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カルト宗教が牙をむく時・10~カネと暴力 裏の顔を告発する

統一教会とエホバの証人

土地や家屋を売り払い保険を解約し、家族が崩壊してもなお献金をするように強要。そして壺や教本など高額な教団の商品を次々購入させる“霊感商法”で莫大なカネを集めてきた統一教会。これまでも被害を訴え続けてきた人々の声は、2022年6月に安倍晋三元首相が殺害された事件によって多くの人に知られることになりました。
2023年2月末、「エホバの証人」についても大きな動きがありました。病気やけがの治療で必要な輸血を拒否させる、子どもに鞭を打つなどの暴力をふるうなど児童虐待の疑いがあるとして、弁護士らが厚生労働省に通報し対策弁護団が設立されました。
被害者らによるカルト教団への賠償請求は、組織運営にとって大きな損失になります。さらに教義に基づいて行われているとされる暴力や経済DVといった被害の実態が次々と告発されることで外部からの批判が高まり監視の目も厳しくなります。
一方でカルト教団は被害者の告発にどんな対策を講じてくるのでしょうか。会見を開いて改善策を発表したところで状況は不利になるばかり。悪魔や秘密結社に迫害されているなどの陰謀論で信者を煽りたて、突発的な行動を起こす危険も考えられると思います。

「カリスマと陰謀説」極右思想との共通点

カルトという言葉にはいろいろな定義があると思いますが、ここではあまりこだわらずに思いつくままを書きます。カルト宗教は極右思想のカルト集団と非常に共通点が多いと思います。リーダーが絶対的な支配者で特別なカリスマである。秘密結社による陰謀説を信じている。自分たちは正義のために戦っている。この聖戦に勝利するためには嘘や暴力を使うことも正当化する。
欧米ではたびたび極右集団の行動が問題視されています。つい最近では2022年12月ドイツで武力による国家転覆を企てたとして25人が逮捕されました。首謀者は貴族の末裔ハインリヒ13世を名乗る男です。
彼らはドイツが闇の政府に支配されているという陰謀論を信じていて、国家転覆を計画していたと報じられています。兵士や軍の特殊部隊を狙って勧誘し武装訓練も行っていたと。オウム真理教が自衛隊員や警察官、科学者などに狙いを絞ってリクルートしていたのと非常によく似ています。
2021年1月アメリカで国会議事堂を襲撃したQアノンも闇の政府、秘密結社による陰謀説を信じる極右思想の集団です。国家のリーダーが交代する節目という社会情勢が不安定な時期に、爆発的な威力を以て暴力破壊行為を引き起こしました。
2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻は1年が経過した今も続いています。難民、安全保障、エネルギー、食糧、地震や自然災害。そして新型コロナウイルスのまん延。世界情勢が不安定な今の状況は、フェイクニュースなど偽の情報に惑わされる可能性もあります。極右思想や新興宗教に限らず、秘密結社の陰謀説などカルト的思想を触れ回る人の行動にはより注意が必要だと思います。

オウムが滞納する賠償金と資産隠し疑惑

オウム真理教から名前を変更したアレフは、被害者への10億円を超える賠償金の支払いが滞ったままです。
団体規制法の観察処分によって三か月ごとに資産状況や構成員などを国に報告することが義務づけられています。しかしこの3年で報告する資産額を急激に減らしてきました。公安調査庁はこれを賠償金の支払いを逃れるための資産隠しだとみて、2023年2月に再発防止処分を公安審査委員会に提出しました。しかしアレフ側はこの手続きに必要な意見聴取を欠席したのです。 このまま意見聴取に応じなければ施設の使用などが最大6か月禁止されることになるのです。アレフはなぜ強硬に報告を拒むのか、やはり資産隠しが目的なのか。一連のオウム事件の被害者らに対して反省と謝罪の気持ちはないのか。

