割れたもの、割ったもの

アルバイト歴6年の間に皿を割りグラスを割り過ごしてきたが、自分が「割った」と思えるようになったのはごく最近のことだ。

「割れてしまいました」
ではなく
「割ってしまいました」

後者の言い方をできるまでに時間がかかった。
というのも人にそう言いなさいと注意されるのが遅かった。

飲食店の割れ物は消え物だと思ってたし、割れるのは当たり前だから自分は悪くないと思っていた。はじめてのアルバイト先で皿を割って怒られたが、人を雇っておいて何を言ってるんだと思っていた。
人を雇う限りミスがあるのは当たり前だし、責任は雇った人にあると思っていた。

怒られても怒られても全く罪悪感が湧かなかった。オーダーを取り違えても全く罪悪感が湧かなかったし、賄いにいただきますを言わないで食べようとして怒られたが、雇用契約上やってもらって当たり前のことになぜお礼を言わなきゃいけないのかわからなかった。

18から20まで働いた職場は、オーナーと恋仲になって喧嘩別れして辞めた。(よくあることだと思う。)
今でも職場のこと思い出して嫌になるが、よく屁理屈娘に付き合って叱ってくれたものだと思う。愛ゆえか。今となっては気持ち悪いが。

就活を諦めてバーテンダーとして働きはじめた頃、グラスを割った。「割れました」と報告したが叱られた。

「グラスが自分から「割れる」ことはないんだよ。あなたが「割ったん」でしょ」と。

言われたことが結構、刺さっている。22歳になるときのことだ。

最近は「割ってしまいました」と言えるようになった。今日グラスを割った。私が割ってしまいました。すみませんでした。

誠意のある謝罪はまだ最適解が見つかってないが、誠意あるように思われたいなと思う。

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