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空想彼女毒本 #09

#09  越野真衣香

越野真衣香

越野真衣香。見覚えのあるTシャツだなと声をかけたのが最初の出会い。「そのTシャツ僕がデザインしたんだ」というと「そうなの!彼氏にもらったの」と。「いい彼氏だね」その場は別れた。3ヶ月後「彼と別れてあのTシャツ着づらいんだよね」と新たなTシャツをボクの部屋から着て帰った。
ECサイトで販売していたTシャツを、まさか街中で見かけることが有るなんて。そもそも自分が着たいデザインが無いから始めた、ECサイトのTシャツ販売。だから、ほぼ自分しか買っていなかったんだが、ごく稀に間違ってなのか、購入されていた。センスのいい人もいるもんだなと自惚れたりもしていた。
この日ボクは、下北沢のクラブイベントで知り合いがDJをするというので見に行った。音楽は大体何でも聴く方なので、どんなジャンルでも楽しめる。今日は比較的若いお客さんが多いので、若めの選曲になるといっていたので、まだ知らない音楽に出会えそうだとワクワクして向かった。会場時間まで少しあったので、近くのチェーン店のコーヒーショップで時間を潰していると、見覚えのあるTシャツを着た女性が目に入る。それはあまりにも異質で、自分の好みの塊のようなデザインだ。それもそのハズ、自分でデザインしたTシャツだからだ。あんなモノを他の人が着ることが有るんだなという感覚と、それを選ぶセンスに他人では無いという思いが募る。
「そのTシャツ僕がデザインしたんだ」
無意識にそう声をかけてしまった。
「そうなの!彼氏にもらったの」
「いい彼氏だね」
そう言うと笑顔で
「うん」
と頷き、笑顔で出ていった。
思わずとった自分の行動に、オレってこんな社交性あったんだとか思いながら、人に声かけるのって勇気いるけど、かけられると嬉しいもんだから、失礼な事じゃなければ、かけた方が良いよな。と自分のとった行動を肯定する自分がいる。
ボクはいつでもそうだ。自分を肯定していないと居られない人なのだ。それが原因でよく怒られる。非を認めないわけでは無いが、まず自分の正当性を問うてしまう。そんなことを考えながら、冷めたコーヒーを流し込んで、時間になったのでクラブへ向かう。
まだ始まったばかりの会場は人もまばらで、流れてる音楽も落ち着いた感じだった。さっきコーヒーを飲み干したばかりなので、バーカウンターで何にしようかと、ドリンクメニューを眺めていると、
「あ!さっきの!」
と明るく無邪気な声で肩を叩かれた。
「あ、さっきはどうも、つい珍しいから声かけちゃって。まさかここでも一緒になるなんてね。」
「何だか気が合いますね。」
そう言われて嫌な気はしない。たまたま同じ場所に来ていただけなんだが、物は言いようというか、伝え方でこうも人を高揚させるのかと、感心すらする。
「ホントだね、ボクの好みのTシャツ着てるし、同じイベント来てるし、他人とは思えないな。」
他人はどうかは分からないが、行動原理として、ボクは何かと何かが重なると行動に移ることが多々ある。楽しそうなイベントでも、その一点では行動に移しにくい。何かもう一つ、動機になる事、今日で言えば知り合いがDJをするというような、麻雀で言えばイーハンでは上がらないというか、あと一役付けたいみたいな。リーチのみではなく、タンヤオ付けるとか、何かもう一つあれば行動に出る。言い換えれば、何かもう一つ無いと動かないとも言えるのだが。
「ホントですよ。」
「あれ?でも彼氏と一緒じゃないの?」
「まだ来てないみたいなんです。」
「こんなところ見られたら大変じゃないの?」
「大丈夫です。もう別れたいから、理由探してるんです。」
「何それ!別れる理由を探すって何?何か不満があって別れたいとかじゃないの?」
「不満がないと言えば嘘になるんだけど、何だかズルズルとこの関係続けててもなぁみたいな感じなんです。」
「それは、結婚の意思がないとかそう云う事?」
「そう云うわけでもないんだけど、何となく」
「そんなもんなの?」
「うん、わかんないけど」
「付き合い出したキッカケは?」
「ナンパです。今日みたいなイベントで。」
「そうなんだ。でも気が合ったんでしょ。」
「そうなんだけど、だんだん本性出てきたと云うか、」
「本性?何それ?」
「ナンパしてきたくせに、今何してるとか、既読がつかないとか、うるさいんですよ。」
「あぁ〜束縛系?」
「そうですね。アタシ自由で居たいのに。」
「分かるよ、干渉されたく無いんだね。」
「そうなの、別に今日何してようが、後で話せば良いのに。」
「そうだよね。信用されてないのかと思っちゃうもんね。」
「そうなんですよ!話わかりますね!」
そういうと、にっこり笑って、DJブースの方へと行ってしまった。取り残されたボクは盛り上がってきたブースを横目に、バーカウンターで飲みだした。
しばらくして知り合いのDJが始まったのでフロアの方へと向かうと、さっきまでとは違い、人が溢れるほどで、盛り上がっていた。
こんな曲もあるのかとひとしきり盛り上がったのは♫強風オールバック♫だった。さすが若い子がたくさん来ると言ってただけあって、この曲がかかるとフロアも大盛り上がりになった。
ふと、彼女の事を思い出し、辺りを見回してみると、トイレの近くで別れ話をしている彼女を発見した。遠目からでも明らかにそうであろうという感じで、近寄りがたく、そこだけポツリと穴が空いたようになっていた。
ボクの姿を確認するとツカツカとこちらへ向かって来て、腕を引っ張り
「今日からの彼氏です!」
とすでに元カレとなった彼にボクを紹介した。
「なんだよそれ!ちょっと遅れただけじゃないか!」
「そういう細かいことの積み重ねも含めて、もう嫌になっちゃったんです。」
「分かったよ、どうせそいつにもナンパされたんだろ、あなたも気をつけて下さいね、すぐに嫌われると思いますよ。」
そう捨て台詞を吐いて出ていってしまったところを見ると、別に未練とか、悔しさとか無いのかとさえ思ってしまった。ドライといえばドライなんだが、使い捨てコンタクトの様に、用が済めば捨ててしまえるのだろうか。ボクにはそういう人間関係を持つことはないだろうなと思いつつ、彼女を見ると、
「スッキリしましたね!」
と変わらずの明るさでボクを見つめる。
「あの場ではあぁ言ってたけど、本心じゃないよね?」
「嫌ですか?」
「嫌とかでは無いんだけど、唐突すぎて頭が追いつかないよ。」
「そうですよね。でも助かりました。これ私のLINE、また連絡下さい。」
そう言って押し付けるようにして出ていってしまった。
取り残されたボクは知り合いのDJを見終えて談笑しその日は帰った。
次の日すぐに昨日のお礼?なのか、とにかく一言Tシャツ気に入ってくれてありがとうとLINEをした。しばらく既読もつかなかったので、まぁそういう事だろうと忘れかけていた頃、
「お家ってどの辺ですか?」
と、唐突な質問だけ送られて来た。別に隠す必要もないし、わずかな下心が無かったといえば嘘になるが
「下北沢と言いつつ、ほぼ新代田です。」
と返した。
それからもしばらく既読も返信もなく、またどこかでナンパでもされてるんだろうなと思っていたら、
「今、お家ですか?」
とぶっきらぼうにLINEが来て、特に予定もなくダラダラしてたので
「そうです。暇してました」
と返すと、
「今、新代田の駅なんですけど、家行ってもいいですか?」
と、3ヶ月ぶりになるだろうか、彼女がやって来た。何をしてたのか、なぜ来たのか聞く前に、家に入るや否やシャワー浴びたいと言い、バスルームへ直行し、シャワーを浴び出した。あっけに取られたままでいると、バスタオルを巻いたままベットに横になり、これは試されているのか、誘われているのか、考える間もなく、気がつけば朝を迎えて果てていた。
彼女は昨日と同じ服じゃ嫌だと言い、ボクのTシャツを着て、
「彼と別れてあのTシャツ着づらいんだよね」
と、彼は嫌いになってもデザインは嫌いになっていない様子で、新たにボクのTシャツを取り出して着て出かけていった。

