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RAIN④〜薄暗い場所、暗い場所〜

 ドアを開けると、正面にはひたすら廊下が続いていた。青白い照明の下で、敷かれているペルシャ絨毯は不気味で、それだけで恐怖を煽るには十分であるように思えた。窓に駆け寄ると、針葉樹の林が窓を覆うように生い茂っており、そのため月も星も見えない。木々の隙間から遠方に海が見える。ここは階上だ。少なくとも、一階ではない。青年は、部屋に閉じ込められていた時以上の悪寒に身震いした。窓を開けようにも、立て付けが悪く、ガタガタと乾いた音が鳴るだけ。結局は、行動範囲が少しばかり広がっただけだ。状況は変わらない。彼はひとまず、進むことを決めた。廊下を渡っていくと、等間隔にドアがあるが、全て閉まっている。もはや一本道だ。完全に何者かに誘導されている。行き先が定められている逃亡は、逃亡なり得ない。逃亡もどきだ。ドアが開いたところで、自分の命は、まだ他の誰かの手の中にある。変わりばえしない景色がしばらく続く。右手に窓が続き、左手にはやり等間隔に扉、この屋敷は広い。そう思ったところで、ちょうど突き当たりに差しかかった。左に道がある。青年はくるりと回れ左をし、おそるおそる正面を覗いてみる。同じような廊下が続いていた。青白い照明、高級絨毯、右手には立て付けの悪い窓、左手には等間隔に部屋がある。しかし、先ほどと全く異なるのは一点ある。廊下の中途にある、部屋の扉が開けられているのだ。あそこに入れという事だろうか、しかし、階下に向かうのであれば、先に進みたい。まさか部屋の中から階下には行けるまい。青年は少しばかり、冷静になって考えていた。一度窓辺に寄り、外を確認してみる。こちらも変わりばえしない。風に揺れる木々は、廊下に沿って所狭しと立っている。相変わらず、星も月も見えない。遠方には海がある。しかし、先程にはない光景がそこにあった。海に一隻の船が浮かんでいるのだ。だが、樹々に時折隠れて見えなくなるし、そもそも遠くにあるので人が乗っているかどうか、青年の肉眼では判別がつかなかった。とりあえず進もう、と改めて冷静になる。ようやくドアの前に着き、覗いてみると、中は完全に真っ暗で、廊下の照明も届かず、見えない。入ろうかとも考えた。だが、中には誰かいるかもしれない。あるいは外から鍵をかけられるかもしれない。青年は苦渋の決断の末、廊下を進むことにした。丸腰で暗闇に飛び込むのは得策ではない。そう決意した矢先、誰か青年の肩を叩いた。ひんやりと冷たい汗が脇の下を通っていくのを感じた。終わった。死を覚悟して肩越しに振り返った。そこにいたのは、鋭い目つきをした、少女だった。「中に入ろう」一言、そう呟いた。

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