アイヌの考え方が精神に及ぼすもの

ゴールデンカムイが全話無料キャンペーンを始めてから、一気に読み上げアイヌ文化の魅力に引き込まれた。作中で語られるアイヌの考え方はごく一部に過ぎないと思うが、私の心を射抜くには十分であった。

アイヌでは神の国で人間と同じ姿をしている「カムイ」が、動物の皮と肉をお土産に人間の国へやってくると考えられている。自然はみんなカムイ=神様だ。動物たちはもちろん、火のカムイ、風のカムイ、水のカムイ。人間達の生活にまつわるものにはカムイが宿っている。
中でもヒグマは特別なカムイだ。北海道ではヒグマがよく出没する。狩猟中に小熊を見つけたら、村に連れて帰り大切に育てる。

「イオマンテ」は大切に育てたヒグマのカムイを「送る」儀式だ。
カムイを盛大に歌や踊りでもてなし、土産物をたくさん持たせて、神の国へ帰った時に自分達の村のことをたくさん伝えてもらう。そうしてまた、動物の姿をして人間の世界へ降りてきてもらうのだ。

こうしたアイヌの考え方には、衣食住にまつわる知恵がたくさん詰まっている。
アイヌは狩猟民族だ。動物の肉や毛皮は生活に欠かせない。アイヌでは動物の方から矢に当たりにくると考えられている。気に入った人がいるとカムイは自ら肉と毛皮を差し出すのだ。

私は2年前、駆け込むように精神科を受診して以来ずっと薬による治療を続けている。
毎日死にたくて当たり前の生活だったものの、ここ最近調子がいい。浴びるように飲んでいた酒を減らし、代わりにしっかりと食事を摂るようになった。空腹は抑うつ状態と関係がある。そのことが実感を持ってわかってきた。
今の私にとって、適切な方法で空腹を満たすことが明日を生きることと直結している。
私に必要なのは直接的な精神の救済ではなく、「空腹を満たす動機」である。
衣食住と密接なアイヌの考え方は、今の私にぴったりだった。衣食住ができて初めてその先の精神について考えることができるのだと思う。

仏陀や親鸞など惹かれる考え方はこれまでにいくつかあった。しかしどれも身を委ねるほどのものとは思えず、また他人に精神の在り方を説かれ委ねるのもどうかと葛藤していた。
しかしアイヌの考え方が自分に及ぼす影響は衣食住の確保であり、その先は私の自由だ。
まず衣食住を大切にする心を、動機を与えてくれたアイヌの考え方はしばらく私を先導していくことと思う。

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