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大仏開眼への道5~歌いながら歩いて行こう

がんサバイバーが次々と出現する眼の疾患と闘う記録。基礎疾患に1型糖尿病を抱える。

眼球の中で破裂した新生血管の怪物は眼球防衛隊の手術によってきれいに取り除かれました。当初は安静にして経過をみるために一泊の入院が予定されていました。
それが翌朝の診察では…
N医師「ん~出血してますね微量ですがほんの少し」
え、きちんと処理をして部長も最終確認したのに?
「安静にしていれば落ち着くと思うけど、出血がおさまらなければもう一度目の中を洗浄ですね」
結局退院は延期。まだしばらく様子をみますので眼を閉じて静かに寝ていてくださいね、と言われて病室に戻りました。

♪三歩進んで二歩下がる~
人生はワン、ツー、パンチ!

水前寺清子さんの応援歌を頭の中でぐるぐる再生しながら寝ていたその日の午後。
ベッドから体を起こした瞬間、
左目の中でぷちっ! とはじける感覚の痛みが走りました。
その直後に視界を流れ落ちる鮮血。
ああ私の血。これはまた血管の怪物なの?
シン・ゴジラはN医師が退治してくれたんじゃないの?助けてN医師!

眼球防衛隊リーダーN医師は、私の救助要請にすぐ応えてくれました。入院していてよかったと、初めて思いました。
「痛かった?びっくりしたね」 
N医師が急に頼もしく見えました。
きのうの大手術で「共に危機を乗り越えた連帯感」のような、今までの医師と患者とは少し違う不思議な感覚。これは信頼という感情が生まれた瞬間なのでしょうか。
「痛みを感じるのは眼球の表面だから心配ないです。
穴をあけた跡を縫った場所が少し乾いて引きつれて切れたのでしょう。視力には問題ないので大丈夫ですよ」
眼球の表面は痛みがあって血が広がるのも早いけれど、何が起きたのかすぐに外側から見てわかる。だから痛みがあっても深刻な病状とは限らない。
一方で、眼底内部の網膜は痛みを感じないので何か起きても発見しにくいそうです。
特に切れた部分を縫合しなおす必要はないとのことだったので、眼を洗浄してもらって処置は終わりました。
「何かあったらすぐナースコールで看護師に連絡してくださいね 私も連絡つくようにしておきますから」
私は初めてN医師がやさしく微笑む顔を見た気がしました。

よくサイレント・キラーと言われる病があります。
眼底の病も「サイレント」で発見が遅れ、治療も手遅れになることがあるのです。
急に視力が低下したり、物が二重に見えるなどの自覚症状がある場合は、迷わず眼科での検査をお勧めします。網膜は、心臓のペースメーカーや人工関節のようには部品交換が出来ませんから。

♪ 人生はワン、ツー、パンチ !
歩みを止めずに夢みよう ~

水前寺清子さんの三百六十五歩のマーチが頭から離れません。
昭和43年、私が四歳の頃の歌です。
おばあちゃんが好きだったな、チーターの歌は元気が出るって。大きな声で歌って応援してくれているのかな…
祖母は亡くなってもう20年が経ちます。
ワン、ツー、ワン、ツー!
歌いながら前を向こう。今はコロナ禍で誰とも会えないけれど、孤独なんかじゃない。

私の左目はまだ視界がぼんやりしているものの、手術から5日目にようやく退院許可が出ました。
視力を失うのではないかという恐怖と不安で今回ばかりはちょっと弱気になりなした。
手術中「もういいから終わりにして」とギブアップしたくなる瞬間もありました。
揺れ動く弱い気持ちを察して支えてくださった看護師さんたちに心から「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えたい。

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