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大仏開眼への道8~疑惑の白い影

4月末の深夜、激しい頭痛と体が裏返しになるかと思うほどの嘔吐で視神経が痙攣。
救急救命センターに搬送されました。
今この文章を書いている時点で結論はだいたいお判りだと思いますが。
まず素人判断で、アレルギーか食中毒かと思ったのですが発疹や呼吸困難もなく、これらは血液検査ですぐに否定されました。
次にMRI検査の結果が出て、医師の説明がありました。
「脳の右側のこの部分、白くなっているのがわかりますか」
「ええっあー白い、はっきり白い部分わかりますね私でも。ということは」
「この白い影は脳梗塞の疑いがあるという判断をしまして、もう少し色々検査しますが、脳神経内科に緊急入院してもらいます」
まったく予想もしなかった脳梗塞の疑いに呆然としました。
知っているようで実は知らない脳梗塞。
私は「脳梗塞の定義とは何か、簡単に教えてください」と聞いてみました。
医師の説明は丁寧でじつに簡潔でした。
「脳梗塞とは、血管が詰まって脳細胞が壊死すること。
詰まりの原因は心臓の不整脈や心房細動により出来た血栓や、頸動脈をふさぐように堆積したゴミの流出です。
運動機能のまひや言語障害が起きることが多い病です」
医師は私が正常に言葉を話せて表情筋のまひなどがないか、意思の疎通が出来るかなどを確かめながら、話してくれました。
子宮体がんの次に眼の病気と手術、そしてまたもや大きな試練が立ち塞がりました。
「右の白い影が脳梗塞ならば左の神経に障害が出るので、左手や左の顔面がしびれるとかそういった症状がでます」
視神経のけいれんは治まっています。手足の運動神経にも障害は出ていないけれど、今度こそノックダウンかな。
いやいや、まだ諦めるにはまだ早すぎる。何度だって立ち上がってみせる。

さて入院の前に新型コロナウイルスの感染対策でPCR検査と抗原検査を受けなければなりません。
看護師にコロナのワクチンはもう打ちましたかと聞くと
「打った。救急外来は水際対策の最前線だから救急隊の隊員も優先なの」
そう、ここは戦場です。
すでに二回目のワクチンを接種した人は
「一回目より二回目の方が痛くて腕を上げると激痛でもう、点滴を吊るすの出来ないくらい痛い。熱も39度を超えたしね」
まさに体を張って命を守る仕事をしているのです。
90分後にコロナ陰性の判定が出て、入院は許可されました。

入院生活は脳のMRIやCTスキャン、頸動脈や心臓のエコー、レントゲン、他にも血液検査などと超過密スケジュールです。
少しでも空き時間があればリハビリ室に呼ばれて反射神経のテストやストレッチ、自転車こぎとベッドで寝ている暇などありません。
消灯は夜9時。朝は4時半に目覚めてしまうので、廊下で富士山を眺めながら最近始めた太極拳をする毎日です。
規則正しい入院生活で嘔吐によるダメージもすっかり回復しました。

入院8日目、検査結果が出揃ったと脳神経内科の医師に呼ばれました。
「診断結果はですね、恐らくですが脳梗塞のような状態だった、というしかなくて」
えっ、~のようなって言うことは脳梗塞じゃないの。医師はパソコン画面にMRIの画像を2枚並べました。
「これが初日に撮った画像で脳に白い部分があります。
その4日後、こっちは白い部分が薄くなって消え始めているんです」
確かに同じ個所の白い影は薄れています。
さらに医師は
「飲酒運転の取り締まりみたいに片足で立ったりする運動機能テストしましたよね。まひや言語障害もまったくないし、血栓がどこにも見当たらない。
24時間の心電図測定も問題なくて不整脈も心房細動もありません」
では私の体に何が起きていたのでしょう?
医師は首をかしげながら
「過度なストレスなどで脳血管が一時的にキュッと細くなって脳梗塞に似た状態に見える事があるんです。
それは可逆性って言いますが、痕跡が消えて元の状態に戻るんですよ」

えっ?脳梗塞じゃないの?
私の少ない脳細胞は死んでいなかったの?

「脳梗塞って細胞が死んじゃうんですよね、死んだ細胞が生き返る、治るの、かな」
「いいえ一度壊死した細胞は復活しません。
脳梗塞ではない…と完全に否定には出来ないけど何も障害も無いし。
数週間後に再検査をして、白い影が消えていれば脳梗塞の疑いは完全に否定できます」
消えて行く白い影。消えていく疑惑。
私の脳細胞は死んでいなかった、らしい。
このような症例は少なく、医師も過去1回した見た事がないそうです。
今は症状も後遺症も何もないので治療も薬の処方もなし。過度なストレスを避け適度な運動をしてくださいねと言われて翌日に退院しました。

私は海の底でゴロゴロ転がっているナマコと一緒です。ナマコは強敵に襲われるとストレスで内蔵吐き出しちゃうけれど、何度も復活再起するタフな奴なのです。
でも私のストレスって…いや今は何も考えないことにしましょう、あの件は。
ユルユル生活でゆっくり再起を目指すつもりです。

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