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カルト宗教が牙をむく時・8~敵の正体を暴きだす

【集団ストーカーとの闘い】

1995年3月22日、地下鉄サリン事件の2日後に山梨県上九一色村や富士宮などへの教団施設に強制捜査が入った時の衝撃は今も忘れられません。ガスマスクや防護服で身を固めた捜査員たちに向かって、白い修行服にヘッドギアをつけた多くの信者たちが「宗教弾圧はやめろ」などと叫び続けていました。教祖・松本智津夫は殺人を肯定する教義を唱え、毒ガス攻撃を受けているなど荒唐無稽なストーリーで信者たちの心を恐怖で縛り付けていたのです。これは悪魔の仕業とか、戒律を破ると地獄に落ちるなどと恐怖を煽るカルト宗教でよく使われる方法です。
当時オウム真理教が発行していた冊子「ヴァジラヤーナ・サッチャ」には、アメリカ軍から猛毒のサリン攻撃を受けているとか、米諜報機関CIAがあちこちに潜入して情報操作を行っているなどという特集が掲載され、この世の終わりハルマゲドンが近いと不安を煽り立てていました。
教団施設を取材する中で会話をするようになった信者のうちの数人は親切心からなのでしょうが、フリーメーソンが海底トンネルの爆破計画を進めているとか、地震兵器やマイクロ波攻撃が首都東京を狙っている、それはいかに恐ろしいものか…と私に真剣に説明してくれました。
そして25年の時が過ぎて時代は平成から令和になり、オウムの誇大妄想などすっかり忘れ去っていたところに、悪夢がよみがえるようなSOSのメールが届いたのです。

50歳を過ぎた元信者の大沢ひろみは、繰り返し「集団ストーカーという言葉を調べてみて」と不安を訴えてきました。これはオウム真理教が“毒ガス攻撃”や“フリーメーソンの仕業”と恐怖を煽っていたのとまったく同じ構造ではありませんか。彼女とのメールのやりとりは、7日間で32通にも及びました。その一部を抜粋します。

【32通の往復書簡】
<大沢ひろみのメール 2019年12月10日17:21> 
『怒らないで読んでね。不愉快にも思わないで欲しい。最近は物騒な人が毎日毎日ついてくる。気にしても仕方ないけど、数か月前かガラの悪い人達が急に増えた。サングラスや服装は同じ。だから同じ人だと分かる。車を変えて、ナンバーを毎日変えている。
近所の誰もいないはずの家から夜中に工事の音が聞こえる。ドライバーや電動ノコギリ。昼間は静か。夜中ドタバタ足音がする。不思議なのは数日ごとに違う家で工事の音が始まる。すでに5軒。同じ大家だとしたら相当な金が動いていますよね?ならば大家が工事せずに業者に頼むはず。
この数か月、物騒な世の中だと、何だかおかしいぞと思ってしまう』
※(メールの文章は趣旨が変わらないよう配慮の上、個人の特定につながる部分を削除再編しています)

<返信 12月10日(火) 17:50>  
『怒ってない。こちらも真面目に返事をしている。仕事中なのであとで』
<返信 12月11日(水) 21:03>
『まず近隣住民がいなくなった件。人口減少と少子高齢化対策で「中心市街地活性化基本計画」が進められている。私は現地を目視していないが市の計画書(約200ページ一応全部読んだよ)が公表されている。交通量や人の移動流量など様々な調査をして区画整理を行い、大型商業施設の建設や道路整備。人を呼び込む観光事業だけでなく住環境の整備で公営住宅も見直し。過疎化を防ぎ「空き巣対策」も進んでいる。これを「大規模な陰謀である」とするならば、それはさすがに違うと思う。
さて本題。公安警察は97年頃から予算も人員も大規模に縮小。逃亡犯も全員逮捕され一連の刑事裁判は終結。2018年7月には13人の死刑が執行された。2019年のいま、定期的に公安調査庁が訪問する以外、元信者への監視や尾行は行われていない。ではあなたの周囲で何が起きているのか。
「集団ストーカー」をネットで検索した。被害者側は国家権力や宗教団体による監視や尾行。電磁波攻撃などの被害を訴えている。しかし被害者はいずれも立証できていない。それも大きな権力で隠蔽されているからだと主張。一方、否定的な見解では被害妄想や思い込み、さらには鬱などからくる疾患、統合失調症という説も多い。あなたの相談はこれも承知の上だと思う。今まで公安による被害など、家族や友人にも相談できずに悩んできたのは理解している。自分の現状を話しても理解されないとわかっていて、2つの顔を使い分けているはず。たとえば、心療内科で診察を受けても、薬を投与されてさらなる被害を受けると思っているだろう。いま私が言えるのは、家族に相談して心療内科でカウンセリングを受けること。
自分が見ている「現実」が周囲の人にはどう見えるのか。そこから解きほぐして問題を整理することから始めてほしい。それで不安が解消されるかもしれない。
次に診察が必要になるかもしれない。鬱などの診断が下されたとしても治療をうけるかどうかは自分で選択できる。私は今まであなたに真剣に向き合ってきたし、これからもその覚悟です。
ウソやその場しのぎで調子を合わせるつもりもない。いま本当に苦しんでいるのだと思う。この苦しみに勇気を持って向き合ってほしい。また何かあったら相談してください。補足としてルドラチャクリンだっけ?いまさら薬物の影響があるとも思えないがカウンセリングは急ぐべきです。返事遅れてごめんね。』

