原田龍一

作家・詩人。創作大賞2024にオールカテゴリ部門に詩で参加。 お仕事の依頼はこちら r…

原田龍一

作家・詩人。創作大賞2024にオールカテゴリ部門に詩で参加。 お仕事の依頼はこちら ryuichiharada813@gmail.com standfmやってます。https://stand.fm/channels/6082d242eeca46c0abb0221d

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    私が書いた物語で、朗読配信にお使いいただける作品を集めています。 注意事項を守っていただければ、私への了承は必要ありません。

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時に人はモノに呼ばれる

恋の悩みや迷いを抱えたり、プレゼントに困った若い男女たちが、ふと見かけた小さなアンティークショップ。 気持ちのフォトスタンド、思い出を切るペーパーナイフ、天使、天秤などにまつわる物語。 これらの物に、時に考えさせられ、時にそっと背中を押され、それぞれが再び前を向いて歩いていく。 大人になったあなたにも読んでほしい連作掌編・短編集。 ★ペーパーバック版 https://amzn.to/3LKeaAD ★電子書籍版 https://amzn.to/3r4APQc ★A

    • 一年 ~詩六篇~

       1 残照 桜散って咲く花水木 紋白蝶舞う菜の花畑 黄色い花に天道虫 そよぐ風 微笑む君 君が作った弁当 暖かな陽の光 時は一瞬で 時は永遠だった いつしか夕暮れ 誰もいなくなった菜の花畑 紋白蝶も姿を消し 朱い西に紺の東 時は一瞬で 時は永遠だった そよぐ風 微笑む君 陽は沈み 残照が残っていた  2 夏祭り 綿飴射的金魚掬い 紺の浴衣に咲く花火 結い上げた髪 白い首 長い睫毛 朱い唇 夏祭りの道を離れ 満月輝く公園へ 虫の音 風の音 君の声 花火が夜空を彩っ

      • 四月の雨

         カーテンを開けるとくもりガラスの向こうは灰色だった。  二重サッシの内側を開けると、窓ガラスいっぱいについた雨粒の向こうに一面の鈍色が広がっていた。僕は今日のために久しぶりに買ったマールボロに火をつけ、深く煙を吸って、ため息と共に一気に吐き出した。  桜は散ってしまっただろうか。それともまだぎりぎり満開前で持ちこたえているのだろうか。仕事の休日と満開の予定日が重なっていたので、久しぶりに弘前公園に見に行こうと決めていた。  今年は桜月(さつき)の七回忌。桜月が癌で、この世界

        • 自作詩・自作掌編『終冬』

             自作詩『終冬』  桜鮮やかな春空  執念深い雪の舞  留まったのか飛び立ち損ねたのか  池に空を眺める白鳥が一羽  遠い仲間を思うのか  ここにいる自分への後悔か  白鳥は舞い降りる雪を眺めている  春風が吹き雪を散らす  白鳥は首を縦に振り鳴き出す  大きく翼を広げ水面を走り  春風に向かって飛び立つ  ただ一羽鳴く声は  ここにいる そこへ行く  白鳥の声に聞こえたその声は  私の声だった  雪がやんだ青空  鮮やかに桜咲く  白鳥はすでに見えず  ただ その

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          16本

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          線香花火

            一  窓を開けた。  外には積もった雪と雪かきで積み上げた雪が、一階の天井ほどまであった。  空は晴れ渡り、風もない。  毎年一番厳しい二月に、このような天気は珍しい。  他にやることはあるにはあったのだが、急いでやることでもなく、年末は仕事が忙しくて大掃除をしていなかったので、せめて旧暦の正月までにはやっておこうと朝早くからあちこちを拭いたり掃いたりしていた。  長年勤めた仕事を一月末で辞め、役所とハローワークへの手続きも終わり、とりあえずは次の仕事を探すだけ。もちろ

          有料
          130〜
          割引あり

          深海より

           かつて陸地だった深海に聳え立つ数千メートルの山の頂。そこにある高さ三十メートルの、巨人たちが建てた日本の神社のような石造りの神殿。沈黙。光の届かぬ世界では見ることはできず、時おり巨大な何かが動いている気配がする。  目を閉じて視ながら数十メートルの鳥居をくぐり拝殿に立ち、この世界、いや、この宇宙、いや、すべての宇宙の、すべての次元の宇宙の永劫の平和と安寧と調和を祈る。沈黙。再び巨大な何かがやってきては頭上を通り過ぎる。しかし、沈黙。  その時、拝殿の奥が朦朧と光り人類以前の

          もういちど一緒に。それだけ。

           霞がかつた青空に、斑のような雲。  先週降り積もった雪はすつかり溶け、春のような陽気が三日続いています。林檎も木蓮もすつかり葉を落とし、木蓮の枝には白く短い毛に覆われた冬芽が出ていました。春に綺麗に咲いていた紫陽花は花も葉も枝も全てが焦茶色に染まつています。  黒のロングコートのポケットに入れてきた手袋は必要なさそうです。  車も自転車も歩行者も少く、時折見かけるだけ。自転車に乗ろうかと思いましたが、なんとなく歩きたい気分で買い物も少ないこともあり、散歩がてら外に出ました。