あとがき

意図せず出来てきた画像を見て、このTシャツデザインめっちゃいいやん!と思ってしまった。AIでなければこれは出来ないだろう。いや、漢字好きの外国人なら間違えて作るかもしれないが、そっちが気になってしまった。
AI美少女も何人か作ると、可愛いが当たり前になってしまって、感覚が麻痺してくると、いかに普通の、AIらしくないモノを求めるようになってしまう。慣れとは恐ろしいモノだ。
物語はリアルにボクのデザインしたTシャツを着ている人を見かけたら、果たして声をかけるだろうか。人によるとは思うけど、話しかけてみたいとは思う。その入手経路が気になるもんね。今は誰でもネットで作って販売もできるけど、ボクが始めた頃は業者に頼んで、それを委託販売でとなると中々売値が高くなって大変だったけど、ちょうど裏原ブームで、Tシャツ一枚安くて5〜6千円当たり前の頃もあったからなぁ。NIGOさんが出てきた頃。情報もググるなんてことも出来ない頃。みんなアンテナビンビンにして情報集めてたなぁ。雑誌やショップの店員さんからとか。
ま、自分のデザインしたTシャツを着てる人には会うことはないけれど、好きなミュージャジャンのツアーTシャツを着ている人を見かけた時、話しかけようかどうしようかと言う葛藤はある。あゆとか、サザンとか、B'zなら溢れてるけど、そうじゃ無いアーティストの、しかも別に近くでライブがあるわけでも無い日に見かけた時は悩むなぁ。こんな事があるかもしれないと思ったら、今度話しかけてみようかな。

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