※[ルドラチャクリン]とはオウム真理教が宗教儀式=イニシエーションと称して行っていた。麻薬成分LSDが入った液体を飲んで“神秘体験”を疑似的に体験することで、より早く霊的ステージを上げるとしていた。同じく薬物を使用した儀式にキリストのイニシエーションなどもあるが、95年当時の取材ノートを読み返すと大沢はキリストのイニシエーションを受けたと話していた。
<1995年当時の取材ノート>
「大沢が、それは違法薬物ですけどね、多幸感っていうんですかね、すばらしい体験ができるんですよ。でも紙おむつを履くんです失禁するから とばつが悪そうに笑った」

実は私の本音は、大沢の症状が25年前に1度飲んだLSDの影響だとは思っていません。ただ本人が病院で診察を受けることを納得するための口実として「LDSのせいかもしれい」と思えるならばと書いたのです。しかし敵はLSDではなく、ネット空間をアジトに心の中を侵略してくる集団ストーカーです。その正体を突き止めて大沢ひろみ自身に見せてやらなければ解決はできないと思うのです。

<大沢ひろみのメール 12月12日(木) 23:20>
『真剣に受け止めてもらえたこと本当に感謝です。泣けるな。本当にありがとう。しっかり何回も読み直しました。まずはしっかり読んで冷静になってみようと。それが出来たら、自分の身に起きてると感じている事を頭から外せるのか? 私も最初は信じられなかった。だって、あり得ないでしょ?近所の人達が一軒、また一軒といなくなるなんて。
だから、答えを探した。数か月も。結果的に区画整理や単なる物件売却だとしてもいい。
でも疑問はそこじゃない。私が知りたいのは、なぜ我が家だけに何の説明もないのか?です。 そういう事を考え続けると不思議を通り越して、また公安の誘導じゃないか?と考え出した。
気象だって人の力で動かせる時代。人工地震や人工台風は世界で特許を取っている。自然の領域を人間の都合で動かせる時代です。これは妄想ではないの。現実に起きてるから苦しんでるの。陰謀論ではなく、また私だけの事じゃないの。
ただ、私の場合はこの数か月、周りの人がガラが悪い人ばかりに変わったから怖い。少し前は、色んな人がついてきて堂々と写メ撮ったり、私に聞こえるように文句言ったり。
理解されない場合は病院に行けと言われる可能性もあるなと思ったし。なぜなら私も、集団ストーカー数名のブログやツイッターを読んだ時に同じように変だと思った。ただ、今回相談しようと思ったのは今までと違ってガラの悪い人ばかりになってるから。
あの人達は結果的に自分達を守る為に、国民に何をアピールするかで動いてると思うので。長々と色々と書いてしまいました。申し訳ないです。』

メールに書かれた人工地震、陰謀説、そして集団ストーカーのキーワード。これではオウム真理教に出家していた頃に逆戻りです。
当時と少しだけ違うのは、教祖・松本智津夫の説法を信じるのではなく、大沢ひろみが根拠のない恐怖を自分の意志で探し続けていることです。

<返信 12月13日(金) 0:25>
『長い返事をありがとう。私に対する不信感を持つだろうが正直に書くよ。まず市の計画書はネットでも閲覧可能なので地図を確認して。〇〇交差点から高速を越えると区画整理の範囲ではないと思う。そこは自分で出来るでしょう。そして自治会や不動産業者に聞いてみて下さい。目の前で起きている現象を1つずつ確認して、メモしてみて下さい。いつどこで誰が何をどうしたか。憶測は排除して客観的に観察してください。
文章にすると冷静に物事が整理されてきます。先程のメールは主語がごちゃ混ぜだし、小学生より説明が下手。そして人工台風だのって本当に情報に惑わされ過ぎ。何を信じたらいいのかわからない状態まで追い込まれているのだろうが、だからこそ、カウンセリングを受けて頭を整理しなさいと言っているのです。誰にも言えず自分の頭の中だけで考えても前には進まない。他者との相違があるから自分の存在が確認出来るのです。自分が事実だと思うことが他人にはどう見えているのか怖がらずに確かめるには、一番よいと思う。私の意見を受け入れることは容易ではないと思うがこれより他に解決案はありません』

<大沢ひろみのメール12月13日(金) 19:38>
『アドバイスの一言一言がまとも過ぎて。読んだらやっと自分が見えた。
とりあえず、その解決策をやってみよう。最初から仕切り直し。そうじゃないと、私はいつまでも不安MAXな落ち着かない状況から抜けられない。
毎日追い詰められていっぱいいっぱいでした。とにかく、何とかしなきゃ』

