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【RAIN②〜嘘つきは誰?〜】

「早速だが、問題について話を始めよう。今私が映っている、モニターの映像が切り替わり、これから五人の人間によって劇が行われる。その劇の中での登場人物は五人。そしてそのうちの一人が、監禁事件の犯人という設定だ。それぞれ容疑者として、証言を行うが、その5つの発言本当のことを言っている人間は一人で、四人は嘘をついている。つまり、4人が偽証罪を問われる案件となっている。そしてその発言の真偽を考え、犯人と本当の事を喋っている人間を当てて欲しい。制限時間はそうだね、初めてだし、長めに与えよう。3分だ。これをクリアすれば、ひとまずその部屋の扉は開くだろう。状況的に君は、その意思に関わらず、挑戦しなければいけない。」一通り説明し終えると、仮面の男は一仕事を終えたと言わんばかりに、ふうと溜息をつき、再び青年に問うた。「最後に聞こう。あとは心の準備だけだ。問題を解く気はあるか?」仮面男が言う様に、彼からすれば、選択の余地は無かった。四方はコンクリートの壁で囲まれているし、扉は開かないし、それをこじあけるだけの力も道具もない。そもそもここはどこなのか?など自分が置かれている状況を確認するには情報が足りな過ぎる。部屋に放置されたら、餓死するだけだ。つまり、彼を生かすも殺すも、モニターの向こうの人間達に委ねられている。そう言った背景も当然考慮に入れているのであろう、返事もせず、ただただ頭を縦に振った。条件を呑んだのだ。青年の表情は、さらに険しくなっていた。「でははじめよう」仮面の男がそう述べて数秒後、モニターの画面は切り替わった。男女合わせて五人の人間が目に入った。全員横並びで並んでおり、正面を見ている。五人と言うのは、男の説明と同じだ。服装は皆同じで、小学生の体操着の様な格好、すなわち白無地のTシャツ、紺色の短パンで佇んでおり、スネで画面は見切れている。シャツにはゼッケンが縫ってあり、左から田中、中西、西川、川村、村木、とそれぞれの苗字が書かれている。年齢は皆が皆、20歳後半から30代前半くらいにに思えた。しかし、同時にここでは年齢や性別はさして考慮の対象にならないということもまた青年の直感は、早くも彼の脳に訴えていた。そして彼ら・彼女らがいる背景は先程の仮面男がいた場所と同様、白い壁が映っているだけであった。可能な限り、特に場所について情報の漏洩を避けたいのだろう、と青年は悟った。モニターに映った、全員が一礼した。まるで学芸会、お遊戯会の様だと青年は内心冷笑をしていた。しかし、そんな束の間にできた余裕も、右端の村木による、「それでは、劇を始めます」という宣言によって掻き消された。どんなに馬鹿馬鹿しい劇でも、これには命がかかっているのだ。一番左端で、細身、高身長の田中が大きな声で、目を白黒させながら叫んだ。「僕は犯人ではない!!」と。何の脈絡もない雄叫びを耳にして、気が狂ったのか、と警戒する様に半眼になる青年。しかし重要なのは、こんな浅はかな演技ではない、と注視する青年。次に左の田中より、頭二つ分小さい、小柄な女性の中西が「あのおぞましい監禁事件の犯人は西川さんか村木さんです。」と静かに呟いた。そして、そのさらに右隣、つまり真ん中に毅然と立っている、精悍な顔つきをした男性の西川は、「犯人は村木だ!」と力のこもった声で宣言する。見た目と演技力だけであれば、彼が本当の事を話していると信じたい、青年は密かにそう思った。次は左端から二番目、神経質そうな、銀縁メガネの男性、川村「私が、私が犯人なんでです」と蚊の鳴くようなか細い声、そして神妙な面持ちで話す。もう四番目の川村が喋っている頃には、青年はさしてモニターを見る必要性を感じなくなっていた。ただこれまで語られた言葉を反芻して、記憶に留めようとしていた。最後に左端の、頭の高さは西川や川村と変わらない、高身長に思われる女性、村木が「中西さんはね、嘘をついているよ」と述べた。この時には青年はもはや、モニターを見ておらず、それぞれの言葉が、真、あるいは偽の場合に示唆するところを考えていた。映像が切り変わった。青い画面に白字で3:00と書かれていた。タイマーだ。それを見た青年は、口角を上げ、かすかに微笑んだ。 

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