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カルト宗教が牙をむく時・2~オウム女性幹部のカネ集め

【カネの臭いを嗅ぎつけて】
私が大沢ひろみ(仮名)に興味を持ったのは1995年2月に起きた公証役場事務長の逮捕監禁致死事件の〝非常に近い距離にいた〟という情報を得たからです。
この事件で大沢ひろみは逮捕されてはいません。監禁に関わる直接的な行為はしていなかったようです。しかし在家信者の担当として、多額の資産をめぐる幹部たちの駆け引きを間近で見ていた…人を苦しみから救うはずの宗教がなぜ人々の財産を奪い、命を奪い、無差別大量殺人事件を引き起こしたのか。私は大沢の口からぽつりぽつりと語られる教団内での出来事に何かヒントがあるのではないかと、ちょっとした会話の気になることも書き留めることにしました。

オウム真理教の教祖・松本智津夫はこの世はまもなく滅亡するという終末思想を唱えて武装を始めて、1994年独立国家のように防衛省、治療省、科学技術省などの省庁制を組織しました。その中で在家信者から資金を集めるという重要な役割を務めていたのが東信徒庁です。東日本地域の信者を管理監督していて女性幹部が長官を務めていました。教祖・松本智津夫から与えられたホーリーネームという宗教名はサクラー。宗教地位は最高クラスに入る正悟師です。
大沢ひろみにサクラー正悟師と直接話したことはありますか?知っていますか?と聞くと知っていますよといろいろ話してくれました。

大沢「私が世田谷道場で在家信者の担当をしていた時にサクラー正悟師に会いたくて道場に来る人も多かったから。忙しい方ですけど道場に来るっていう日はすごくたくさん人が集まりましたね。でも凄腕ですからねサクラー正悟師は。おっかないですよ」
私「それは金集めに関して強引だということ?それで資産家の人に狙いをつけた…」
大沢「いやいや修行に厳しいって意味ですってまったくもう。素晴らしい方です。それでもあの人(在家信者)がねえ…寂しくて構って欲しいからなんでしょうけどお布施するって言ったりやっぱりやめたって言ったり、そうすれば話を聞いてもらえると思ったんでしょうけどね」
けどね…のあとに続く言葉はいつもの決まり文句でした。オウムは事件とは関係がない。地下鉄サリン事件もすべては宗教弾圧のために仕組まれた罠だと言って、大沢ひろみはため息をつきました。まだ地下鉄サリン事件から半年が過ぎたばかりの頃は、頑なにオウムが事件を起こしたとは信じようとはしませんでした。

私は公証役場事務長の事件取材を続けるうちに東信徒庁の幹部に話を聞く機会がめぐってきました。この幹部は実行犯ではなく逮捕はされていませんが、「東信徒庁は関係がないとは言えない」とオウムが事件を起こしたことを否定せず、当時の様子を丁寧に説明してくれました。私はフロッピーディスクに保存していた当時の取材メモを掘り起こし、最新データに更新しながら読み直しました。

<95年11月 取材メモ>
東信徒庁ナンバー2に事件の事を聞く。
「おもしろいようにカネが集まりましたよ。一年間に120人勧誘したし」
悪びれる様子もなくむしろ成果を誇るように言った。120人勧誘した分のお金って一体いくらなのか?
「ゲームみたいに集まりましたよお金、ゲームはやらないけど。特にどんなにゴネてお金を出し渋って絶対に嫌だっていってる人も、サクラー正悟師なら一発でコロッとひっくり返して出させてましたね」
私がよくそんなことが言えますねと言った途端その人は憤怒の形相に一変した。 「あの人もグズグズもったいぶって!手間をかけさせるからあんな目にあうんですよ。まったくさっさと出すもの出せばいいのに!ほんとイライラする。あの人が悪いんですよ。おかげで私もこんな目に…」
カネの臭いを嗅ぎつけて牙をむくオウム。私はその瞬間を目の当たりにした。資産家の在家信者は躍起になって財産を奪おうとするオウムの幹部たちに恐怖を感じて姿を隠した。そして実行犯らは親族から居場所を聞き出そうとして事件を起こした…。

今でもこのメモを読み返すと、カネで豹変するオウムの正体に背筋が凍る思いがします。やはり東信徒庁長官だった女性幹部サクラー正悟師の金集めは群を抜いていたようです。私が話を聞いていた東信徒庁ナンバー2も破天荒な手腕で恐れられていましたから、私も一瞬ではありますが身の危険を感じました。カルト宗教の本性はカネのためなら何でもやる。邪魔をする者はどんな手段を使っても排除する。カルト宗教の目的はまとまった資金の調達なのです。
(つづく)

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