<返信 12月13日(金) 20:26>
『いまの時代、情報が多すぎて整理するのが大変です。ウソの証言やフェイクニュースに翻弄される。どこの会社でも働きすぎや、人間関係、家族の介護問題を抱えて鬱や、拒食症や潔癖症になる人も増えています。会社の産業医が専門で診てくれるところもあります。繰り返しますが、不安を抱えて悩む人のためにカウンセリングはあるので、決して精神疾患のレッテルを貼るための機関ではありません。欧米では夫婦間の離婚協議やドメスティックバイオレンスで利用するケースも多い。脅えて泣いていても何も解決しないよ。前に進め。またもや走っている方向が逆だ。』

<大沢ひろみのメール 12月13日(金) 20:56> 
『またもや、走ってる方向が逆?久しぶりに笑えた(笑)何度目だ?一生懸命、必死でやってるつもりが(ーー;)
軌道修正だね。前に進む!今度こそ! いつもありがとう。感謝感謝です(^^)』

やれやれ…私は仕事の合間を縫って大沢と向き合い続け、神経も体力もすり減ってガタガタでした。ようやく冷静に物事を観察できるようになったか、と思ったのも束の間。すぐに目を疑うようなメールが送られてきました。そこにはツイッターに投稿されている地震に関する情報と、出展不明の地震波形のグラフなどが添付されていたのです。ここまで薄氷を踏む思いで慎重にやり取りを続けてきたつもりでしたが、思い切って怒りの感情もぶつけてみようと思いました。私にとっては大きな賭けです。

<大沢ひろみのメール 12月13日(金) 22:21>
『いつもありがとう。冷静に周りを観察出来るように頑張る。
いま気になることがもう一つ!地震。関東だけじゃなくて台湾の方。心配だから情報を張り付けるね。大きなお世話って言われるかもだけど心配だよ。読んでね』

<返信 12月13日(金) 22:28>
『この手のもっともらしい奴らが一番悪質だって、まだわかんないか。正確な情報ソースの見極めが出来ないのは病気か?私にこれ以上聞かれても答えようがない。』

<大沢ひろみのメール 12月13日(金) 22:29>
『本当?ありがとう!安心した!また、逆だったね(ーー;) 3週間くらい前から見始めたツィッターが不安MAXの原因だ(ーー;)』

<返信 12月13日(金) 22:47>
『その専門家はどういう経歴と実績があるのか、データはいつどこでどんな機関が調べたのか、信頼性はあるのか。わざわざ不安になる材料を自分で探して楽しいか。日本は地震国だからいつか南海トラフは起こるだろうし、震度2以下の細かい微動なんて報道しないだけで毎日観測してる。日本の気象庁地震課と東大地震研究所は世界一優秀だよ。心配なのは公安か、地震か、何なのか?だから根拠のない強迫観念から自分を解放するためカウンセリングが必要だと言っているのです。』

<大沢ひろみのメール 12月14日 0:06>
『 確かにσ(^_^;)根拠のない強迫観念。ごもっともです。色んな情報を読み過ぎた。安心するための防災情報のはずが、逆に不安を煽られ怖くなる。ありがとう。ため息もんだわー。』

そして年が明けた2020年1月3日。
大沢ひろみから携帯のショートメッセージに短い新年の挨拶が届きました。
続いて2通目に「この前のメールがフォルダーから消えたのでSMSにしました」とだけ書いてありました。
わずか2週間前に何十通もやりとりしていたアドレスのフォルダーが消えてしまったというのです。
私はこれまで往復書簡に使っていたアドレスにメールを送りました。
『意図的に消したのか?水に流して〝無かったこと〟にはできませんよ』
すると大沢は。
『よかった。どのメールアドレスで送ったかわからなくなって困っていた。見つかってよかった…真剣に読み返して考えようと思っていた』
仕事用に登録したけれど使っていない休眠アドレスだったなどと、言い訳の長文を送ってきました。
私が「もう一度読み返して問題解決に真剣に向き合いなさい」と返信したところ、「ありがとうございます」の一言だけが送られてきました。 この返事を最後にぴたりと大沢ひろみのメールは止まりました。
頭の中に住み着いた「集団ストーカーとの闘い」は終わったのか確認することはできませんでした。

大沢ひろみはこれから先もオウム真理教の教祖、松本智津夫によって埋め込まれた“不安と恐怖”の時限爆弾に悩まされ続けるのか、私はどう対処すれば正解だったのか、今も答えはみつかりません。

【カルト宗教の被害者にならないために】
カルト宗教の信者は親身になって悩みを聞いてくれます。何時間も答えが見つからないあなたの悩みに付き合ってくれるのは、嗅覚を働かせてカネのにおいを探っているからです。そして巨額のカネがあることを嗅ぎつけた途端に豹変し、牙をむくのです。これ以上カルト教団や投資詐欺の被害者を出さないためには、オウム真理教が行ってきた具体的な手法、カルトに引き込まれやすい心理特性などを検証し、カルト被害を防止する学習の場が必要だと私は考えています。
(つづく)

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