オウムの教祖・松本智津夫元死刑囚の愛弟子だった上祐氏はアレフから分派して2007年にひかりの輪という団体を正式に立ち上げています。分裂の理由は経済的な問題、被害者への賠償金支払いに対する考え方が大きな要因であったようです。
当時、上祐氏のひかりの輪について行こうと考えていたという人は、上祐氏のある言葉を聞いて急激に「冷めた」と語りました。
「世田谷で上祐氏寄りのメンバーたちで集まった時に彼は『どうするんだよ、我々は年金払っていないから年金ももらえないんだぞ。社会的な保証がない。ちゃんと老後どうするか、生活設計をたてなければ』って言ったんですよ。救済だのなんだの、格好いい事言ったあとに年金?うーん、違うと思うなって」
その人は単独で修行を続けるつもりだと言ってアレフや上祐氏などの集団から離れていきました。
アレフや上祐氏らの組織内でも「2030年問題」労働力、人口減少、高齢者の介護といった日本の超高齢化社会と同じ現象が起きているようです。1995年地下鉄サリン事件当時30歳だった人は2025年60歳、2030年65歳です。彼らの多くは年金未払いだと思われますし、社会に出て働いた経験もほとんど無い人ばかりです。還暦を迎えていまさら働きに出て収入を得るのは難しいでしょう。 だから上祐氏の「俺たち年金もらえない」発言は組織の存続に関わる重要課題なのでしょう。オウムの人口ピラミッドも逆三角に膨らんでいるはず。出家信者たちはまず被害者に賠償金を支払った上で、組織を維持するには新たな在家信者の獲得が必要になるのだと思います。健康でお金を稼いできてくれる若い在家信者が必要なのです。

カルトは流行のスタイルで近づいてくる

私はオウム真理教の元出家信者に、地下鉄サリン事件以降どうやってオウムに勧誘していたのかを聞いた事があります。出家信者は一般社会の人とは隔絶した生活を送り修行に励んでいるものだと思い込んでいましたが、新たな信者を勧誘することも救済という大切な使命らしく、イマドキの流行情報をアップデートしながら積極的に勧誘に励んでいるそうです。
女性元信者「出会い系アプリとかね、あるでしょ。そこでいろいろ軽いノリでまず『誰かお友達になって~』とかから始めて。少しずつやり取りして趣味や悩みを聞いて、それから会う約束を取りつけて…」
最初から神や宗教という言葉は出さないし、最終目的が松本智津夫元死刑囚を教祖とするオウムへの勧誘であることは最後まで明かさないといいます。でもそんな簡単に会うことができるのでしょうか。知らない人と。
たびたび事件のきっかけにもなる〝出会い系〟は犯罪の温床になりやすいのだから危険ではないのかと指摘すると。
女性元信者「そうですね、男性も女性も性的な目的で来る人が大半ですけど、だからこそ悩みがあるわけですよ性的な悩みは特に深~いところにね。出家信者も性欲が強く出て魔境に入ったりしますし」
性欲の悩みを聞くことは修行する上で悪いことではないらしい。
「まあメールだけならこっちが男か女かもわからないから実際に会うのは別の人が行くこともあるし。自分が行く時はもちろん気をつけますけどね。あれ?でも我々も危険ってことで〝おあいこ〟ですかね」
会話がずれているのかいないのか…
さらにヨガやパワースポットの話題は接触がしやすいらしく、これぞオウムの専門分野とばかりに話に熱が入ります。
女性元信者「体の浄化は心の浄化につながりますからね、プラーナーヤーマっていうヨガの呼吸法指導とか。ぜんそくやアレルギー体質の人はパワースポットでこの呼吸法をやると効果は数倍あがります」
SNSによる勧誘だけでなく街中で初対面の人に直接話しかけることもあるようです。
女性元信者「大型書店の精神世界コーナーで長い時間立ち止まっている人はけっこう感触いいですね」
私「精神世界のたとえばどんな本?」
女性元信者が名前を挙げた本は「ソフィーの世界」「アルジャーノンに花束を」「モモ」でした。もちろんこれらの本は全くカルト宗教との関係はありません。彼女が個人的に好きな傾向の本で話題にしやすかっただけだと思います。私はもっと死後の世界やスピリチュアル、ヒーリング的なキーワードが出てくると思っていたので小説を挙げたのは意外でした。
私「大江健三郎さん、村上春樹さんも?」
女性元信者「村上春樹さんは読もうと思って何度か挑戦したんですが無理で、どうしても受け付けなくて断念しました」
そしてノーベル文学賞を受賞した大江健三郎さんの名前は知らないと答えました。
別の男性信者は精神世界とはまったく違い、世界政治や軍事バランスに特別な関心を示しました。
男性元信者「ドイツのネオナチとか欧米は極右政党が台頭しているみたいですよね。暴動も起きたりして」
具体的にどこの政党、いつどこの暴動事件の話なのかと問うと。
男性元信者「いやなんとなく気になってるだけで。ところでイタリアの首相っていま誰でしたっけ?」
ええっ?あれほど世界政治を熱く語っていたのに。彼の頭の中にある世界情勢は地下鉄サリン事件前からアップデートされていないようですが、床屋談義的な〝極右政党〟を話題にするのは好きらしい。その後何度も極右政党の質問をしてくるので、私は「新聞を各紙読み比べて何が起きているのか、どういう視点、論点で記事にしているのか自分の頭で考えて理解しなさい」と突き放しました。なぜなら男性元信者はちょっと刺激的で自尊心を満たしてくれる明快な答えだけを求めているようにしか思えなかったからです。カルト教団も極右思想の集団“刺激的で明快な答え”を求める人が吸い寄せられてしまう傾向があると思います。

