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カルト宗教が牙をむく時・6~教祖が仕掛けた時限爆弾

【マインドコントロールという時限爆弾】
新宿の公園で会ってから1年と少しが過ぎた2019年12月。突然大沢は切羽詰まった様子でメールを送ってきました。
<大沢ひろみのメール>
『「集団ストーカー」という言葉を調べてみて。おじさん達は相変わらず。でも、最近は柄の悪い○翼です。今日も家を出たら車の中から柄の悪いおじさんが私をずっと睨んでいる。車を降りたら店の内までついてくる』
※(メールの文章は趣旨が変わらないよう配慮の上、個人の特定につながる部分を削除再編しています)

私は初めてこの時〝集団ストーカー〟という言葉に触れました。これまでの公安警察の監視が辛いという"公安ネタ"の愚痴とは明らかに違いました。
なんだろう集団ストーカーって。そんな事件があったかしら。インターネットで検索すると、すぐにその正体はわかりました。
大沢が訴える"集団ストーカー"の被害は、元オウム出家信者とマスコミというちょっと特殊な関係である私との間にだけ通用するストーリーなのでしょう。友人や職場でそんな話をしたところで変人扱いされることは無意識ながらにはっきり認識をしていると思います。
集団ストーカーは大沢ひろみが脱会した直後の手紙に書いていた“不安と恐怖”が作り出している幻影に違いない。これがマインドコントロールなのだと思いました。
記憶の奥深くにマインドコントロールという時限爆弾を仕掛けたのはオウム真理教の教祖・松本智津夫。誰にも気づかれないままカウントダウンは始まっていた。
一方でオウムの中で体験した非日常的な刺激の記憶を呼び覚ますことは、日常的な仕事や人間関係のストレスから逃避できる"遊戯"でもあるように思えるのです。他の人たちとは違う経験をしてきた自分は“特別な存在”であるという思いに浸ることで自尊心を保っているようにも見えるのです。
大沢が家族や日常生活で見せる顔と、いつもは心の中で息をひそめているもう一人の顔は何をきっかけに現れるのでしょうか。いずれにしても、今の大沢ひろみの状態は単なる虚言ではなくて、精神疾患または統合失調症なども考えられるのではないでしょうか。

私は慎重に言葉を選んで返信しました。

<返信>
『立証可能な事実と、ネットの根拠ない噂をごちゃ混ぜにしていないだろうか。あなたの仮説の中に事実もあるだろう。すべてが間違いでもない、でも思い違いもあるだろう。ネットの根拠ないストーリーを信じるな』
すると…大沢の答えは

<大沢ひろみのメール>
『ありがとう。でも、最近は悪質過ぎる。電気でピリッとする機械で一瞬でピリッと痛み気分が一気に悪くなる。私の周りにずっとくっついてた20歳くらいの女の子。おかしいと思って後ろから回ってこっそり見てたら、シェーバーみたいな機械を一生懸命、向きを直してポケットに入れ直してた。恐ろしいと思う。こんなこと、普通の人に言えないよね。これをやらせてるのは誰?この日本は大丈夫か?と思うのはそういう事とか色々だよ。』
※(メールの文章は趣旨が変わらないよう配慮の上、個人の特定につながる部分を削除再編しています)

【少女A15歳との出会い】
私にできるのは心療内科や精神科で診察を受けさせることしかないと思いました。しかし彼女が私の提案を納得して診察を受け入れることはまずないでしょう。それには家族の理解と支えが不可欠です。
大沢を現実の世界に引き戻すにはどうしたらいいのか。私は15歳でオウムに入信した少女Aのことを思い出しました。

1995年11月。私がオウム真理教青山総本部の前で取材をしていると白色で薄いペラペラした生地の教団服を着た少女が現れました。話を聞くと入信してまだ1週間だというのです。
少女Aは中学3年生15歳。オウム最高幹部の村井秀夫氏が刺殺された場所で記念撮影をしたかったのだと言って無邪気に笑いました。
オウム科学技術省トップだった村井氏は連日オウムの記者会見で発言をするなど表舞台で顔を知られている存在でした。坂本弁護士一家殺害事件、地下鉄サリン事件などの実行犯らは法廷で、村井氏が現場を指揮したと証言していますが、村井氏本人は法廷に立つことがないまま1995年4月23日オウム青山総本部の前で指定暴力団構成員に刺され死亡しました。
15歳の少女Aはなぜ、オウムの残虐な事件が次々明らかになる中でこの殺人事件の現場に引き寄せられてきたのでしょうか。
「ここに来てはいけないよ。関わってはいけない。早く帰りなさい」
私は何度も諭したのですが、連日テレビで眺めていたであろうオウムの青山総本部前を見て興奮しているのか私の忠告は耳に入らないようでした。

1997年11月。青山で少女Aに出会ってからちょうど2年後。
私は新宿・大久保のオウム道場で17歳になった少女Aに再会しました。
髪は丸刈り。肌や唇はがさがさに荒れて白色の教団服を身にまとい、目はぼんやりと宙を漂い焦点が定まることはありません。
「久しぶりだね。誰だかわかるかな」
私の声が聞こえているのかどうかさえもわかりません。
オウム道場のリーダーによりますと、少女Aは中学卒業と同時にオウムに出家。高校には進学せず、アルバイトをしながら道場に住み込んでいるというのです。少女Aは「統合失調症」と診断されたそうですが、家族は出家を止めることはしなかったそうです。
道場のリーダーは困り顔でこう話しました。
「家族にとって統合失調症を患う少女Aの存在は重荷だったのかもしれない。公安も見て見ぬふりだし。教団だって困っているがどうしようもない」
統合失調症を抱えた17歳の少女A。たった一人の力で社会に出て生きていくことは難しいでしょう。
社会的な弱者、搾取される者たちが最後に行きつく場所がこのカルト教団であってはならない。
(つづく)


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