          もういちど一緒に。それだけ。

          人生を映す走馬灯

             1 「おい、走馬灯って知ってるか」  高校時代からの友人が言った。  土曜日の夜の居酒屋は混んでいて、俺たちはカウンター席の一番奥に並んで座っていた。  友人と会うのは数年ぶりで、会わないうちにずいぶん太っていた。友人が言うには、ここ数年の感染病で、外に出ることがなくなり、必要以外の日は家にこもっていたそうだ。気がついたら取り返しがつかなくなっていたらしいが、家にいてもやれることはある。家で何をしていたのか聞いてみたら、読書やネットで動画を見たり、ゲームをやったり。結婚

          人生を映す走馬灯

          夢のあとさき

           雲ひとつない初夏の青空。これから来る夏への理由のない期待。時折そよぐ風。梅雨明けの土曜日の街は、多くの人がどこか嬉しそうな、浮かれていそうな表情をしている。たぶん他の誰かが私を見たら、同じような表情をしているのだろう。  出会いと男運に恵まれてこなかった私にも、ついにその時が来たんだとしか思えない。ほどよい距離感。1日に1人の時間が数時間でも必要。読書と音楽が好きで、しかも好きな作家も、歌手とバンドもほぼ同じ。  そんな人が今、私の隣を歩いている。  今まで付き合った人は、

          夢のあとさき

          雨の図書館

          はじめに この物語はstand.fmで配信していらっしゃる漫画家の緒方しろさんの収録『雨の図書館』を聴いて触発されて書きました。 stand.fmに登録されている方はぜひ、緒方しろさんの収録をお聴きください。 ●stand.fm 緒方しろさんの『雨の図書館』 雨の図書館 自動ドアが閉まると、薄暗い館内には図書館独特の静けさが満ちていた。  廊下を歩き、高い天井を見上げると、晴れた日は光を届けてくれる天窓の向こうは鈍色の雲が覆っていて、遠くから無数の強い雨が、屋根と天窓を打つ

          雨の図書館

          続く日々

           今日で17歳が終わる。  そんな事を考えながら、教科書から目を上げ、なんとなく窓の外を見た。 「あ」  学校の入口にある大きなイチョウの木。その最後の一葉が風に舞ったのを見て、思わず声を出してしまった。 「おおい、どうした、何か質問か」  あごひげをはやしていて、唇が薄い現代国語の先生が、あからさまに眉間に皺を寄せながら言った。私は見たことがないが、休日はサングラスをかけて出かけているらしい。 「すみません、なんでもありません」  私は謝った。  先生は頷き、私が見ていた方

          続く日々

          アフタートーク

           アクリル板で仕切られた4人がけのボックス席に僕たちは座った。  僕の隣にリンが、僕の向かいにナオジー、ナオジーの隣にモンが座り、とりあえず中ジョッキを4つと枝豆、焼き鳥盛り合わせを頼んだ。  3人の表情は冴えない。  今日は世界的に停滞ムードが蔓延してから2年ぶりの、3人組バンド「STANDAP(スタンダップ)」にとっても久しぶりの営業だった。バンドと言っても結成から25年、一度もメジャーデビューはしたことがない。  リンは結婚して子供が二人いるが、上の子は成人して社会に出

          アフタートーク

          あの夏の神社とおばあちゃん

             1  久しぶりに山の絵を描きたいと思ったのが、そもそものはじまりだった。  本業でないとはいえ、僕の絵を見て買ってくれる人がいたり、アイコンやサムネイルの依頼をしてくれる人がいるのは、正直に言って嬉しい。  おかげで会社の給料だけではギリギリだった生活が、今は少しは余裕を持って生活することができるようになった。  とはいえ、勤めとは違って収入は月によってまったく違うし、今年得た収入を、来年確定申告しなければいけないので、全てを使えるわけでもない。  絵を描くために必要

          あの夏の神社とおばあちゃん

          月虹 後編

          ※ひとつ前の記事に前編があります     5  男性が差してくれる傘の中に入るのは何年ぶりだろうと思いながら歩いているとコンビニに着きました。  お互いに傘に当たる雨の音を聞いているだけで、会話はありませんでした。  男性はすぐに買い物を済ませ、入口近くでコーヒーマシーンにカップを置いていました。  私は傘を手にして、奥に進み、ハンドタオルを二枚手に取り、レジでコーヒーも注文しました。  久しぶりに大雨に打たれてずぶ濡れになりたい気分になったんだよと言った男性の言葉が残って

          月虹 後編

          月虹 前編

              1  無数のカエルの鳴き声に包まれ、星ひとつ見えない曇天の下を、私は歩いていました。  6月の夜。  左には川が流れ、川の向こうも右側にも田んぼが広がる、誰も通っていない道。  右の田んぼの向こうには林があり、そのさらに向こうにある大学は見えません。左の川の向こうの田んぼの先には家々がポツポツと建っていますが、どの家にも灯りは点いていませんでした。  その日の夜は暖かく、むせ返るような緑の匂いが立ち込めていました。   これから雨が降るのかもしれないな。どうせ降るな

          月虹 前編

          はじめてのバースデーケーキ

          「はい、これ」  高校の帰り道、校門を出てすぐに、カスミはそう言いながら一冊の文庫本を僕に差し伸べた。二日前に貸したシリーズものの恋愛小説だ。  恋愛小説というより、青春小説といったほうがいいかもしれない。  高校生の主人公が学年がひとつ上の静かで落ち着いた先輩を好きになり、どうにかして接点を持とうとしてあれやこれやと試行錯誤して、失敗しながらも、先輩と近づいていく。  帰宅部でゲームばかりやっていたのが、先輩と話せるかもしれないと文芸部に入部して、それまでたまに思い出したよ

          はじめてのバースデーケーキ