県の野沢温泉まで行動を共にするようになる。そして島で一番のヤンチャ頭のヤスさん。ヤスさんに関しては書くことが多すぎるので後にするが、とにかく徐々に島内にも顔見知りが増えてきた。島の他の店では「翼の折れたエンジェル」がヘビロテでかかっていた夏。店の中では少しお酒も入ったお客たちがやっと踊り初めて盛り上がって来た。DJのジョージもやっと本来の仕事をすることが出来ている。洋楽に加えてレベッカのREMIXなども織り交ぜフロアーを盛り上げている。たくさんのお客さんのおかげで、昼間の疲れも忘れて俺たちも大いに盛り上がった。
 閉店後のミーティング。今日の営業の反省と明日からも勧誘はこの作戦で行くことなどを確認して、琉球銀行の夜間金庫に売上を預けて、深夜までやっている唯一の定食屋に向かう。食事を済ますと、ビーチチームは4時半起きでボートの清掃が始まるので島の反対側に戻っていった。店チームの俺たちは星空を見上げながら、クーラーの止められた店に戻りビニールのソファを四つくっつけベットがわりに眠りについた。ここで気をつけなくてはならないのが島のゴキブリだ、島のゴキは首に白い線が入っていてカブトムシくらいデカい。それに噛まれないように、(噛まれると腫れる)ソファの周りに殺虫スプレーをこれでもかと言うくらい噴射して寝る。これは俺の観察だが、島のゴキはある一定の温度以上になると飛ぶ。カニもよく店に中を歩いているが、これは害がないのでOK。 クーラーを止められた南の島の店。翌朝目が覚めると顔も体も汗でソファーに張り付いている。ベリベリとそれを剥がすところから朝は始まる。ソファーを戻し、掃除をして飲料の補充に向かい、ついでにブランチを取る。久米島は大きな島なので、観光客の移動は送迎バスかタクシーになる。そこでビールを1ケースもって近所の久米島相互タクシーさんに挨拶に向かった。タクシー会社にビールの差し入れといのもなんだが、いろいろ客が乗るかもしれないので、店の場所を覚えてもらってスムーズにお客がたどり着けるためだ。まだOPENしたてのTeke-Tenは島の人はほとんど知らない。ただちょっと店から離れた共栄タクシーさんには遠かったので挨拶に行かなかった。これが失敗で、相互に挨拶に行ったと言う情報はすぐに広がり、行かなかった方の共栄タクシーさんのドライバーさんが気を悪くしたようで、うちの店に向かうお客さんに、 「あそこの店、曲がイマイチらしいよ」などとネガティブ情報を客に流されてしまった。そのタクシーに乗ってきた女の子にその話を聞いてびっくり。余所者は挨拶をちゃんとしないとね。 島の新聞のTOP Newsが「鈴木さん宅でテレビが盗まれる」というような平和な島でゆっくりと時間は流れていった。

 連日の勧誘大作戦で、ある程度お客が入るようになって、高校時代の友人望月、モツ、コバミチたちも遊びに来てくれて、平和?な日々を過ごしていた。島の若者とも仲良くなり、特にやっさんには可愛がってもらっていた。やっさんは仕事から家に帰ると、ロッキーのテーマをかけて、鴨居を使って懸垂をしてそれから遊びに行くと言う人で、島の三本松という場所に生えてる松に立ち小便をして二本枯して一本松にしたとか武勇伝の多さでは島一番の人で、秘密のプリベートビーチに連れていってもらったりした。そのビーチはほとんど人が来ることもないので、砂浜には薬莢がたくさん落ちていて、戦争の影を落としていた。これは実際に見たわけではなく、聞いた話だが、島の若者は夏が終わると暇になるので、このビーチに来て、湾に沈んでいる不発弾の信管をそうっと抜く「信管抜きゲーム」という遊びをしているらしい。度胸試しのようなゲームで、船から海に潜り沈んでいる不発弾から、信管を抜く遊びだという。不発弾を爆発させて、気絶した魚を獲るとも言ってた。他にも8畳敷のエイの話や海中に引き込まれそうになってタコの腕を引きちぎった話などいっぱい話を教えてもらった。 店チームは仕入れに掃除に、勧誘にと少し余裕が出て来たが、過酷なビーチチームには不満が溜まり始めていた。それもなるべく交代でチーム変えるなどして日々頑張っていた。そんな時に事件が起こった。オヤジが島の女の子に原チャリを借りたのだが、珊瑚の砂に滑って転倒して、原チャリを壊してしまったのだ。しかもその原チャリの持ち主は、その女の子ではなく組の人だった。

続く。

この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?