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邪気払いのカニカマ

むり。非常に無理だ。
と思った。こんな気持ちで家に帰りたくない。
あの◯◯◯◯◯、などと、とても嫌な言葉を吐いてしまいそうになる。排水溝の垢より醜いこんな感情、三連休でやや片付いた家に持ち帰りたくない。邪気払いをするしかない。私なりに、この感情の供養をするほかない。

本当に腹が立って悔しくて、くやしい。先週から嫌なこと続きだ。大きな善みたいなことを言うその身体のつま先で、幼稚に、こっそり人の大事なものを蹴っているのを知っている。それを気づいていない風に装う自分も、今日徹底的に当てられて、落ちている自分も情け無くてかなしい。でも、泣くなんて死んでもしてやらんぞ!と思い、帰りのお疲れさまはわざといつものトーンで言ってやった。感じの悪いやつだっただろう。いじめがいのない。しめしめ。

こういう時は、某短い夜を歩く乙女のまじないを唱えれば心鎮まる、と思い、なむなむと呟くが、収まらない。なむなむが心を素通りしていくのは初めてだ。これはやっぱり、邪気払いするしかない。

幸いなことに私の住む町は川だらけだから、邪気払いにはちょうどよい。川は、さらさらと醜いものを流してくれる気がする。それに、今の時期は川にキンクロハジロもいない。私の私怨を放流したことで苦しむ鴨は存在しえない。スカイツリーが曇ってよく見えないのも有難い。あいつには常々見張られているような気がしてしまうので。
御神酒はビールだ。
ビールと、なんか細長くて歯応えのあるものを奥歯と犬歯でボリボリボリボリ噛み切ってやりたい。ビールはサッポロの黒星でなくてはならない。

ので、セブンイレブンで黒星とカニカマを購入。ほんとうはキュウリくらい栄養のない物が良かった。君はギネスに載るくらい栄養がないんだよってボリボリして悦に入りたかった。
キュウリの件は仕方がないのでビールを開封。一気に流し込む。購入してから3分も経っていないはずなのに、なんか温い。それでもビールは美味しい。カニカマを必要以上に、キュウリを齧るくらいの威力で噛み進める。邪気を払うのだ。このカニカマとビールを腹に収めれば、腹が収まる。川を見る。ビールを飲む。鼻から溢れるんじゃないかってくらいの勢いで飲む。あーーーーほ!!!と脳内で叫んでカニカマを齧る。これは儀式だ。明日もあの会社に行って働くための儀式だ。

もう意地悪な言葉を吐く気力はないので、夜の真っ黒な川を見る。夜の川が好きだ。この町は、駅から遠いしハザードマップでは海抜ゼロメートル地帯で、人には勧められないけれど川がいい。引っ越すとしたら、次も川がある町がいい。邪気払いできるので。


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