危険な教義は封印されたのか

いまオウム関連団体に残っている人たちは教祖・松本智津夫元死刑囚に対してどう思っているのでしょうか。信仰心や殺人を肯定する教義「ヴァジラヤーナ教学システム」は本当に封印したのか、答えをはぐらかす信者が多い中で事件当時から取材を続けている信者に聞くと。
私「何度も何度も強制捜査が入っているし、もうさすがに危険な教義とされるヴァジラヤーナ教学システムは処分したはずですよね」
出家信者「捨てるわけないじゃないですか」
少し得意げに笑うと、殺人を肯定する教義のヴァジラヤーナ教学システムを今も持っていると認めました。
別の元信者は強制捜査の目を逃れ教本を隠す方法があると話しました。
元信者「小さな豆本って知っていますか?尊師のファイナルスピーチとか大事な説法教本は何回も何回も縮小コピーして小さく折りたたんで隠し持っている人もいるはずです」
私「そんな超縮小コピーにしたら読めないでしょう」
元信者「また元のサイズに拡大コピーして戻していけばいいんです。まあ少しぐらい文字がつぶれていても暗記するほど読んでいますから大丈夫」
実際に豆本を見せて欲しいと頼むと、自分は持っていないから駄目だと断られましたが、説明する身振りからは実際に縮小コピーをした経験があるように見受けられました。形あるものは別として記憶に刻まれた“危険な教義”は他人が確認することはできません。本人の意思で記憶している限り消えることはないのでしょう。教祖・松本智津夫元死刑囚の言葉は新たに獲得した信者にも受け継がれているのだと思います。

カルト集団に騙されないために

新生活に向けて動き出す3月、4月は生まれ育った土地を離れて進学や就職する人も多いでしょう。期待と不安が入り交じって焦り、情報の多さに戸惑い、また孤独を感じる事もあると思います。そういう人を狙って巧みに近づいてくるのがカルト宗教やマルチ商法の勧誘です。 きっかけはパワースポット巡りやヨガサークル、浄化=デトックスなど流行のキーワードを誘い文句にするケースもよくあります。「もう大人だから自分の事は自分で決める」と勇気を出して一歩踏み出す気持ちは大切です。でもその前に「これは危険なカルト集団かもしれない」という臆病な自分の洞察力を信じましょうよ。落ち着いて、信頼できる人に話を聞いてもらう。あなたもその人の話をきちんと聞く。判断を急ぐことはありません。カルトは目的を実行するためには平気で嘘をつきます。騙されないように気をつけてください。


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